あなたとの離縁を目指します

たろ

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二度目の人生にあなたは要らない。離縁しましょう。

【3】

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「はああああ~、なんとかなった…………」

 最後の一人をとりあえず治療してわたしはその場にへたり込んだ。

「お疲れ様です!」
「ありがとうございました」

 たくさんの人からお礼を言われた。

 全ての人を完全に治療することはできなかったけど、酷い怪我の人の方がなぜか癒しの魔法は効果があった。失くなったはずの腕は元に戻り、もう切断するしかない足は綺麗に治った。

 逆に癒しの魔法をかけなくてもいずれは完全に治るであろう肋の骨折は治らなかった。

「手を抜いたわけではないんです!」
 必死で言い訳をした。

 騎士の人達はわたしの行う治療をちゃんと見てくれていた。

 だから苦笑しながら「治さないといけない人にしか効かない魔法なのかもしれないな」と言ってくれた。

「たぶん……明日、わたしに体力と気力が戻れば簡単な怪我の人も治せる気がします。今日はこのままでは危険な人しか治療できなかったんだと思います。わたしの魔力量には限界があるので………自然と見極めてしまっていたのかも……」

 なんとも信じ難い言い訳をして頭を下げた。

 この国に嫁いで一年あまり、無能の聖女の姉はずっと無能で、セデンのお飾りの妻だった。

 どこにいても蔑まれ居た堪れずに過ごすのが当たり前で……こんなふうに感謝されたことはほとんどなかった。

「………そう言えば……セデンは?」

「セデン様は今騎士達と共に魔獣がどうして突然変異したのか調査へ向かわれました」

「………そうなの」

 時間を巻き戻ってからまだセデンに会えずにいた。

 この頃のセデンはまだ……わたしに優しくて…わたしを愛してくれていた……はず。

 会いたい?ううん、たぶん、彼に会えば憎しみと辛かった日々しか思い出さない。

 アイリーン妃と睦まじく過ごす姿を、彼女との情事を見せられたあのショックを……思い出すだけで吐きそうになる。

 わたしを矢で射殺したのは誰だったのかしら?セデンの命令?それともアイリーン妃?宰相?

 あまりにもみんなに疎んじられすぎて、犯人が誰なのかもわからない。

 明日残りの怪我を治療したらこの城を去ろう。

 今度は殺されたくない。わたしはわたしの自由を勝ち取りたい。そして最期まで生き残ってやるわ。

 悔しいじゃない。

 この城でまた隠れながら馬鹿にされながら過ごすなんて。

 だけど今は……「お腹が空いたぁ」

 疲れて歩くこともできない。


 ヘトヘトになってしゃがみ込んでいると
「イリアナ妃?」と声が聞こえてきた。

 振り返ると…セデンの弟の
「マルセル殿下?」がわたしに声をかけてきた。

「かなりの怪我人が出ていると聞いて、医師が足りないと思い、城の外から医師を連れてきたんだけど……これは……」

 ーーああ、そうだよね?
 今までのわたしなら数人助けたところで魔力は尽きてしまうはずだもの。

 それが見渡す限り治療された騎士がいるんだもの。

「軽い傷の人達はなぜか治らなくて……明日になれば大量と魔力が回復すると思うので……とりあえず怪我の治療をしてあげてください……わたしは……(お腹が空いたので)……失礼いたしますわ」

 フラフラと立ち上がりミーナを探す。

 ーーミーナ?どこ?

 この国で唯一わたしが安心して身も心も委ねられるのはミーナしかいない。

 ミーナに「お疲れ様でした!」と褒めて欲しい。

「あ、危ない!」
 足がもつれて転びそうになったわたしをマルセル殿下が支えてくれた。

 彼の微かに匂ってくる香水の匂いで顔を見なくても分かる。

「殿下……ありがとうございます……」

 力なくお礼を言うと体がふわっと浮いた。

 ーーへっ?

「あわわわっ」
 ーーな、何?なんで?

 マルセル殿下がわたしを……お姫様抱っこしてる⁈

「歩くのもキツそうですし、このままあなたの部屋へ連れて行きましょう」

「い、いやいや、少し休めば、大丈夫ですよ?」

 ーーむり無理ムリ、だって…マルセル殿下ってわたしのこと嫌いだったよね?

 嫁いできて2年間、死ぬまで嫌われていた記憶しかないもの。

「そんな真っ青な顔をしているのに?」

「…………では他の人にお願いしますので、おろしてください。あなたにこんなことさせられません……重たいですし……」
 ーー不敬で殺されそうだもの。

「イリアナ妃が重い?あなた、まともに食事をしているんですか?そんなに痩せて」

 ーーそれなりに?セデンがいる時はまともに食べれるもの。いない時は……ミーナが上手に食べ物を調達してくれるわ……

 ああ、そう言えば、ミーナが亡くなった後の食事は最悪だったわ。

 いつもお腹が空いて……いたわ……………


 わたしは………マルセル殿下の腕の中で気を失ってしまっていた。










「マルセル殿下!わたしがイリアナ妃を連れて行きます」

 護衛騎士がマルセル殿下のそばに慌てて行くと、イリアナ妃を受け取ろうと手を出した。

「うん?大丈夫だよ。彼女はかなりの活躍をしたみたいだね?義弟として少しは労わないといけないだろう?部屋に連れて行くよ、誰か一人医師も連れてきてよ。僕が連れてきた医師、手が空いてる人も多そうだからね?」

「わかりました」

 騎士は急ぎ医師に声をかけに行った。

「イリアナ妃……お疲れ様……」

 イリアナには聞こえていないけどマルセルの声はどこまでも優しく、イリアナを抱くマルセルの手はとても大切なものを抱いているように周りには見えていた。

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