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ここはどこ?

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真っ白い天井が目の前にある。

辺りを見回しても誰もいない。

静かな部屋。

可愛い花柄の壁紙に女性が好みそうなアンティークの家具が上品に置かれていた。

綺麗なレースのカーテンが窓から入ってくる風に揺れていた。

「ここは何処?」

わたしは重たい体をなんとか起こして、今の状況を把握しようとした。

確か知らないお爺さんを助けて、意識を失ったはず……

そのあとどうなったのだろう。

「あ……わたしのカバン……」

わたしのお母様からもらった薬の調合に使う道具が入っている、大事なカバン。
周囲をキョロキョロ見回すと、ソファの上に置いてあった。

(よかった…)

ホッとしたのはいいけど、わたしはここでどうすればいいのかわからなくて、ベッドを出てそっと扉を開けて廊下を覗いた。

「だ、誰かいませんか?」

返事がないので仕方なく廊下に出てみた。

「あ、あのぉ……」

わたしはオドオドとしながら廊下を歩いていると

「目が覚めたのですね、よかった」
と知らない女性がわたしをみて目を潤ませていた。

「あ、あの……ここは…何処でしょう?」

「ここはイースト侯爵家の屋敷です。貴女が前侯爵である旦那様を助けてくださって、そのまま倒れたので、こちらの屋敷に運びました」

「すみません、ご迷惑をおかけしました」

わたしはどうしてここにいるのか理由が分かり少しホッとした。

「…あ…それではわたしはすぐにここを出ていきますね、ご迷惑をおかけいたしました」
わたしは慌てて寝ていた部屋へ行き荷物を待って出て行くことにした。

「お待ちください、すぐに旦那様達に声をかけて参ります」

「そ、そうですよね、助けていただいたお礼も言わず出ていこうなんて失礼な事をしました」

わたしは何て失礼なんだろうと思い、自分でも恥ずかしくなった。


「違います、命を助けていただいた恩人の貴女にお礼を言いたいのは私たちです。大切な旦那様を助けていただきありがとうございました」

「……え?え?わたしがお礼を言われる?わたしはただ治療しただけですよ?」

「とにかく一度お部屋にお戻りください。すぐに旦那様達を連れて参ります」


わたしは仕方なくもう一度自分の部屋へ戻り大人しくベッドに寝ることにした。
本当はまだフラフラしていて、行く当てのない外に出てどうしようかと心の中では悩んでいたのだ。

もしかしたら体調が戻るまで置いてもらえるかもしれない。
元気になったら何処かの街で部屋を借りて薬師の仕事でもしよう。

そう言えばラファが現れないわ。

わたしの居場所を知らない訳がない。
たぶんわたしの前に顔を出せなくて、旦那様のそばにでもいるのだろう。

置いてきたセルマ君のことを思い出すと寂しくて辛くて涙が出てきた。

リイナ達は心配しているだろうな。

わたしがあの家を出たことで、みんなに心配をかけて悲しませることだと分かっていながら、でもあの場所にもう居たくなかった。

わたしのために不幸にする?
あんな辛い思いをさせられてわたしの命を助ける?
お父様は実は殺されている⁈

あまりの話にもう心がついていけない。

思い出すと涙が溢れてしまい、毛布を頭まで被り泣いてしまった。

ずっと我慢していた涙がどんどん溢れて
「……うっ…くっ……ひっ………」

外に漏れないように必死で我慢しながら泣き続けた。


わたしは泣いていたので気が付かなかった。

扉のノックの音も静かに入ってきた人達のことも。

「どうしてないてるの?」
女の子の声が聞こえてきた。

「だ、誰?」

わたしは毛布から顔を出すとわたしを心配そうに覗き込んでいる女の子が目の前に現れた。

「あ!貴女は公園で立っていた女の子⁉︎」

「うん、おじいさまをたすけてくれてありがとぉ。ねえ、だれがいじめたの?うちのしようにん?」

「ち、違います!思い出していたら辛くなって泣いてしまったのです」

「ほんとぉ?」

女の子は5歳くらいだろうか?
上品な可愛いピンクのドレスにツインテールをした髪。
あの時は必死で助けるほうに集中していたけど、なんて可愛い女の子なんだろう。

わたしを心配そうに見ていた。

「ニコル、こっちにおいで」
優しく話しかけているのは、この前助けたお爺さんだった。

「あ、貴方は……良かったです、お元気になられたのですね」
わたしはあのあと気を失ってしまったので、どうなったか気になっていた。

「お嬢さん、貴女のお陰でわたしは命拾いをしました、助けてくれてありがとう。無理をさせてしまった所為で貴女は4日も意識をなくしていたんです、それにうちの使用人が貴女に酷いことをしたそうで、本当にすまなかった」

「わたし……4日も寝込んでいたのですか?」

今回は倒れたのにラファが一度も現れなかった。

いつもはラファが声をかけてくれていたのに……わたしが家を出たのだからわたしに会いに来てくれないのは仕方がないのに、少し寂しく感じた。

「貴女は「癒し」の加護の使い手ですね。貴女が偶然通りかかってくれたおかげでわたしは助かりました。だが、このままと言う訳にはいかない、貴女の家に連絡をしたいのだが、何処のどなたか教えてもらえますか?」

「……わたしは……訳あって家を出た身です。もしご迷惑でなければ……体調が戻る数日置いていただけないでしょうか?歩けるようになればすぐに出て行きます。厚かましいお願いだと分かっています、でもお願いします」

わたしは必死で頭を下げてお願いをした。

「おねえちゃん、なかないで、だいじょおぶよ、にこるがまもってあげる」

ニコルちゃんがベッドに上がりわたしの頭をよしよしと撫でてくれた。

「……セルマ君…」
わたしは思わずセルマ君の名前が出てしまった。

ニコルちゃんの仕草が、セルマ君のことを思い出されて、わたしはまた泣いてしまった。

「……うっ……」

「お嬢さん、今は事情はお聞きしません、体調が戻るまでゆっくり療養してください、ただ、今から医師を呼びますので一度診察をしましょう」

お爺さんはわたしを安心させるように優しい笑顔でそっと手を握って
「いつまでもうちにいてくれて構わないので、体と心をゆっくり治すといいだろう」
と言って、部屋を出て行った。

ニコルちゃんは扉の隙間からこっそり戻ってきて、わたしのベッドに上がると

「にこるがなかないようにいっしよ、いるね」

と言ってわたしの毛布に潜り込んでわたしにピッタリとくっついてお昼寝を始めた。










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