88 / 156
(まだ)離縁しません
中編 9
しおりを挟む
フランが真っ赤になってプンプン怒る姿を見てわたしは顔を両手で覆った。
ーー可愛い、可愛くて、鼻血が出そう。
わたしのことを愛してやまない、あの姿。
どうしよう、もう誰にも見せたくない!
「フラン!起きたの?もう!可愛い!アンナのところにおいで!」
わたしは両手を広げてフランが来るのを待った。
さあ!飛び込んでおいで!
「…………………」
「…………………???」
「フラン?」
「ぼく、アンナきらい!」
「えっ?どうして?わたしフランのことこんなに愛してやまないのに?もう大好きすぎて死にそうなのに?」
「アンナ、アル、だっこした!きらいっ!」
「えっ?で、でも、アルバードは弟なの。だから久しぶりだから、それで……」
「き・ら・い」
プイッと横を向くフラン。
まさかの展開にわたしは茫然自失。
言葉を失い、立ったまま動けない。
「フラン様、初めまして。アルバード・ロックスと申します。アンナの弟です」
ソファから立ち上がりフランの前に蹲んで片膝を立てた。
アルバードはわたしにすら見せないとってもかっこいい爽やかスマイルで挨拶をした。
アルバード!かっこいい!
思わず心の声が出そうになったけど、多分、この言葉、フランの前では絶対言ってはいけない言葉。
うん、グッと我慢。
フランはそんなアルバードをじっと見つめ、
「ぼくはフラン・サルバナ。とうさまのむすこなの」と挨拶を返した。
「か、可愛い~!」
今度は思わず声が出た。
キッとわたしを睨むフラン。
「くそババァ!うるさい!」
フランのご機嫌がとっても斜めで、怒られた。
『くそババァ』久しぶりにいただきました。
「ごめん、フラン」
シュンとなったわたしにアルバードが言った。
「姉上、フラン様はあなたの義息子でしょう?こんなことを言われて叱らないなんておかしいでしょう?」
「うん、でもね、最近はそんなこと言われなくなったのよ?」
「最近は……?」
ア、アルバードの顔がこ、怖い。
この子普段は姉想いの優しい弟なんだけど、変なところで生真面目で変なところ堅物だから、スイッチ入ると怖いのよね。
「姉上、こんな所にいたら姉上が不幸になります。まともな服も着せてもらえず、出されたお菓子は見窄らしい物、さらに義息子にはくそババァなんて言われて。情けない。悔しくないのですか?こんな酷いところで暮らしていたなんて」
「そんなことない!とっても幸せよ!それに見窄らしいお菓子って、それは失礼じゃない!わたしが作っ………」
「アル!でてけ!アンナもでてけ!アンナなんかきらい!」
フランはわんわん泣き出した。
生まれてこのかた、他人に叱られたことのないフラン。アルバードが本気で怒っているのを見てすっごくショックだったみたい。
でもアルバードはわたしに言ったのであってフランに言ったわけではないのに。
「フラン、泣かないで」
わたしがフランを抱きしめようとしたらフランが嫌がって、わたしのことを手で振り払った。
小さな手が目に当たって「いたっ!」思わず声が出た。
「姉上!」
アルバードが急いでわたしの目を見てくれた。
「瞼に傷が……」
「えっ?」
瞼をそっと触ると手に血がついていた。
思ったよりも血が付いた。
子供の爪って案外凶器になるのよね。なんて思いながら「平気よ、痛くないわ」と二人に向かって笑ってみせた。
「う、うわあーーーん」
フランがさらに大泣きになった。
「フラン、ちょっと掠っただけなの。子供の爪ってたまにこんなことになるの。アルバードの時も同じことがあったの。だから慣れてるの、大丈夫だから、泣かないで」
「ああ……フラン様、泣かないでください。僕も姉上を振り払って頬に怪我をさせたことがあります。姉上はそんなことで怒りません。薬を塗ったら治りますから」
「フ、フラン、わるいこ、だもん。アンナのこと、きらいって………ち、ちが、………うわーーーん!!」
フランがもう手がつけられないくらい泣き出した。
「フラン泣かないでちょうだい」
わたしがフランをあやそうとすると、わたしの血だらけの顔を見てさらに泣き出す。
あっ、当たり前か……でもその時は何も考えず……
「姉上、まずは顔を拭いてハンカチで傷を押さえて向こうへ行っててください!」
「はい」
指さされ、リナのところへ行った。
するとアルバードがフランを抱きかかえた。
驚いてアルバードの腕の中で暴れ出すフラン。
「おろせ!さわるな!」
ジタバタするフランに、アルバードが静かに一言。
「男だろう?泣くな」
アルバード、かっこいい!
リナにハンカチを受け取りながら二人を見た。
フランはそれでも大泣きして暴れていた。
するとアルバードがもう一度。
「泣くな。フラン様は父様の息子なんだろう?」
「…………うっ……と、とうさまの……むすこ……だもん」
うわぁ、やばい。
フラン、可愛い。
目に涙をいっぱいためて、泣きすぎて目は真っ赤っか。
よく見れば鼻水が………
アルバード、あとで着替えを用意してあげますからね。
ーー可愛い、可愛くて、鼻血が出そう。
わたしのことを愛してやまない、あの姿。
どうしよう、もう誰にも見せたくない!
「フラン!起きたの?もう!可愛い!アンナのところにおいで!」
わたしは両手を広げてフランが来るのを待った。
さあ!飛び込んでおいで!
