15 / 156
離縁してください
【15】
しおりを挟む
俺が廊下に立っていると執事のビルがそばにやってきた。
「アレック様……今のご気分は?」
ーーそんなの最悪だってわかるだろう?
目の前で愛するシルビアが他の男と楽しそうに話しているんだから。俺は部屋の中にも入れず外に漏れてくる声を聞いてどうしていいのかすらわからないのに。
「この光景が貴方がソニア殿下と過ごされていた光景で、シルビア様が見たものと同じだとは思いませんか?」
「俺は……好きでソニア殿下のそばにいた訳ではない。お前にだけは話していたはずだ」
「はい、そして絶対にシルビア様に話さないと貴方と約束をしました。どんなにシルビア様が泣かれていてもわたしは話すことができませんでした。この悔しさがお分かりになりますか?」
「仕方がないだろう、シルビアを守るためだ」
「そうです、シルビア様が知れば怖い思いをされます。でも……知ることがあれば悲しい想いをされなくてすみました…あんな辛そうなお顔を毎日私達も見なくてすみました」
「俺は間違えていたのか?」
「そこまでは申しません。ただ、せめてシルビア様を想っていることくらいは伝えて差し上げたら良かったと思います。
『もう少しだけ待っててほしい』それだけでも理由は言えなくても、聡いシルビア様なら何も聞かずに待っていてくれたかも知れませんね」
ふと中から聞こえる笑い声。
俺が見るシルビアはいつも寂しそうにしていた。何か言いたそうに。だけど俺は優しく話しかける事もなかった。どこで影が見ているかわからない。常に緊張して気が張り詰めていた。
言い訳でしかない……そんな中でもシルビアに伝える方法はあったはずだ。それを疎かにしていたのは俺だ。
少し聞こえてくる声が大きくなった。
ミゼルが帰り際で扉の近くに二人ともいるようだ。
「ミゼル、今日は会いにきてくれてありがとう。団長にも伝えたんだけど、屋敷でお菓子作りを始めようと思うの。わたしが届けることはできないけど屋敷の者が届けてくれると言ってくれているの。わたし、少しでも早くまたみんなに会えるように頑張るわ」
「みんな待ってる。と言ってもお前のこと……隠していたけど口に出さなくても知ってる。だからこそみんな心の中ではかなり心配してるし、お前の旦那のことも怒ってる。
殿下の護衛だからとお前のところに会いに来ないなんて……最低だ」
「アレックは……彼なりに苦しみながらなんとかしようと頑張ってるわ、団長からも話を聞いたの、だからそんなこと言わないで」
「俺も少しだけ聞いてる。俺が何か言う立場じゃないのはわかってるし、なんの力にもなれない。あまりにも相手が強い力を持ってるから。だけど、それでも、俺はシルビアが苦しむのはおかしいと思う」
「ありがとう、今は……どうすればいいのかまだ考えが纏まらない。でも一歩でも前に進みたい、怖いけど、やっと、団長やミゼルに会っても震えなくて済むようになったの。
これもここの屋敷のビルやジュリ達のおかげなの。みんながわたしに寄り添ってくれたから……」
「俺がお前の旦那のこと、とやかく言っても仕方ないか……だけど、何かあったら相談に乗るから」
「ありがとう」
ミゼルが部屋から出てきた。
俺が廊下にいることに気がついていた。全く顔色ひとつ変えない。
わかっていて俺のことを話したんだろう。
ミゼルは俺に「これ以上シルビアを傷つけたらあんたを許さないから」と言って帰って行った。
俺はすぐに部屋に入るのを躊躇った。
「誰かいるの?ビル?」
シルビアの声が聞こえてきた。
俺は返事が出来なくて黙ったままでいると
「シルビア様、中に入ってもよろしいでしょうか?」とビルが声をかけた。
「アレック様……今のご気分は?」
ーーそんなの最悪だってわかるだろう?
目の前で愛するシルビアが他の男と楽しそうに話しているんだから。俺は部屋の中にも入れず外に漏れてくる声を聞いてどうしていいのかすらわからないのに。
「この光景が貴方がソニア殿下と過ごされていた光景で、シルビア様が見たものと同じだとは思いませんか?」
「俺は……好きでソニア殿下のそばにいた訳ではない。お前にだけは話していたはずだ」
「はい、そして絶対にシルビア様に話さないと貴方と約束をしました。どんなにシルビア様が泣かれていてもわたしは話すことができませんでした。この悔しさがお分かりになりますか?」
「仕方がないだろう、シルビアを守るためだ」
「そうです、シルビア様が知れば怖い思いをされます。でも……知ることがあれば悲しい想いをされなくてすみました…あんな辛そうなお顔を毎日私達も見なくてすみました」
「俺は間違えていたのか?」
「そこまでは申しません。ただ、せめてシルビア様を想っていることくらいは伝えて差し上げたら良かったと思います。
『もう少しだけ待っててほしい』それだけでも理由は言えなくても、聡いシルビア様なら何も聞かずに待っていてくれたかも知れませんね」
ふと中から聞こえる笑い声。
俺が見るシルビアはいつも寂しそうにしていた。何か言いたそうに。だけど俺は優しく話しかける事もなかった。どこで影が見ているかわからない。常に緊張して気が張り詰めていた。
言い訳でしかない……そんな中でもシルビアに伝える方法はあったはずだ。それを疎かにしていたのは俺だ。
少し聞こえてくる声が大きくなった。
ミゼルが帰り際で扉の近くに二人ともいるようだ。
「ミゼル、今日は会いにきてくれてありがとう。団長にも伝えたんだけど、屋敷でお菓子作りを始めようと思うの。わたしが届けることはできないけど屋敷の者が届けてくれると言ってくれているの。わたし、少しでも早くまたみんなに会えるように頑張るわ」
「みんな待ってる。と言ってもお前のこと……隠していたけど口に出さなくても知ってる。だからこそみんな心の中ではかなり心配してるし、お前の旦那のことも怒ってる。
殿下の護衛だからとお前のところに会いに来ないなんて……最低だ」
「アレックは……彼なりに苦しみながらなんとかしようと頑張ってるわ、団長からも話を聞いたの、だからそんなこと言わないで」
「俺も少しだけ聞いてる。俺が何か言う立場じゃないのはわかってるし、なんの力にもなれない。あまりにも相手が強い力を持ってるから。だけど、それでも、俺はシルビアが苦しむのはおかしいと思う」
「ありがとう、今は……どうすればいいのかまだ考えが纏まらない。でも一歩でも前に進みたい、怖いけど、やっと、団長やミゼルに会っても震えなくて済むようになったの。
これもここの屋敷のビルやジュリ達のおかげなの。みんながわたしに寄り添ってくれたから……」
「俺がお前の旦那のこと、とやかく言っても仕方ないか……だけど、何かあったら相談に乗るから」
「ありがとう」
ミゼルが部屋から出てきた。
俺が廊下にいることに気がついていた。全く顔色ひとつ変えない。
わかっていて俺のことを話したんだろう。
ミゼルは俺に「これ以上シルビアを傷つけたらあんたを許さないから」と言って帰って行った。
俺はすぐに部屋に入るのを躊躇った。
「誰かいるの?ビル?」
シルビアの声が聞こえてきた。
俺は返事が出来なくて黙ったままでいると
「シルビア様、中に入ってもよろしいでしょうか?」とビルが声をかけた。
1,578
お気に入りに追加
2,644
あなたにおすすめの小説
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
半日だけの…。貴方が私を忘れても
アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。
今の貴方が私を愛していなくても、
騎士ではなくても、
足が動かなくて車椅子生活になっても、
騎士だった貴方の姿を、
優しい貴方を、
私を愛してくれた事を、
例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるゆる設定です。
❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。
❈ 車椅子生活です。
この誓いを違えぬと
豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」
──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。
なろう様でも公開中です。
運命だと思った。ただそれだけだった
Rj
恋愛
結婚間近で運命の人に出会ったショーンは、結婚の誓いをたてる十日前にアリスとの結婚を破談にした。そして運命の人へ自分の気持ちを伝えるが拒絶される。狂気のような思いが去った後に残ったのは、運命の人に近付かないという念書とアリスをうしなった喪失感だった。過去の過ちにとらわれた男の話です。
『運命の人ではなかっただけ』に登場するショーンの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。
わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる