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13話

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(この人は俺の命を大切だと言ってくれるんだ……俺の命なんていつなくなってもいいのに)

「お前はどこか危ういんだ。このままだといつか命を落とすぞ」

隊長は俺の顔を不機嫌に見ていた。

そして俺の髪をクシャクシャっとして、
「頼むから自分を大事にしてくれ」
と言うと黙って去っていった。

他の団員達もみんな俺の髪をクシャクシャにしながら一人ずつ黙って去っていった。

最後に同僚の一緒に巡回していた相方が、俺を見て

「馬鹿、みんな心配しているんだ、反省しろ」
と言って俺の頭を一発叩いて去っていった。

俺は頭をポリポリと掻いて、寮に歩いて帰ることにした。


街から寮まで歩くと30分かかったが、上気していた体にはちょうど良かった。

寮に戻ると、風呂にも入らずにそのままベッドに倒れ込んで死んだように寝てしまった。


目が覚めるともう外は暗くなっていた。

流石に腹が減った。

朝食べてから何も食べていない。

寮の食堂はもう閉まっていた。

仕方がないので、着替えて寮から一番近い食堂へ行くことにした。

春の少しひんやりした風が気持ちよく、歩いていると誰か女性が声をかけてきた。

「アラン様?」

その声の方を向くと
「君は確かアートンさんだったよね?」

「はい、そうです」

こういう時はさっさと逃げるに限ると思っている。
自分で言うのもおかしいが、下手に優しく話すと相手が勝手に誤解していいように取られて、しつこく言い寄ってくる女が多い。

「急いでいるので失礼します」

俺は愛想悪くして彼女から離れることにした。

「あ、あの、スライド様がさっきもわたしに話しかけて無理矢理誘おうとしたんです。
わたし、怖くて……一緒にいてもらえませんか?」

しおらしく震えながら俺に訴えてくる姿を見て俺は嫌悪しかなかった。

今日の事件のことがなければ信じて助けたかもしれない。

だが、クリストファ・スライドは俺が蹴り上げて捕まえた。
彼女に言い寄ることなんて絶対に出来るわけがない。

「スライド様は今日ある事件の参考人として今騎士達と話しているはずだ。
君に会うことは出来ないはずだが?」

俺がそう言うと、彼女は一瞬しまった!と言う顔をしたが、すぐに素に戻り冷静に言い訳を始めた。

「あ、今日ではなくて昨日のことでした」

「『さっき』と言われたのはわたしの聞き間違いですか?」
俺は怖い顔をして不機嫌そうに態とにした。

「ごめんなさい。でも本当に何度もあの後も声をかけられて困っていたんです。だから怖くて」

「ではもう怖がらなくても大丈夫だと思います」

俺はもうこの人と話す気にもならなくて、「では」と言って食堂へ向かうことにした。

「どうして?わたしがせっかく声をかけてのに!失礼だと思わないの?平民のくせに!」

彼女は俺の背中に向けて大声で叫んでいた。

俺は振り返ることもしないで手を振ってその場を離れた。

侯爵の息子の時はその家の名前で女が寄ってきていた。平民になれば、貴族は自分達には逆らえないモノのように俺を扱おうとする。

俺にとって女なんて不信感しかない。

いくら綺麗な顔をしていても儚げにしていても、内心はドロドロしていて、はっきり言って気持ちが悪い。

学生の時の女友達は、俺に対してズバズバものを言う失礼な奴らが多かった。

それに対して、侯爵の名に群がる奴らもいた。

でも適当に笑顔で応えておけば、なんとかなっていた。

大人になると打算でやって来る輩が多すぎて、俺は疲れていた。

侯爵の息子から平民になった俺を憐れむ者、馬鹿にする者、いいように扱おうとする者……
ほとんどが王宮で働く貴族や女性達だ。
まあ、これの生活圏内が王宮内だから仕方がない。

でも騎士団の仲間は、ラウル・ベルアート公爵の息子だと知っていて、ネタにして色々言ってはきても、俺を蔑む奴はいない。
俺が努力をしているのをきちんと見て、認めてくれる。

だから、俺が今生きていられるんだと思っている。

子どもの時から、自分の居場所を探し続けてきた。

いくら父上(レオナルド)に優しくされても、父上(ラウル)が一緒に暮らそうと言ってくれても、俺の心に空いた大きな穴は埋まることがない。

今の俺は好きな剣と共に生きていけることが、それだけが幸せだった。

だからこの剣で、困った人を助けて死ねるなら、それもいいと思っている。

だがそんな気持ちを第四部隊の隊長から叱られた。

大人のくせに他人に迷惑や心配をかけるなんて……俺は自己嫌悪に陥っていた。





















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