あなたとの離縁を目指します

二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。

【24】

　ーーイリアナ！

　侍女の体を押しのけた。

　イリアナが空を飛んでいく姿をただ見ているしかなかった。

「イ、イリアナ様ぁ……」

　声を震わせ俺の横で床に座り込み泣き出す侍女。

　俺たちは互いにただ呆然とイリアナを見送った。


「………リンデの森？」

　俺がつぶやくと、驚いた顔をした侍女。

「ご存知なのですか？リンデの森……この国にリンデの森を知っている人がいるなんて……それも王太子殿下であるセデン殿下が……」

「君はイリアナのそばに仕えてくれているミーナだったかな？」

「は、はい……あ、あの、不敬をお許しください」

　俺とのキスのことを思い出したミーナは真っ青になりガタガタと震え出した。

「何故君は俺に抱きついてきた？」
　俺も操られるように抱きしめてキスをした。
　まさかアイリーン？

　アイリーンに今日出会ってから少しずつおかしくなっている。心が不安定で落ち着かない。

「わ、わかりません……殿下のお顔を見たら体が勝手に……動いてしまいました」

　そう言って泣き出した。何度も何度も謝りながら「イリアナ様を傷つけてしまった」と呟いていた。

　ーーそれは俺の方だ。

　また傷つけた。ずっと会わずに過ごしたこともイリアナを傷つけた。さらに信頼していた侍女との浮気現場を見せつけた。

　俺は巻き戻った今回はイリアナを幸せにしたかった。

　会わないで幸せになんて出来ないのはわかっていた。それでもイリアナの生活環境を少しでも改善させて過ごしやすくして、俺は……離縁するつもりだった。

　今回は「離縁しましょう」という言葉をイリアナの口からあんな苦しそうな顔で言わせたくなかった。

　幸せな時間を今度こそ過ごしてもらうためにアイリーンを排除して、オーグのところへ帰してやりたかった。



「あら？セデン様？イリアナ様はどこかしら？無様に地面で死んでる？それともまだ息だけはしているのかしら？」

　不気味なほどの笑顔でアイリーンがやってきた。

「………何故、ここに？」

　俺は怒りで殴りかかりそうになっていた。

「ふふっ、イリアナ様があなたたちの姿を見てショックで飛び降りる、そう暗示をかけたの。成功したでしょう？」

「……下を見ればわかるだろう？」

　ベランダをチラッと横目で見た。

「うーん、だけど見に行ってあなたに後ろから押されてわたしが落ちてしまうかもしれないわ。誰か見てきて」

　アイリーンは連れてきた侍女に命令してベランダに行かせた。




「な、何もありません」
　恐々とそう言った侍女にイライラしながら「暗いから見えなかったの？」と怒り出した。

「下はあかりが灯っていて真っ暗ではありません……な、何もなかったです」

「アイリーン、君はただの伯爵令嬢、それもこの城には来れないように禁止命令が出されている。先ほどもそう伝えたはずだ、君を拘束する」

　俺の言葉に部屋の外にいた騎士が入ってきた。

「何を言ってるのかしら？わたしは妃よ？あなたの大切な愛する妻よ？イリアナ様はずっとわたしたちの関係を悲しそうに見ていたじゃない？」

「俺の妃はイリアナ一人だけだ、君のことなど娶った覚えはない」

　ーーそれは巻き戻る前の話だろう？

　アイリーンの話が噛み合わない。