「…………………」
「…………………???」
「フラン?」
「ぼく、アンナきらい!」
「えっ?どうして?わたしフランのことこんなに愛してやまないのに?もう大好きすぎて死にそうなのに?」
「アンナ、アル、だっこした!きらいっ!」
「えっ?で、でも、アルバードは弟なの。だから久しぶりだから、それで……」
「き・ら・い」
プイッと横を向くフラン。
まさかの展開にわたしは茫然自失。
言葉を失い、立ったまま動けない。
「フラン様、初めまして。アルバード・ロックスと申します。アンナの弟です」
ソファから立ち上がりフランの前に蹲んで片膝を立てた。
アルバードはわたしにすら見せないとってもかっこいい爽やかスマイルで挨拶をした。
アルバード!かっこいい!
思わず心の声が出そうになったけど、多分、この言葉、フランの前では絶対言ってはいけない言葉。
うん、グッと我慢。
フランはそんなアルバードをじっと見つめ、
「ぼくはフラン・サルバナ。とうさまのむすこなの」と挨拶を返した。
「か、可愛い~!」
今度は思わず声が出た。
キッとわたしを睨むフラン。
「くそババァ!うるさい!」
フランのご機嫌がとっても斜めで、怒られた。
『くそババァ』久しぶりにいただきました。
「ごめん、フラン」
シュンとなったわたしにアルバードが言った。
「姉上、フラン様はあなたの義息子でしょう?こんなことを言われて叱らないなんておかしいでしょう?」
「うん、でもね、最近はそんなこと言われなくなったのよ?」
「最近は……?」
ア、アルバードの顔がこ、怖い。
この子普段は姉想いの優しい弟なんだけど、変なところで生真面目で変なところ堅物だから、スイッチ入ると怖いのよね。
「姉上、こんな所にいたら姉上が不幸になります。まともな服も着せてもらえず、出されたお菓子は見窄らしい物、さらに義息子にはくそババァなんて言われて。情けない。悔しくないのですか?こんな酷いところで暮らしていたなんて」
「そんなことない!とっても幸せよ!それに見窄らしいお菓子って、それは失礼じゃない!わたしが作っ………」
「アル!でてけ!アンナもでてけ!アンナなんかきらい!」
フランはわんわん泣き出した。
生まれてこのかた、他人に叱られたことのないフラン。アルバードが本気で怒っているのを見てすっごくショックだったみたい。
でもアルバードはわたしに言ったのであってフランに言ったわけではないのに。
「フラン、泣かないで」
わたしがフランを抱きしめようとしたらフランが嫌がって、わたしのことを手で振り払った。
小さな手が目に当たって「いたっ!」思わず声が出た。
「姉上!」
アルバードが急いでわたしの目を見てくれた。
「瞼に傷が……」
「えっ?」
瞼をそっと触ると手に血がついていた。
思ったよりも血が付いた。
子供の爪って案外凶器になるのよね。なんて思いながら「平気よ、痛くないわ」と二人に向かって笑ってみせた。
「う、うわあーーーん」
フランがさらに大泣きになった。
「フラン、ちょっと掠っただけなの。子供の爪ってたまにこんなことになるの。アルバードの時も同じことがあったの。だから慣れてるの、大丈夫だから、泣かないで」
「ああ……フラン様、泣かないでください。僕も姉上を振り払って頬に怪我をさせたことがあります。姉上はそんなことで怒りません。薬を塗ったら治りますから」
「フ、フラン、わるいこ、だもん。アンナのこと、きらいって………ち、ちが、………うわーーーん!!」
フランがもう手がつけられないくらい泣き出した。
「フラン泣かないでちょうだい」
わたしがフランをあやそうとすると、わたしの血だらけの顔を見てさらに泣き出す。
あっ、当たり前か……でもその時は何も考えず……
「姉上、まずは顔を拭いてハンカチで傷を押さえて向こうへ行っててください!」
「はい」
指さされ、リナのところへ行った。
するとアルバードがフランを抱きかかえた。
驚いてアルバードの腕の中で暴れ出すフラン。
「おろせ!さわるな!」
ジタバタするフランに、アルバードが静かに一言。
「男だろう?泣くな」
アルバード、かっこいい!
リナにハンカチを受け取りながら二人を見た。
フランはそれでも大泣きして暴れていた。
するとアルバードがもう一度。
「泣くな。フラン様は父様の息子なんだろう?」
「…………うっ……と、とうさまの……むすこ……だもん」
うわぁ、やばい。
フラン、可愛い。
目に涙をいっぱいためて、泣きすぎて目は真っ赤っか。
よく見れば鼻水が………
アルバード、あとで着替えを用意してあげますからね。
876
お気に入りに追加
2,644
あなたにおすすめの小説
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
半日だけの…。貴方が私を忘れても
アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。
今の貴方が私を愛していなくても、
騎士ではなくても、
足が動かなくて車椅子生活になっても、
騎士だった貴方の姿を、
優しい貴方を、
私を愛してくれた事を、
例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるゆる設定です。
❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。
❈ 車椅子生活です。
この誓いを違えぬと
豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」
──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。
なろう様でも公開中です。
運命だと思った。ただそれだけだった
Rj
恋愛
結婚間近で運命の人に出会ったショーンは、結婚の誓いをたてる十日前にアリスとの結婚を破談にした。そして運命の人へ自分の気持ちを伝えるが拒絶される。狂気のような思いが去った後に残ったのは、運命の人に近付かないという念書とアリスをうしなった喪失感だった。過去の過ちにとらわれた男の話です。
『運命の人ではなかっただけ』に登場するショーンの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。
わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる