62 / 156
離縁してあげますわ!
【8】
しおりを挟む
朝目覚めて慌てて仕事の用意を始めた。
「あっ、今日はおやすみ」
思い出して手を止めた。制服をクローゼットへと戻した。
あまりにも忙し過ぎたこの二月。休みなんてほとんどなくて仮眠しては仕事。
部下達には少しでも休憩をとって欲しくて夜もずっと一人で仕事をしていた。
おかげで視力がかなり悪くなって眼鏡を作り直さなければぼんやりとしか見えなくなってきた。
「眼鏡代は殿下に請求ね」
ファラが部屋にやってきて水差しを新しいものと変えてくれた。
新しいコップに冷たい水を入れて喉を潤した。
冷たくて美味しい。
「アリア様、ソファで眠られたんですね?」
少し渋い顔をしたファラが言った。
「シーツや毛布、枕全てハンクス様の部屋のベッドに待って行って、アリア様のものは真新しいものに変えたんですよ」
「そう……ありがとう。でも思い出すと気持ち悪くて鳥肌ものよ」
苦笑しながら返事をした。
でも二人の事後すぐにあのベッドで平気で眠ってしまったような気がするけど……うん、あの日のことは忘れよう。
ソファの上で久しぶりに微睡んでいると屋敷の外が騒がしい。
窓から覗くと女性が何か騒いでいた。
どうしたのかしら?
そっと窓から顔を出してみた。
「ハンクスは?ハンクスを出して!」
うーん、あれはミュエルさん?ハンクスは今日当直だったわよね?
帰ってくるのは昼くらいかしら?
ギャザが彼女の対応をしている。
うわっ!
ミュエルさんが手を振り上げた!
ギャザ!避けて!
心の中で叫んだ。
思いっきりギャザの頬を叩いた。
ギャザは彼女の右手を掴んでこれ以上叩かれないようにしたのはいいけど、彼女は暴れてる。
玄関の扉の隙間からそっと顔を覗かせるスレン。12歳のスレンには教育上宜しくないわ。
そう思ってスレンを家に連れ戻そうと思って部屋を出て動こうとしたら……
ハンクス?
ハンクスが玄関から慌てて出てきたのが目に入った。
「ミュエル?何してるんだ?こんなところまで来て!」
ハンクスの大きな声が聞こえてきた。
「ハンクス!もう!全然あれから会ってくれないのね?わたしお父様に叱られて仕事も辞めさせられたの!なんとか屋敷を抜け出して会いにきたのよ!」
ミュエルさんのその言葉にハンクスが「ええっ?」と驚いていたけどギャザやわたしだって驚いた。
浮気してわたしのベッドで情事を行っただけでも十分凄い!と思ったけど、今度は家を抜け出してハンクスに会いに来た……しかもハンクスにはわたしと言う妻がいるのに。
ハンクスに抱きつき胸に顔を埋めるミュエルさんをわたしは窓からこっそりと見つめていた。
ふと目があったのはギャザ。ギャザはわたしが見ていることに気がついて急いで抱き合う二人を引き離そうとした。
「もう!触らないで!わたしとハンクスを引き離そうなんてしないでちょうだい」
ミュエルさんはギャザに文句を言ってハンクスから離れない。
ハンクスの顔はちょうどわたしからは見えない。彼の後ろ姿をわたしは黙ってみていた。
するとわたしの方へと視線を向けたミュエルさんと目があった。
やばっ。
こっそり覗いているのがバレてしまった。
ううん、多分、彼女は気がついていてハンクスに抱きついている。わたしに見せつけるために。
はあーー。
ため息をついたわたしは窓から離れた。
離縁しなきゃ。彼を利用したのはわたしも同じ。彼がわたしに近づいた理由だって本当は気づいていた。
わたしからこの国の財政についての情報を色々知りたかったのだ。どこに予算を振り分けられているのか、これからの公共事業をどこを重視するのか。少しでも情報が入ればハンクスの勤めている公爵家にとっても有利になる。
公共事業によっては早めに必要な物資を買い占めておくこともできる。たくさんの人夫を集めておけば公共事業を請け負うことだってできる。
そんな算段をする貴族はたくさんいるしわたしに『食事でもしませんか?』とか『ぜひお茶会に来てください』と声をかけてくる貴族は後を絶たない。
でもまさかわたしに擦り寄って結婚までさせようとするなんて……ラーダン公爵はひとの心をなんだと思っているのかしら?
