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離縁してあげますわ!
【15】
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殿下の手を振り払いわたしは泣き腫らしたまま職場に戻り仕事を始めた。
部下たちは誰も声をかけてこない。泣いたことに気がついて気を遣ってくれているみたい。
今日ほど眼鏡があってよかったと思った日はない。ついでにマスクをして完全に怪しい女になってしまっているけど、今は表情を隠して誰にも自分の顔を見られたくない。
瞼は腫れて目は真っ赤に充血しているし、鼻は鼻水をかみすぎて真っ赤になっているし、むくんで顔全体パンパン。
はああ、感情的になりすぎた。
ハンクスとの離縁がこんなに拗らせていたなんて。
殿下に対しても半分八つ当たりで半分は彼が嫌いだから。
完璧でどんなに頑張っても殿下には敵わないわたしは多分色んな意味でこじらせている。
だから殿下の言葉なんて信じない。
それからは殿下が話しかけてきても仕事以外での会話は避けるようになった。
不敬だと殿下がわたしを叱ることもできるようなあからさまな態度。でも殿下は何も言ってこなくなった。
そんなある日、たまたまラーダン公爵と廊下ですれ違った。
公爵は侍従や執事を数人連れて歩いていた。その中にハンクスもいた。
離縁して3ヶ月、彼に会ったのは初めて。
ーー関わりたくない。
そう思い公爵に頭を下げさっさと通り過ぎようとした。
「ハンクスの元嫁、ちょっと話がある」
公爵がわたしをいやらしい目で舐めまわした。
ゾクっと鳥肌がたった。
ーー気持ち悪い。
元々公爵のことは苦手でハンクスとの結婚生活の間、わたし自身は関わり合いたくなくて公爵家のパーティーに呼ばれても仕事が忙しいと極力お断りしていた。
どうしても参加しないといけない時は壁の花になり徹底して目立たないように隠れていた。
元々地味眼鏡にとって目立たないように生きることは得意だった。
そう言えば………この舐め回すようないやらしい目を見て、ずっと忘れていたことを突然思い出した。
ううん、なぜあんな辛い思い出を忘れてしまっていたのだろう。忘れられるはずがないのに。
まだ眼鏡すらかけていない幼い頃……お父様と王城に何かの用事で来ていた時、わたしは迷子になってお父様を探していた。
そして大きな男の人に声をかけられて………
知らない部屋に腕を掴まれ連れて行かれた。
そして、「いい子だから静かにしろ」と頬を叩かれた。
真っ赤に腫れ上がった頬。
恐怖で泣くことも声を出すこともできなくて震えていると、その大きな気持ち悪い大人の男はわたしの胸元に手を……
ほんの少し服の上から触られただけなのに気持ち悪くて吐きそうになった。
「やっ!」
怖くて気持ち悪くて目には涙をいっぱい溜めていた。
部屋には気持ち悪い大人の男の人。
扉はなぜか少しだけ開いていた。
わたしは恐怖で動かない体を『動いて!』と心の中で何度も自分に言い聞かせた。
このままでは……幼いながらに身の危険を感じた。
頭を撫でられ頬を撫でられ、服の上から体を触られ始めた。
「ひっ!!」
声が出た。
「や、やだ!!助けて!誰か!やああああああーーー!!」
生まれて初めてこんな大きな声を出した。
大人の男は、「静かにしろ!」とわたしの頬をまた叩いた。
「いやああああ!!!誰か助けてぇーー!!」
扉に向かいかけ出した。
少し扉が開いていたので、そのまま廊下へと走って出ると、わたしの声を聞いた人たちが駆け寄ってきた。
そしてわたしは安心したのかそのまま気を失った。
そうだ、その後、何も覚えていない。
あの男の人の顔は、この公爵だった。
なぜ忘れていたのか?
恐怖で気を失い、記憶を失った?
目が少し悪かったのも確かだけどそう言えばあの頃から両親から分厚い眼鏡をかけるように言われた。
そんなに目が悪かったわけではないのに。
そしてその眼鏡のせいでもっと視力が落ちてきたような……
「ハンクスの元嫁?聞いているのか?」
ハッと我に返った。
わたしは今どんな顔をしているだろうか?幼い女の子に性的悪戯をしようとしたこの男は、わたしを覚えているのかしら?
知らないのかしら?
公爵だから、捕まらなかったの?
わたしは幼かったし記憶も消えて覚えていないけど、こんなふうに堂々と過ごしていると言うことはこの人は何も罪を問われていないと言うこと?
「公爵様、何か御用でしょうか?」
わたしは眼鏡をかけていてよかったと思った。彼はあの悪戯しようとした女の子がわたしだとは気づいていないようだから。
部下たちは誰も声をかけてこない。泣いたことに気がついて気を遣ってくれているみたい。
今日ほど眼鏡があってよかったと思った日はない。ついでにマスクをして完全に怪しい女になってしまっているけど、今は表情を隠して誰にも自分の顔を見られたくない。
瞼は腫れて目は真っ赤に充血しているし、鼻は鼻水をかみすぎて真っ赤になっているし、むくんで顔全体パンパン。
はああ、感情的になりすぎた。
ハンクスとの離縁がこんなに拗らせていたなんて。
殿下に対しても半分八つ当たりで半分は彼が嫌いだから。
完璧でどんなに頑張っても殿下には敵わないわたしは多分色んな意味でこじらせている。
だから殿下の言葉なんて信じない。
それからは殿下が話しかけてきても仕事以外での会話は避けるようになった。
不敬だと殿下がわたしを叱ることもできるようなあからさまな態度。でも殿下は何も言ってこなくなった。
そんなある日、たまたまラーダン公爵と廊下ですれ違った。
公爵は侍従や執事を数人連れて歩いていた。その中にハンクスもいた。
離縁して3ヶ月、彼に会ったのは初めて。
ーー関わりたくない。
そう思い公爵に頭を下げさっさと通り過ぎようとした。
「ハンクスの元嫁、ちょっと話がある」
公爵がわたしをいやらしい目で舐めまわした。
ゾクっと鳥肌がたった。
ーー気持ち悪い。
元々公爵のことは苦手でハンクスとの結婚生活の間、わたし自身は関わり合いたくなくて公爵家のパーティーに呼ばれても仕事が忙しいと極力お断りしていた。
どうしても参加しないといけない時は壁の花になり徹底して目立たないように隠れていた。
元々地味眼鏡にとって目立たないように生きることは得意だった。
そう言えば………この舐め回すようないやらしい目を見て、ずっと忘れていたことを突然思い出した。
ううん、なぜあんな辛い思い出を忘れてしまっていたのだろう。忘れられるはずがないのに。
まだ眼鏡すらかけていない幼い頃……お父様と王城に何かの用事で来ていた時、わたしは迷子になってお父様を探していた。
そして大きな男の人に声をかけられて………
知らない部屋に腕を掴まれ連れて行かれた。
そして、「いい子だから静かにしろ」と頬を叩かれた。
真っ赤に腫れ上がった頬。
恐怖で泣くことも声を出すこともできなくて震えていると、その大きな気持ち悪い大人の男はわたしの胸元に手を……
ほんの少し服の上から触られただけなのに気持ち悪くて吐きそうになった。
「やっ!」
怖くて気持ち悪くて目には涙をいっぱい溜めていた。
部屋には気持ち悪い大人の男の人。
扉はなぜか少しだけ開いていた。
わたしは恐怖で動かない体を『動いて!』と心の中で何度も自分に言い聞かせた。
このままでは……幼いながらに身の危険を感じた。
頭を撫でられ頬を撫でられ、服の上から体を触られ始めた。
「ひっ!!」
声が出た。
「や、やだ!!助けて!誰か!やああああああーーー!!」
生まれて初めてこんな大きな声を出した。
大人の男は、「静かにしろ!」とわたしの頬をまた叩いた。
「いやああああ!!!誰か助けてぇーー!!」
扉に向かいかけ出した。
少し扉が開いていたので、そのまま廊下へと走って出ると、わたしの声を聞いた人たちが駆け寄ってきた。
そしてわたしは安心したのかそのまま気を失った。
そうだ、その後、何も覚えていない。
あの男の人の顔は、この公爵だった。
なぜ忘れていたのか?
恐怖で気を失い、記憶を失った?
目が少し悪かったのも確かだけどそう言えばあの頃から両親から分厚い眼鏡をかけるように言われた。
そんなに目が悪かったわけではないのに。
そしてその眼鏡のせいでもっと視力が落ちてきたような……
「ハンクスの元嫁?聞いているのか?」
ハッと我に返った。
わたしは今どんな顔をしているだろうか?幼い女の子に性的悪戯をしようとしたこの男は、わたしを覚えているのかしら?
知らないのかしら?
公爵だから、捕まらなかったの?
わたしは幼かったし記憶も消えて覚えていないけど、こんなふうに堂々と過ごしていると言うことはこの人は何も罪を問われていないと言うこと?
「公爵様、何か御用でしょうか?」
わたしは眼鏡をかけていてよかったと思った。彼はあの悪戯しようとした女の子がわたしだとは気づいていないようだから。
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