14 / 63
13話
しおりを挟む
(この人は俺の命を大切だと言ってくれるんだ……俺の命なんていつなくなってもいいのに)
「お前はどこか危ういんだ。このままだといつか命を落とすぞ」
隊長は俺の顔を不機嫌に見ていた。
そして俺の髪をクシャクシャっとして、
「頼むから自分を大事にしてくれ」
と言うと黙って去っていった。
他の団員達もみんな俺の髪をクシャクシャにしながら一人ずつ黙って去っていった。
最後に同僚の一緒に巡回していた相方が、俺を見て
「馬鹿、みんな心配しているんだ、反省しろ」
と言って俺の頭を一発叩いて去っていった。
俺は頭をポリポリと掻いて、寮に歩いて帰ることにした。
街から寮まで歩くと30分かかったが、上気していた体にはちょうど良かった。
寮に戻ると、風呂にも入らずにそのままベッドに倒れ込んで死んだように寝てしまった。
目が覚めるともう外は暗くなっていた。
流石に腹が減った。
朝食べてから何も食べていない。
寮の食堂はもう閉まっていた。
仕方がないので、着替えて寮から一番近い食堂へ行くことにした。
春の少しひんやりした風が気持ちよく、歩いていると誰か女性が声をかけてきた。
「アラン様?」
その声の方を向くと
「君は確かアートンさんだったよね?」
「はい、そうです」
こういう時はさっさと逃げるに限ると思っている。
自分で言うのもおかしいが、下手に優しく話すと相手が勝手に誤解していいように取られて、しつこく言い寄ってくる女が多い。
「急いでいるので失礼します」
俺は愛想悪くして彼女から離れることにした。
「あ、あの、スライド様がさっきもわたしに話しかけて無理矢理誘おうとしたんです。
わたし、怖くて……一緒にいてもらえませんか?」
しおらしく震えながら俺に訴えてくる姿を見て俺は嫌悪しかなかった。
今日の事件のことがなければ信じて助けたかもしれない。
だが、クリストファ・スライドは俺が蹴り上げて捕まえた。
彼女に言い寄ることなんて絶対に出来るわけがない。
「スライド様は今日ある事件の参考人として今騎士達と話しているはずだ。
君に会うことは出来ないはずだが?」
俺がそう言うと、彼女は一瞬しまった!と言う顔をしたが、すぐに素に戻り冷静に言い訳を始めた。
「あ、今日ではなくて昨日のことでした」
「『さっき』と言われたのはわたしの聞き間違いですか?」
俺は怖い顔をして不機嫌そうに態とにした。
「ごめんなさい。でも本当に何度もあの後も声をかけられて困っていたんです。だから怖くて」
「ではもう怖がらなくても大丈夫だと思います」
俺はもうこの人と話す気にもならなくて、「では」と言って食堂へ向かうことにした。
「どうして?わたしがせっかく声をかけてあげたのに!失礼だと思わないの?平民のくせに!」
彼女は俺の背中に向けて大声で叫んでいた。
俺は振り返ることもしないで手を振ってその場を離れた。
侯爵の息子の時はその家の名前で女が寄ってきていた。平民になれば、貴族は自分達には逆らえないモノのように俺を扱おうとする。
俺にとって女なんて不信感しかない。
いくら綺麗な顔をしていても儚げにしていても、内心はドロドロしていて、はっきり言って気持ちが悪い。
学生の時の女友達は、俺に対してズバズバものを言う失礼な奴らが多かった。
それに対して、侯爵の名に群がる奴らもいた。
でも適当に笑顔で応えておけば、なんとかなっていた。
大人になると打算でやって来る輩が多すぎて、俺は疲れていた。
侯爵の息子から平民になった俺を憐れむ者、馬鹿にする者、いいように扱おうとする者……
ほとんどが王宮で働く貴族や女性達だ。
まあ、これの生活圏内が王宮内だから仕方がない。
でも騎士団の仲間は、ラウル・ベルアート公爵の息子だと知っていて、ネタにして色々言ってはきても、俺を蔑む奴はいない。
俺が努力をしているのをきちんと見て、認めてくれる。
だから、俺が今生きていられるんだと思っている。
子どもの時から、自分の居場所を探し続けてきた。
いくら父上(レオナルド)に優しくされても、父上(ラウル)が一緒に暮らそうと言ってくれても、俺の心に空いた大きな穴は埋まることがない。
今の俺は好きな剣と共に生きていけることが、それだけが幸せだった。
だからこの剣で、困った人を助けて死ねるなら、それもいいと思っている。
だがそんな気持ちを第四部隊の隊長から叱られた。
大人のくせに他人に迷惑や心配をかけるなんて……俺は自己嫌悪に陥っていた。
「お前はどこか危ういんだ。このままだといつか命を落とすぞ」
隊長は俺の顔を不機嫌に見ていた。
そして俺の髪をクシャクシャっとして、
「頼むから自分を大事にしてくれ」
と言うと黙って去っていった。
他の団員達もみんな俺の髪をクシャクシャにしながら一人ずつ黙って去っていった。
最後に同僚の一緒に巡回していた相方が、俺を見て
「馬鹿、みんな心配しているんだ、反省しろ」
と言って俺の頭を一発叩いて去っていった。
俺は頭をポリポリと掻いて、寮に歩いて帰ることにした。
街から寮まで歩くと30分かかったが、上気していた体にはちょうど良かった。
寮に戻ると、風呂にも入らずにそのままベッドに倒れ込んで死んだように寝てしまった。
目が覚めるともう外は暗くなっていた。
流石に腹が減った。
朝食べてから何も食べていない。
寮の食堂はもう閉まっていた。
仕方がないので、着替えて寮から一番近い食堂へ行くことにした。
春の少しひんやりした風が気持ちよく、歩いていると誰か女性が声をかけてきた。
「アラン様?」
その声の方を向くと
「君は確かアートンさんだったよね?」
「はい、そうです」
こういう時はさっさと逃げるに限ると思っている。
自分で言うのもおかしいが、下手に優しく話すと相手が勝手に誤解していいように取られて、しつこく言い寄ってくる女が多い。
「急いでいるので失礼します」
俺は愛想悪くして彼女から離れることにした。
「あ、あの、スライド様がさっきもわたしに話しかけて無理矢理誘おうとしたんです。
わたし、怖くて……一緒にいてもらえませんか?」
しおらしく震えながら俺に訴えてくる姿を見て俺は嫌悪しかなかった。
今日の事件のことがなければ信じて助けたかもしれない。
だが、クリストファ・スライドは俺が蹴り上げて捕まえた。
彼女に言い寄ることなんて絶対に出来るわけがない。
「スライド様は今日ある事件の参考人として今騎士達と話しているはずだ。
君に会うことは出来ないはずだが?」
俺がそう言うと、彼女は一瞬しまった!と言う顔をしたが、すぐに素に戻り冷静に言い訳を始めた。
「あ、今日ではなくて昨日のことでした」
「『さっき』と言われたのはわたしの聞き間違いですか?」
俺は怖い顔をして不機嫌そうに態とにした。
「ごめんなさい。でも本当に何度もあの後も声をかけられて困っていたんです。だから怖くて」
「ではもう怖がらなくても大丈夫だと思います」
俺はもうこの人と話す気にもならなくて、「では」と言って食堂へ向かうことにした。
「どうして?わたしがせっかく声をかけてあげたのに!失礼だと思わないの?平民のくせに!」
彼女は俺の背中に向けて大声で叫んでいた。
俺は振り返ることもしないで手を振ってその場を離れた。
侯爵の息子の時はその家の名前で女が寄ってきていた。平民になれば、貴族は自分達には逆らえないモノのように俺を扱おうとする。
俺にとって女なんて不信感しかない。
いくら綺麗な顔をしていても儚げにしていても、内心はドロドロしていて、はっきり言って気持ちが悪い。
学生の時の女友達は、俺に対してズバズバものを言う失礼な奴らが多かった。
それに対して、侯爵の名に群がる奴らもいた。
でも適当に笑顔で応えておけば、なんとかなっていた。
大人になると打算でやって来る輩が多すぎて、俺は疲れていた。
侯爵の息子から平民になった俺を憐れむ者、馬鹿にする者、いいように扱おうとする者……
ほとんどが王宮で働く貴族や女性達だ。
まあ、これの生活圏内が王宮内だから仕方がない。
でも騎士団の仲間は、ラウル・ベルアート公爵の息子だと知っていて、ネタにして色々言ってはきても、俺を蔑む奴はいない。
俺が努力をしているのをきちんと見て、認めてくれる。
だから、俺が今生きていられるんだと思っている。
子どもの時から、自分の居場所を探し続けてきた。
いくら父上(レオナルド)に優しくされても、父上(ラウル)が一緒に暮らそうと言ってくれても、俺の心に空いた大きな穴は埋まることがない。
今の俺は好きな剣と共に生きていけることが、それだけが幸せだった。
だからこの剣で、困った人を助けて死ねるなら、それもいいと思っている。
だがそんな気持ちを第四部隊の隊長から叱られた。
大人のくせに他人に迷惑や心配をかけるなんて……俺は自己嫌悪に陥っていた。
11
お気に入りに追加
1,098
あなたにおすすめの小説
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる