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二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。
【22】
しおりを挟むイリアナが目の前で矢に撃たれ死んだ。
『離縁しましょう』
彼女の言葉がそれまで灰色に染まっていた景色が、俺の澱んだ心が、スッキリとして周囲が色鮮やかに明るくなった。
そして……
『駄目だ。君とは離縁はしない』
『どうして?愛していないのならわたしを解放してください!』
イリアナの必死な言葉。だけどそれは受け入れられない。
だって………
『僕は……君を……』
俺が最後の言葉を言う前に
『あっ……』
イリアナは胸に矢を射られ心臓を貫かれた。
俺の目の前で死んでいこうとしている。
『イリアナぁ!死ぬな!目を閉じないで、愛しているんだ!ずっと君だけを』
どうして俺はアイリーンに入れ込み現を抜かしたのか。
俺が叫び泣いている横にアイリーンはやって来た。
『ほんと邪魔だったのよね。イリアナ!でも死んじゃうと虐められないから殺したのはわたしではないわ』
アイリーンはニヤッと嗤った。
『俺たちから離れろ!出て行け!』
怒りの感情が湧く。
愛してもいないアイリーンを俺は何度も抱いた。
イリアナの見えるところでも。彼女の目の前でアイリーンに何度愛を囁いただろう。
イリアナに対してどれだけのことをしてきたのか。
思い出すだけで胸が痛くなり吐き気がしてきた。
いっそ死んでしまいたい。
イリアナのいない世界など俺には必要ない。
俺はイリアナの体を抱きかかえてそのままベランダから飛び降りた。
怖い夢を見た。
目覚めるといつもの部屋にいた。
重たい体をなんとか起こしてベッドの壁に体を委ね膝を抱えてボーッとしていた。
ーー今は『いつ』なんだろう……
時間が巻き戻ったことはすぐ理解した。
ベランダを飛び降りた時、オーグが俺の頭の中で叫んだ。
『セデン、時間を巻き戻す!だがお前を許したわけではない!イリアナにはもう近づくな!次はイリアナを幸せにしてやりたいんだ』
愛する妻と過ごしていた部屋にはもう行くことはない。
俺はイリアナとは別の部屋で過ごすことにした。
もう彼女と接触することが怖かった。
(また不幸にしてしまう)
政略結婚だった。
イリアナが暮らすマルワ国は小さな国。
援助と引き換えにイリアナはジョワンナ国に嫁いだ。
マルワ国の王女として生まれ、わずかばかりの癒しの力を我が国が欲しがった。聖女と言われるほどの力はない。ほんの少し魔力がありほんの少し治癒力があるだけ。
そんなイリアナを欲した王がマルワ国に金銭援助を申し入れ彼女は身売りされた。
多分イリアナはそう思っているだろう。
本当は俺が彼女を欲して妻にと迎えたのに。
マルワ国ではイリアナは虐げられていた。俺がただ妻にと彼女を望めば妹のマルチナをと挿げ替えられてしまう可能性が強かった。
聖女と名高いマルチナ嬢。
美しく聡明で国民に愛されている王女。
ジョワンナ国は大国で弱小のマルワ国にとっては喉から手が出るほど俺の妃の立場を欲していた。
だから金銭的援助をする代わりに従わせイリアナを人質代わりに妻として迎えることを提案した。
イリアナの厄介払いになるし、大切なマルチナ嬢を人質にしないで済むと喜んでマルワ国は差し出した。
嫁いでからのイリアナは何も知らされていないため怯える日々が続いた。だからできるだけそばに寄り添いいろんなことを教えた。
やっと笑顔も出始め、なんとかジョワンナ国で暮らしていけるかもしれないと自信がつき始めた頃、俺は何故か妃としてアイリーン様を第二妃として迎えた。
それからの俺はイリアナのことなど忘れたかのようにアイリーンの元に通うようになった。
今ならそれがおかしいと言うことがわかる。だけど巻き戻しの前は、アイリーンを見ると何も考えられなくなりイリアナをみると見下してしまう。
側近のレンを呼んだ。
「イリアナは?」
「多分部屋で大人しくしていると思いますが?」
ーーこの頃は……アイリーンがまだ嫁いできていないはず……なのにイリアナは嫁いできてからずっとこの城の中でも冷遇された。
俺がそばにいればそれなりに周りも対応するのだが俺のいない時は酷いものだった。
なんとかしようと動いたがイリアナから離れると彼女への愛情が薄れてしまう。共に食事をするようにして、その時だけはイリアナを愛していることを感じる。
そして少し時間が経つとイリアナへの愛情が薄れる。そんな繰り返しの生活からアイリーンが妻になるとイリアナのことを鬱陶しく感じ、イリアナが悲しむ姿をほくそ笑む自分がいた。
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