上 下
73 / 97

73話

しおりを挟む
わたしにとって人生最大の社交界デビューも無事終わった。
クリス殿下との久しぶりの再会は緊張のなかで終わった。
彼からはわたしへの執着は消えていた。
あのなんとも言えない気持ち悪い感情を感じなかった。
彼が変わったのかは分からない、でもいい国王になって欲しいと上から目線で考えている。
まぁ、辺境伯領はかなり僻地で生活も苦労するような場所だし、かなり領主に鍛えられたとお祖父様が言ってたのであのくそ曲がった性格は少しは良くなったのだろう。

そして、バナッシユ国の元王妃はだけは残して、向こうの国へ行ったらしい。
ルビラ王国では、処刑されなかったと聞いた。
それはバナッシユ国への配慮からだったらしい。

ただ、地下牢にずっと入れられていたので、ほとんど生きているだけだとお祖父様が言っていた。

わたしはそれを聞いてさすがに怖くなって青い顔をして震えた。

でも王妃を殺害しようとしたので、極刑は免れないと言われていた。それを生かしてバナッシユ国へと引き渡しただけでも、珍しいことらしい。

これでわたしへの執着は終わったのだろうか。
一度会ってみるかと彼女が捕まってから言われたけど、わたしは大きく首を横に振った。

もう関わりたくない。
わたし自身は彼女に何かされたと感じていないけど、ターナやクリス殿下のあの酷い態度は彼女のせいでもあったらしい。
前世での記憶の彼女はまさに意地悪の塊だった。
わたしを虐めることを楽しんでいた。

あの醜く微笑む顔をわたしは忘れられない。
鞭で打つたび、怒鳴るたび、とても悦に入って笑っていた。

だからもう二度と会いたいとは思えない。
会えばまたあの気持ち悪い記憶を思い出してしまう。



舞踏会から帰る少し前、お祖父様がそばにいないのを見てお父様が近づいてきた。

「……アイシャ」
お父様の切なそうな声が聞こえた。

ロウトが異変に気がついてわたしの腕を掴んで急ぎ他の場所に連れ出してくれなければわたしはお父様と対面していたかもしれない。

クリス殿下の時はきちんと前もってわかっていた。

でも今回、お祖父様はお父様に出席しないように圧をかけていた。だから、お父様が出席することはなかったはず。
なのにどうしてか舞踏会にいた。

お祖父様はお父様の姿が目の端に少しでも映ると、不機嫌になった。わたしへの接触を睨み拒んでくれた。お祖父様が近くにいない時はロウト夫婦が常に近くにいて見守ってくれた。

おかげでわたしは一生に一度の大切な日を無事に終えることが出来た。


そしてわたしは今………

「メリッサ、退屈だわ」

「アイシャ様、ベッドでそんな格好して……そろそろ魔術の勉強でもしてきたらどうですか?」

気が抜けて最近はダラダラしている。
今もベッドの上で寝そべってごろっとしてボーッとしていた。

「うーんそうだね、ミケラン行こうか?」

「ミケランは飼い主に似てゴロゴロしているのがお好きみたいですね」
メリッサは、わたしが話しかけるのにミケランが反応しないで寝ているのを見てクスクス笑い出した。

「ほんと、ミケラン、それ以上太ったら女の子にモテないわよ!」

わたしが何言っても眠たいのか返事もしない。

「もういいわ、一人で行くから!」

仕方なく動きやすい服に着替えて外へ出ることにした。

庭師のバイセンのところへ行き「何かお手伝いはある?」と聞くと

「そうですね……今日は…腰をやられたのでちょっと休もうと思っていたんです。ですから水撒きだけしてもらえると助かります」

「腰?痛いの?」

「まあ仕方ないですよ、年ですから」

バイセンは公爵家に昔からいる使用人だ。
他に三人いる庭師と共にこの広い敷地を世話してくれている。
もちろん土魔法や水魔法を使う者たちがいるので、わたしが敢えて手伝わなくてもいいのだけど、わたしの魔法の鍛錬のために水撒きを残してくれている。

細かい調整をしながら水を撒くので、鍛錬にはちょうどいい。
いつもわたしのために幾つかの作業を残してくれている。

「わかった、水撒きをしてくる。あ、それからバイセン、もう腰は痛くないはずよ」

「え?あれ?本当です!全く痛くない!」

「よかった。また痛くなったら言ってね」
わたしはバイセンの腰に癒しの魔法をかけてあげていた。
本人は突然痛みがとれて驚いていたので、その顔が面白くてクスクス笑って「じゃあやってくる!」とバイバイした。


細かい調節を施しながら均一に水を撒いていく。
わたしは大雑把な魔法しかまだ出来なくて微調整をしながら行う魔法はまだ苦手だ。

たくさんの水を一気に撒くのは簡単なんだけどそんなことしたらせっかくのお花たちが傷んでしまう。

水やりのおかげで、孤児院で頼まれた「虹」も数回に一回くらいは出せるようになってきた。

そう、わたしの鍛錬の成果は「虹」を作り出すこと。
子供達の笑顔を見るために必死で頑張っている。

「これならなんとかみんなに披露できそう」

わたしはニマニマと笑いながら一人で微笑んだ。






◆ ◆ ◆

『そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。』

今日からスタートしました。

こちらのお話も後もう少し!
最後までなんとか書ききろうと思っています。
いつも感想ありがとうございます!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった

Blue
恋愛
 王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。 「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」 シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。 アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。

転生令嬢はやんちゃする

ナギ
恋愛
【完結しました!】 猫を助けてぐしゃっといって。 そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。 木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。 でも私は私、まいぺぇす。 2017年5月18日 完結しました。 わぁいながい! お付き合いいただきありがとうございました! でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。 いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。 【感謝】 感想ありがとうございます! 楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。 完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。 与太話、中身なくて、楽しい。 最近息子ちゃんをいじってます。 息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。 が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。 ひとくぎりがつくまでは。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

処理中です...