あなたとの離縁を目指します

離縁してあげますわ！

【11】

「わたしはあなたを信じていた。だからあなたに女性の影が見えてもそれは浮気ではないと思っていたわ。だけど違った。
　だからこそ、結婚の時の約束通り、あなたを『束縛』しないと決めたの」

「俺は公爵家の執事なんだ」

「ええ、だからと言って公爵家の裏仕事ばかりさせられるのはどうなのかしら？」

「えっ？」

　驚いた顔をしたハンクス。
　知らないと思っていたの？

「あなたは公爵家で問題が起こると解決するために使用人たちに内情を聞く時、男の人にはお金や女を当てがい、女の人にはお金や男を当てがっていたんでしょう？時には自分が色恋をチラつかせて、それは屋敷内だけにとどまらず、他でも」

「知っていたのか……」ハンクスは唇を噛んで俯いた。

「知りたくなんてなかったわ。だけどあなたに本気になった公爵家のメイドがわたしに別れて欲しいと手紙を送ってきたり直接会いにきた人もいたの。それに城内でもあなたを好きすぎてわたしに敵意を向ける人がいたわ」

　そう、ハンクスを愛しているからと。
　ハンクスが愛しているのはわたしなのに。
　あなたのような優秀な頭だけが取り柄の女に捕まりハンクスが可哀想だと。
　さっさと別れてやって欲しい。

　わたしは彼と寝たのと嗤って言った人もいたわ。

「嘘だろう？君に直接？」

「地味で眼鏡をかけた頭しか取り柄のないわたしはハンクスには相応しくないらしいわ」

　ハンクスは確かにカッコいい。それに女性に対して優しく、彼の笑顔に何度も癒された。

　優しく微笑む彼に女性は思わず頬を染めてしまう。公爵はハンクスを自分の尻拭いにハンクスをいいように利用していた。

　ハンクスの子爵家は公爵家により与えられた地位で、ずっと執事として仕えた家柄だから、ハンクスが逆らうことはないことを知っていたから。

　だからわたしとも結婚したのよね？

　じゃあ今回わたしのベッドでミュエルさんと寝たのは？

　わたしに見せつけるためだけ？違うわよね？そろそろ離縁したかったから。

　わたしを傷つけわたしから離縁を言わせたかったのよね？

　ハンクスの思惑通り、あなたの意思に沿ってあげるわ。

「ハンクス、あなたの不貞を理由に離縁してあげるわ」

「………」

「なぜ黙るの？わたしから離縁すると言ってもらわないと公爵の手前離縁できないのでしょう？」

「違う………お前を傷つけたかっただけだ。後腐れなく遊べる女を抱いて、それをお前に見せつけて、イライラを解消しただけ」

「そう、そうね。それもあるかもしれないわね。わたしを愛していないもの、わたしを傷つけたかったのも確かよね？でもだからこそ離縁したかったのでしょう？いい加減にうんざりしていたから。公爵には絶対わたしと離縁してはいけないと言われていたんでしょう？」

「知っていたのか？」

「結婚まで公爵に決められて離縁することも公爵に決められるあなたの人生に同情するわ。わたしから離縁をすると言えば公爵も何も言えないもの、わたしもあなたとこのまま結婚していれば仕事上、既婚者だから独身と違って甘くみられなくて助かっていたわ。だからあなたがわたしを利用しようとしていたけど、騙したけど、ずるいのはわたしも同じ。
　それにわたしはあなたをどんなに愛していてもあなたが欲しい情報を与えることはないわ。わたしにとって仕事はあなたよりも大切なの」

「アリアと結婚してから情報を全く与えてもらえず、公爵には散々嫌味を言われたよ」

「言わないわ。わたしは仕事に誇りを持っているもの。たとえ父や親友だろうと簡単に国の重要事項は話さないわ、当たり前でしょう？」

「……そうだな」

　諦めたように呟くハンクス。