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11話
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「今、手が空いているのはお前たち二人だけだ。行ってきてくれ」
俺と同僚はお互い顔を見合わせて、仕方なく団長の家の馬車に向かった。
馬車は街中の道の脇に停められていた。
一応邪魔にはならない場所ではあるが、ここに停められていては迷惑だし、中にいる人たちも困っているだろう。
扉を叩いた。
「すみません、近衛騎士第3部隊副隊長のアランと言いますが扉を開けていただけますか?隊長に屋敷へ馬車を移動するように頼まれました」
俺は窓から制服姿を見てもらい、身分証を見せた。
「アラン様?」
出てきたのは関わり合いたくないジンジャーと侍女だった。
「今御者は事情聴取のため詰所にいます。隊長に頼まれて馬車を屋敷に送り届けます」
ジンジャーは俺の顔を見て知っている人だったのでホッとしていた。
「ありがとうございます。このまま、ここにいてどうしたらいいのか分からなくて困っていました」
「ではわたしが馬車の御者をしますので、よろしくお願いします」
俺は同僚と二人で前に乗って馬車を動かした。
「アラン、お前上手だな」
「そうか?馬車の御者なんて初めてしたけど案外簡単に乗れるんだな」
「え?したことないのか?」
同僚は不安気に周りをキョロキョロしていたが、どうすることも出来ないので諦めて座っていた。
「嘘だよ、父上に習ってよく馬車を動かしていたから慣れてるんだ」
「ったく、脅かすなよ!」
俺たちは団長の屋敷に着くと、門の前に馬車を止めた。
中から人が出てきたので、使用人達に説明をして俺たちはさっさと退散することにした。
「あの……良かったらお茶でも飲んで行きませんか?」
ジンジャーが俺たちに声をかけた。
同僚はすぐに「はい」と返事をしようとしたので、俺は肩を掴んで止めた。
「いえ、結構です。勤務中です」
「では失礼します」
帰ろうとした時、中から40代前半の女性が出てきた。
「すみません、娘達がお世話になりました」
ジンジャーに似た綺麗な人だった。
この人が、シャノン様か……
俺は頭だけ下げて帰って行った。
後ろから小さな声で、「ラウル?」と聞こえたが俺は聞かなかったことにした。
同僚達、騎士団のものは、みんな噂では知っているので俺が無視して帰った理由も聞かないでくれた。
やはりジンジャーには関わらない。これが一番だと思った。
詰所に戻ると、先程捕まった男は未遂ということ、娘が連れ去られていることなどから情状酌量などもあり数日牢で過ごして釈放されるとのことだ。
俺たちが一日でも早く犯人を捕まえなければ、不幸な人間が増えていく。
騎士団長をチラッと見るが、かなりイラついていた。
俺たち近衛騎士もしばらくはこちらの騎士団での捜査と巡回の手伝いをしないといけなくなりそうだ。
近衛騎士団長に会わずに済むし、なにかと関わらないで済むので今の俺にはこちらの捜査の手伝いが助かる。
数日経ったある日、俺たちが巡回をしている時にあの何かと問題のあるクリストファ・スライドが、挙動不審な歩き方をしているのを見つけた。
周りをキョロキョロと伺い、頭をぽりぽり掻いたり、溜息を吐いたりしている。
不審に思いこっそりと同僚と隠れてついて行ってみることにした。
クリストファは、大きな道を通り抜け細い道をさらに歩いていた。
少しずつ裏通りの怪しい場所に向かっていた。
まず貴族の息子が歩く道ではない。
俺たち騎士達がいつも巡回して回っている場所なので俺たちは逆に周りから怪しまれずに歩くことが出来た。
そしてしばらくついて行くと、路地裏の古びた建物の地下階段を降りて行く。
同僚はすぐに他の騎士団を呼びに行った。
俺はしばらく外で待機していた。
地下の様子はここからではよくわからない。少しだけ階段を降りて何か聞こえないか音を探っていた。
「……た…け……」
小さい声だが、女性の助けを求める声が聞こえた。
俺は地下階段を降りて行き扉を見つけた。
ここにクリストファが入ったが他にも何人かいるだろう。
一人で立ち向かうのは犬死するだけだ。
俺は扉に耳をくっつけて、中の音を聞いた。
数人の話し声が聞こえてきた。
「そろそろ逃げないとやばいぜ」
「ここにいる女達はどうするんだ。連れて行けば金になるが足手まといになる。捨てて行ってまた何処かで攫って売ったほうがいいんじゃないか?」
「だったら、一発犯ってから殺そうぜ」
「そうだな、逃げている間女を抱けないし、今しか楽しめないもんな」
「クリストファ、お前はどうする?どうせ廃嫡が決まってるんだろう?俺たちと一緒に逃げるか?」
「お前が一緒なら知り合いの貴族に声かけて女を買ってくれる奴を紹介してくれるだろう」
「ああ、逃亡中の金くらいなら稼げると思う」
なんて屑な奴らなんだ。
俺は腹が立ったが、声からして五人の男がいることがわかった。
中に囚われた女が数人はいることを考えると俺が一人で行くのには無理がある。
早く来てくれと、心が忙しなくなるが、みんなの姿がなかなか現れなかった。
俺と同僚はお互い顔を見合わせて、仕方なく団長の家の馬車に向かった。
馬車は街中の道の脇に停められていた。
一応邪魔にはならない場所ではあるが、ここに停められていては迷惑だし、中にいる人たちも困っているだろう。
扉を叩いた。
「すみません、近衛騎士第3部隊副隊長のアランと言いますが扉を開けていただけますか?隊長に屋敷へ馬車を移動するように頼まれました」
俺は窓から制服姿を見てもらい、身分証を見せた。
「アラン様?」
出てきたのは関わり合いたくないジンジャーと侍女だった。
「今御者は事情聴取のため詰所にいます。隊長に頼まれて馬車を屋敷に送り届けます」
ジンジャーは俺の顔を見て知っている人だったのでホッとしていた。
「ありがとうございます。このまま、ここにいてどうしたらいいのか分からなくて困っていました」
「ではわたしが馬車の御者をしますので、よろしくお願いします」
俺は同僚と二人で前に乗って馬車を動かした。
「アラン、お前上手だな」
「そうか?馬車の御者なんて初めてしたけど案外簡単に乗れるんだな」
「え?したことないのか?」
同僚は不安気に周りをキョロキョロしていたが、どうすることも出来ないので諦めて座っていた。
「嘘だよ、父上に習ってよく馬車を動かしていたから慣れてるんだ」
「ったく、脅かすなよ!」
俺たちは団長の屋敷に着くと、門の前に馬車を止めた。
中から人が出てきたので、使用人達に説明をして俺たちはさっさと退散することにした。
「あの……良かったらお茶でも飲んで行きませんか?」
ジンジャーが俺たちに声をかけた。
同僚はすぐに「はい」と返事をしようとしたので、俺は肩を掴んで止めた。
「いえ、結構です。勤務中です」
「では失礼します」
帰ろうとした時、中から40代前半の女性が出てきた。
「すみません、娘達がお世話になりました」
ジンジャーに似た綺麗な人だった。
この人が、シャノン様か……
俺は頭だけ下げて帰って行った。
後ろから小さな声で、「ラウル?」と聞こえたが俺は聞かなかったことにした。
同僚達、騎士団のものは、みんな噂では知っているので俺が無視して帰った理由も聞かないでくれた。
やはりジンジャーには関わらない。これが一番だと思った。
詰所に戻ると、先程捕まった男は未遂ということ、娘が連れ去られていることなどから情状酌量などもあり数日牢で過ごして釈放されるとのことだ。
俺たちが一日でも早く犯人を捕まえなければ、不幸な人間が増えていく。
騎士団長をチラッと見るが、かなりイラついていた。
俺たち近衛騎士もしばらくはこちらの騎士団での捜査と巡回の手伝いをしないといけなくなりそうだ。
近衛騎士団長に会わずに済むし、なにかと関わらないで済むので今の俺にはこちらの捜査の手伝いが助かる。
数日経ったある日、俺たちが巡回をしている時にあの何かと問題のあるクリストファ・スライドが、挙動不審な歩き方をしているのを見つけた。
周りをキョロキョロと伺い、頭をぽりぽり掻いたり、溜息を吐いたりしている。
不審に思いこっそりと同僚と隠れてついて行ってみることにした。
クリストファは、大きな道を通り抜け細い道をさらに歩いていた。
少しずつ裏通りの怪しい場所に向かっていた。
まず貴族の息子が歩く道ではない。
俺たち騎士達がいつも巡回して回っている場所なので俺たちは逆に周りから怪しまれずに歩くことが出来た。
そしてしばらくついて行くと、路地裏の古びた建物の地下階段を降りて行く。
同僚はすぐに他の騎士団を呼びに行った。
俺はしばらく外で待機していた。
地下の様子はここからではよくわからない。少しだけ階段を降りて何か聞こえないか音を探っていた。
「……た…け……」
小さい声だが、女性の助けを求める声が聞こえた。
俺は地下階段を降りて行き扉を見つけた。
ここにクリストファが入ったが他にも何人かいるだろう。
一人で立ち向かうのは犬死するだけだ。
俺は扉に耳をくっつけて、中の音を聞いた。
数人の話し声が聞こえてきた。
「そろそろ逃げないとやばいぜ」
「ここにいる女達はどうするんだ。連れて行けば金になるが足手まといになる。捨てて行ってまた何処かで攫って売ったほうがいいんじゃないか?」
「だったら、一発犯ってから殺そうぜ」
「そうだな、逃げている間女を抱けないし、今しか楽しめないもんな」
「クリストファ、お前はどうする?どうせ廃嫡が決まってるんだろう?俺たちと一緒に逃げるか?」
「お前が一緒なら知り合いの貴族に声かけて女を買ってくれる奴を紹介してくれるだろう」
「ああ、逃亡中の金くらいなら稼げると思う」
なんて屑な奴らなんだ。
俺は腹が立ったが、声からして五人の男がいることがわかった。
中に囚われた女が数人はいることを考えると俺が一人で行くのには無理がある。
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