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25話
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ひと月ぶりの王都は、何故か新鮮に感じた。
駅からは乗合馬車で寮に帰ることにした。
寮に着くと、管理人さん達にベルアート領で採れる葡萄を沢山貰ったので土産に全て渡した。
土産を渡す人もいない自分に少し寂しさを感じながら。
「アラン、元気に過ごしたのね。顔を見ればわかるわ」
寮母さんが笑顔で俺に話しかけてきた。
「はい、毎日充実していました」
「良かったわ。いつも仕事ばかりでアランは休みと言えば鍛錬や走り込みばかり。少しは他のこともして過ごさないとね」
俺は思わず目を逸らしてしまった。
「もしかしてずっと剣を握っていたの?」
寮母さんが俺をじっと見るので、嘘がつけずに
「はい、ハディッド領とベルアート領に行っていました」
俺が下を向くと、
「ハァー、それって元騎士の二人のところに行っていたって事でしょう?」
寮母さんはかなりお年なので、長年の騎士たちのことも知っている。
「はあ」
俺は頷くしかなかった。
「腕は上達したの?いつもの剣を握る時の癖が直ったのかしら?」
俺はその言葉に嬉しくなって
「はい!かなり鍛えて貰いました。ずっと悩んでいた癖も少しずつ直していけそうです」
「よかったね、疲れているでしょう?夕飯までまだ時間があるからゆっくりしていなさい」
「じゃあ、部屋に行きますね」
俺にとって寮母さんは母のようで、いやどちらかというと60過ぎなので、おばあちゃんのような人だ。
あったかくて、話すだけでホッとする。
部屋に入ると、ひと月も部屋を留守にしていたのに、空気は澄んでいて埃もなかった。
寮母さんが綺麗に掃除をして空気の入れ替えをしてくれていたみたいだ。
机の上には、ひと月留守にしていた間に届いた手紙が置かれていた。
平民で家族がいない俺に届く手紙は、そんなにはない。
偶に友人から、生存確認の手紙が届いたり、誰かが結婚しただの、そろそろ彼女は要らないか?紹介するぞと、くだらない手紙が多い。
そんな中、久しぶりにクレインとシャーリー夫婦からの招待状が届いていた。
二人の子どもが産まれてからなかなか会う機会が減っていたが、エイミー達やイザベラも来るらしい。
二週間後なので、まだ返事をしても間に合う。
俺は急いで出席の返事を書いて出すことにした。
平民になった俺と、未だに付き合ってくれる同級生達。
俺は、ひと月の謹慎をようやく終わらせて、騎士の仕事に戻ることが出来た。
朝、団長の執務室に顔を出した。
「失礼します」
「お疲れ様。ひと月の謹慎はどうだった?」
「はい、ルーベン様と父上の所に行って、色々教えて貰い充実した毎日を過ごさせてもらいました。そし……手紙もありがとうございました」
「少しは贅沢出来たか?」
「…あ、すみません。手紙を思い出したのが数日前で、お金は使わなかったのでそのまま孤児院に寄付してきました」
「は?寄付?孤児院に寄付はちゃんと別でしているからな!なんで使って遊ばないんだ!ほんとお前クソ真面目だな」
いい事して怒られるなんて……と思っていると
「うちの娘がまたお前に助けられたみたいで、ありがとう」
団長は突然俺に頭を下げた。
「……あ、ああ!ジンジャー嬢が迷子になってた!」
俺は完全にそんな事忘れていた。
「迷子って……まあ、迷子か。逸れてしまって変な男達に絡まれていた所を助けてもらったと聞いた」
団長は溜息を吐きながら、俺を見た。
「団長、あの子はちょっと運が悪いみたいですね。何かしら事件に遭ってしまう。そんな運の悪さが団長達ともすれ違いをしたんでしょうね。ほんの少しの誤解から」
「いや、本当に助かった。あの子は何故か変なことに巻き込まれるんだ。まだ15歳の女の子が一人で知らない街で逸れて、変な男達に絡まれてかなり怖かったらしい。
ジンジャーが、くれぐれもお礼を言ってくれと頼まれたんだ。
もちろん親としてもきちんとお礼を伝えたい。
本当にありがとう」
団長はそのあと少し間を置いて
「そしてジンジャーだが、あの子は母親が再婚だと言うことを知らないんだ。君の父親であるラウルとのことを全く知らないんだ。いずれは話さないといけないと思ってはいるんだが、繊細な子なので話辛くてな」
団長が俺に言いたいことがなんとなくわかった。
「わたしは別にジンジャー嬢と関わり合うつもりはありません」
俺の一言に団長はなんとも言えないバツの悪そうな顔をした。
「すまない、あの子が本当のことを知るまではそっとしておいて欲しい」
「大丈夫です」
俺は別に自分から関わるつもりもなかったので、腹を立てることもなく了承して部屋を出た。
駅からは乗合馬車で寮に帰ることにした。
寮に着くと、管理人さん達にベルアート領で採れる葡萄を沢山貰ったので土産に全て渡した。
土産を渡す人もいない自分に少し寂しさを感じながら。
「アラン、元気に過ごしたのね。顔を見ればわかるわ」
寮母さんが笑顔で俺に話しかけてきた。
「はい、毎日充実していました」
「良かったわ。いつも仕事ばかりでアランは休みと言えば鍛錬や走り込みばかり。少しは他のこともして過ごさないとね」
俺は思わず目を逸らしてしまった。
「もしかしてずっと剣を握っていたの?」
寮母さんが俺をじっと見るので、嘘がつけずに
「はい、ハディッド領とベルアート領に行っていました」
俺が下を向くと、
「ハァー、それって元騎士の二人のところに行っていたって事でしょう?」
寮母さんはかなりお年なので、長年の騎士たちのことも知っている。
「はあ」
俺は頷くしかなかった。
「腕は上達したの?いつもの剣を握る時の癖が直ったのかしら?」
俺はその言葉に嬉しくなって
「はい!かなり鍛えて貰いました。ずっと悩んでいた癖も少しずつ直していけそうです」
「よかったね、疲れているでしょう?夕飯までまだ時間があるからゆっくりしていなさい」
「じゃあ、部屋に行きますね」
俺にとって寮母さんは母のようで、いやどちらかというと60過ぎなので、おばあちゃんのような人だ。
あったかくて、話すだけでホッとする。
部屋に入ると、ひと月も部屋を留守にしていたのに、空気は澄んでいて埃もなかった。
寮母さんが綺麗に掃除をして空気の入れ替えをしてくれていたみたいだ。
机の上には、ひと月留守にしていた間に届いた手紙が置かれていた。
平民で家族がいない俺に届く手紙は、そんなにはない。
偶に友人から、生存確認の手紙が届いたり、誰かが結婚しただの、そろそろ彼女は要らないか?紹介するぞと、くだらない手紙が多い。
そんな中、久しぶりにクレインとシャーリー夫婦からの招待状が届いていた。
二人の子どもが産まれてからなかなか会う機会が減っていたが、エイミー達やイザベラも来るらしい。
二週間後なので、まだ返事をしても間に合う。
俺は急いで出席の返事を書いて出すことにした。
平民になった俺と、未だに付き合ってくれる同級生達。
俺は、ひと月の謹慎をようやく終わらせて、騎士の仕事に戻ることが出来た。
朝、団長の執務室に顔を出した。
「失礼します」
「お疲れ様。ひと月の謹慎はどうだった?」
「はい、ルーベン様と父上の所に行って、色々教えて貰い充実した毎日を過ごさせてもらいました。そし……手紙もありがとうございました」
「少しは贅沢出来たか?」
「…あ、すみません。手紙を思い出したのが数日前で、お金は使わなかったのでそのまま孤児院に寄付してきました」
「は?寄付?孤児院に寄付はちゃんと別でしているからな!なんで使って遊ばないんだ!ほんとお前クソ真面目だな」
いい事して怒られるなんて……と思っていると
「うちの娘がまたお前に助けられたみたいで、ありがとう」
団長は突然俺に頭を下げた。
「……あ、ああ!ジンジャー嬢が迷子になってた!」
俺は完全にそんな事忘れていた。
「迷子って……まあ、迷子か。逸れてしまって変な男達に絡まれていた所を助けてもらったと聞いた」
団長は溜息を吐きながら、俺を見た。
「団長、あの子はちょっと運が悪いみたいですね。何かしら事件に遭ってしまう。そんな運の悪さが団長達ともすれ違いをしたんでしょうね。ほんの少しの誤解から」
「いや、本当に助かった。あの子は何故か変なことに巻き込まれるんだ。まだ15歳の女の子が一人で知らない街で逸れて、変な男達に絡まれてかなり怖かったらしい。
ジンジャーが、くれぐれもお礼を言ってくれと頼まれたんだ。
もちろん親としてもきちんとお礼を伝えたい。
本当にありがとう」
団長はそのあと少し間を置いて
「そしてジンジャーだが、あの子は母親が再婚だと言うことを知らないんだ。君の父親であるラウルとのことを全く知らないんだ。いずれは話さないといけないと思ってはいるんだが、繊細な子なので話辛くてな」
団長が俺に言いたいことがなんとなくわかった。
「わたしは別にジンジャー嬢と関わり合うつもりはありません」
俺の一言に団長はなんとも言えないバツの悪そうな顔をした。
「すまない、あの子が本当のことを知るまではそっとしておいて欲しい」
「大丈夫です」
俺は別に自分から関わるつもりもなかったので、腹を立てることもなく了承して部屋を出た。
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