わたしの恋心を返してほしい。
本気でハンクスを好きになって結婚したのに。ハンクスはただ雇い主である公爵に言われるがままにわたしを陥落させてわたしを夢中にさせて結婚までした。
好きでもないわたしと結婚して好きでもないわたしを抱いた。
こんな眼鏡の地味なわたしを。
でもわたしの部屋でわたしのベッドで(元夫婦のベッド)で情事をしたのは、わたしとの離縁をしたいと言うアピールなのだろう。
今目の前で二人が抱きしめあっていたのもわたしへのアピール?
ああ、でも、ミュエルさんが家の中に入ってきて『別れてください!』なんて今言われたら……わたしは『ハンクスなんて差し上げるわ』なんて意地を張って言ってしまいそう。
本当はきちんと話し合ってお別れしたいのに。
彼には愛はなかったかもしれないけどわたしにとっては初恋で全てが初めての人だった。
別れるならちゃんと向き合いたかったな。
わたしは憂鬱な気持ちでソファに黙り込んで座って下で現在どうなっているのか確かめることもできず座り続けていた。
ううん、怖くて動けなかった。
「あっ、今日はおやすみ」
思い出して手を止めた。制服をクローゼットへと戻した。
あまりにも忙し過ぎたこの二月。休みなんてほとんどなくて仮眠しては仕事。
部下達には少しでも休憩をとって欲しくて夜もずっと一人で仕事をしていた。
おかげで視力がかなり悪くなって眼鏡を作り直さなければぼんやりとしか見えなくなってきた。
「眼鏡代は殿下に請求ね」
ファラが部屋にやってきて水差しを新しいものと変えてくれた。
新しいコップに冷たい水を入れて喉を潤した。
冷たくて美味しい。
「アリア様、ソファで眠られたんですね?」
少し渋い顔をしたファラが言った。
「シーツや毛布、枕全てハンクス様の部屋のベッドに待って行って、アリア様のものは真新しいものに変えたんですよ」
「そう……ありがとう。でも思い出すと気持ち悪くて鳥肌ものよ」
苦笑しながら返事をした。
でも二人の事後すぐにあのベッドで平気で眠ってしまったような気がするけど……うん、あの日のことは忘れよう。
ソファの上で久しぶりに微睡んでいると屋敷の外が騒がしい。
窓から覗くと女性が何か騒いでいた。
どうしたのかしら?
そっと窓から顔を出してみた。
「ハンクスは?ハンクスを出して!」
うーん、あれはミュエルさん?ハンクスは今日当直だったわよね?
帰ってくるのは昼くらいかしら?
ギャザが彼女の対応をしている。
うわっ!
ミュエルさんが手を振り上げた!
ギャザ!避けて!
心の中で叫んだ。
思いっきりギャザの頬を叩いた。
ギャザは彼女の右手を掴んでこれ以上叩かれないようにしたのはいいけど、彼女は暴れてる。
玄関の扉の隙間からそっと顔を覗かせるスレン。12歳のスレンには教育上宜しくないわ。
そう思ってスレンを家に連れ戻そうと思って部屋を出て動こうとしたら……
ハンクス?
ハンクスが玄関から慌てて出てきたのが目に入った。
「ミュエル?何してるんだ?こんなところまで来て!」
ハンクスの大きな声が聞こえてきた。
「ハンクス!もう!全然あれから会ってくれないのね?わたしお父様に叱られて仕事も辞めさせられたの!なんとか屋敷を抜け出して会いにきたのよ!」
ミュエルさんのその言葉にハンクスが「ええっ?」と驚いていたけどギャザやわたしだって驚いた。
浮気してわたしのベッドで情事を行っただけでも十分凄い!と思ったけど、今度は家を抜け出してハンクスに会いに来た……しかもハンクスにはわたしと言う妻がいるのに。
ハンクスに抱きつき胸に顔を埋めるミュエルさんをわたしは窓からこっそりと見つめていた。
ふと目があったのはギャザ。ギャザはわたしが見ていることに気がついて急いで抱き合う二人を引き離そうとした。
「もう!触らないで!わたしとハンクスを引き離そうなんてしないでちょうだい」
ミュエルさんはギャザに文句を言ってハンクスから離れない。
ハンクスの顔はちょうどわたしからは見えない。彼の後ろ姿をわたしは黙ってみていた。
するとわたしの方へと視線を向けたミュエルさんと目があった。
やばっ。
こっそり覗いているのがバレてしまった。
ううん、多分、彼女は気がついていてハンクスに抱きついている。わたしに見せつけるために。
はあーー。
ため息をついたわたしは窓から離れた。
離縁しなきゃ。彼を利用したのはわたしも同じ。彼がわたしに近づいた理由だって本当は気づいていた。
わたしからこの国の財政についての情報を色々知りたかったのだ。どこに予算を振り分けられているのか、これからの公共事業をどこを重視するのか。少しでも情報が入ればハンクスの勤めている公爵家にとっても有利になる。
公共事業によっては早めに必要な物資を買い占めておくこともできる。たくさんの人夫を集めておけば公共事業を請け負うことだってできる。
そんな算段をする貴族はたくさんいるしわたしに『食事でもしませんか?』とか『ぜひお茶会に来てください』と声をかけてくる貴族は後を絶たない。
でもまさかわたしに擦り寄って結婚までさせようとするなんて……ラーダン公爵はひとの心をなんだと思っているのかしら?
わたしの恋心を返してほしい。
本気でハンクスを好きになって結婚したのに。ハンクスはただ雇い主である公爵に言われるがままにわたしを陥落させてわたしを夢中にさせて結婚までした。
好きでもないわたしと結婚して好きでもないわたしを抱いた。
こんな眼鏡の地味なわたしを。
でもわたしの部屋でわたしのベッドで(元夫婦のベッド)で情事をしたのは、わたしとの離縁をしたいと言うアピールなのだろう。
今目の前で二人が抱きしめあっていたのもわたしへのアピール?
ああ、でも、ミュエルさんが家の中に入ってきて『別れてください!』なんて今言われたら……わたしは『ハンクスなんて差し上げるわ』なんて意地を張って言ってしまいそう。
本当はきちんと話し合ってお別れしたいのに。
彼には愛はなかったかもしれないけどわたしにとっては初恋で全てが初めての人だった。
別れるならちゃんと向き合いたかったな。
わたしは憂鬱な気持ちでソファに黙り込んで座って下で現在どうなっているのか確かめることもできず座り続けていた。
ううん、怖くて動けなかった。
1,044
お気に入りに追加
2,644
あなたにおすすめの小説
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
半日だけの…。貴方が私を忘れても
アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。
今の貴方が私を愛していなくても、
騎士ではなくても、
足が動かなくて車椅子生活になっても、
騎士だった貴方の姿を、
優しい貴方を、
私を愛してくれた事を、
例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるゆる設定です。
❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。
❈ 車椅子生活です。
この誓いを違えぬと
豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」
──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。
なろう様でも公開中です。
運命だと思った。ただそれだけだった
Rj
恋愛
結婚間近で運命の人に出会ったショーンは、結婚の誓いをたてる十日前にアリスとの結婚を破談にした。そして運命の人へ自分の気持ちを伝えるが拒絶される。狂気のような思いが去った後に残ったのは、運命の人に近付かないという念書とアリスをうしなった喪失感だった。過去の過ちにとらわれた男の話です。
『運命の人ではなかっただけ』に登場するショーンの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。
わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?
日々埋没。
恋愛
公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。
※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。
またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる