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60話
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「それは良かった……わたしはこの国に来て良かった……今やっとそう思えました」
わたしが会いたいと思っていた人たちに出会うことが出来た。
ーーああ、わたしが転生したのはこの人達にもう一度出会い、心残りを全て終わらせるためだったのかしら?
キリアン君が優しくわたしに微笑んだ。
「アイシャお姉ちゃん、お姉ちゃんは消えたりしないよ。アイシャの中でアイシャとして過ごすんだ。アイシャはまだ眠っているけど必ず目覚めてアイシャお姉ちゃんと共に生きるはずなんだ」
「……そうね、そうかもしれない……わたしが目覚めたこの数ヶ月、新しい記憶がアイシャちゃんの中で幸せな記憶として残っていければ嬉しい」
わたしは実家でしばらく過ごさせてもらうことになった。
お父様はずっと領地に引きこもり一人で寂しく暮らしていたそうだ。
そして無理がたたり体を壊して病気になった。
衰弱していても医者にかかろうとしなかったらしい。
「アイシャはもっと辛い思いをしたんだ」
お父様はそう言って治療を拒み、お兄様は無理やりお父様を領地からこの屋敷に連れ帰ってきたらしい。
それなのにここでもまともに薬を飲まず、体が衰弱していったそうだ。
「お父様、お薬を飲みましょう」
わたしはベッドで横になっているお父様をそっと起こして薬を手渡した。
コップを受け取り薬を飲むところをジッと見つめる。
飲み終わるまで目を離さない。
「アイシャ、そんなに見つめなくても薬を飲むから大丈夫だ。お前が救ってくれたこの命を粗末にしたらまたお前の顔をまともに見ることが出来なくなる。
アイシャ、わたしはお前に背を向けて暮らし続けた。すまなかった、辛い思いをさせた、悲しい思いをさせた。どんなに後悔しても遅過ぎたんだ。だからわたしもお前と同じように苦しい思いをして死ぬしかないと思い込んでいた。
それもまたわたしの傲慢な考えだった。周りに心配かけて迷惑をかけて……」
「本当にそう思います。でもお父様のおかげでわたしもどんなに周りに辛い思いをさせたかわかりました」
お父様を見つめると、お父様もわたしを見つめ返した。
「生きることを諦めて死んでいくなんて……たとえ助からない命でも最後まで抗い続けなければいけなかったのですね、わたしは諦めることに慣れ過ぎていました……そんなわたしの性格が今のアイシャちゃんにも伝わって、アイシャちゃんも傷ついて眠り続けているんです」
「アイシャをそんな風に追い込んだのはわたしだ」
「………お父様……もうこうして過去を悔やむのはやめましょう。わたしはみんなにもう一度会えて嬉しかったです、あと少しわたしを…そばに居させてもらえませんか?」
「そうだな、もうすぐ国へ帰ってしまうんだ。少しでもアイシャとの時間を大切に過ごさないといけないな」
「……はい」
わたしはお父様とお兄様、そしてマーシャリ様、アリーちゃん、ケビン君と家族として数週間を過ごすことが出来た。
お父様の体も癒しの魔法のおかげで、順調に回復していき、庭を散歩することが出来るようになった。
ケビン君とわたしとアリーちゃんとお父様、四人で歩くのがとても楽しい。
綺麗なお花を見るのも青い空を見るのも、みんなで見るだけで鮮やかで生き生きとして違って見える。
最近はミケランもこっちの屋敷で過ごしている。
ケビン君と仲良しになっていつも寝る時はケビン君のベッドに潜り込んでいるみたい。
ケビン君もミケランが大好きで追いかけ回している。
少しだけ……ミケランが疲れて見えるんだけど、そこは気が付かなかったことにしている。
こうしてわたしの新しい幸せな時間が過ぎて行った。
◇ ◇ ◇
「アイシャお姉ちゃん、そろそろカイザ様との約束の日が近づいてきたよ」
「うん、帰らないといけないわね」
約束の二月が経った。
この国にずっといるわけにはいかない。
だってアイシャちゃんはルビラ王国の公爵令嬢なのだから。
リサ様とターナ様、それからクリス殿下の話はキリアン君、そしてカイザ様からの手紙で聞いていた。
そして……エレン夫人はまさかのバナッシユ国の前王妃だったなんて……
わたしにとって前王妃の思い出は………とても厳しい怖い人だった。
逆らうことなど出来ない、いつも怒られ鞭で打たれる人。
思い出すだけで体が震えてしまう。
エレン夫人としてルビラ王国でクリス殿下やターナ様の教育係として過ごしていたと聞いて驚いた。
それもアイシャちゃんを虐め貶めるために、二人にいろんなことを吹き込んでいたと聞いた。
わたしの中ではクリス殿下の記憶はアイシャちゃんの中でもしかないのであまりよくわからない。
でもターナちゃんのアイシャちゃんへ向ける感情は、蔑み、見下し、嫌悪しているように見えた。
実の姉にあそこまで酷く向ける感情を、アイシャちゃんは我慢して受け、耐えていたのかと思うとわたしまで辛くなる。
リサ様は……わたしを娘として受け入れることが難しかったのかもしれない。
アイシャちゃんに辛い思いをさせたのは前世であるわたし。
リサ様はわたしを娘として思えない感情がアイシャちゃんへの言葉の暴力、ああいう冷たい態度になってしまったのだろうか。
これからまたルビラ王国へ帰ることを考えると気が重い。
でもアイシャちゃんのためにも帰るしかない……のか。
わたしが会いたいと思っていた人たちに出会うことが出来た。
ーーああ、わたしが転生したのはこの人達にもう一度出会い、心残りを全て終わらせるためだったのかしら?
キリアン君が優しくわたしに微笑んだ。
「アイシャお姉ちゃん、お姉ちゃんは消えたりしないよ。アイシャの中でアイシャとして過ごすんだ。アイシャはまだ眠っているけど必ず目覚めてアイシャお姉ちゃんと共に生きるはずなんだ」
「……そうね、そうかもしれない……わたしが目覚めたこの数ヶ月、新しい記憶がアイシャちゃんの中で幸せな記憶として残っていければ嬉しい」
わたしは実家でしばらく過ごさせてもらうことになった。
お父様はずっと領地に引きこもり一人で寂しく暮らしていたそうだ。
そして無理がたたり体を壊して病気になった。
衰弱していても医者にかかろうとしなかったらしい。
「アイシャはもっと辛い思いをしたんだ」
お父様はそう言って治療を拒み、お兄様は無理やりお父様を領地からこの屋敷に連れ帰ってきたらしい。
それなのにここでもまともに薬を飲まず、体が衰弱していったそうだ。
「お父様、お薬を飲みましょう」
わたしはベッドで横になっているお父様をそっと起こして薬を手渡した。
コップを受け取り薬を飲むところをジッと見つめる。
飲み終わるまで目を離さない。
「アイシャ、そんなに見つめなくても薬を飲むから大丈夫だ。お前が救ってくれたこの命を粗末にしたらまたお前の顔をまともに見ることが出来なくなる。
アイシャ、わたしはお前に背を向けて暮らし続けた。すまなかった、辛い思いをさせた、悲しい思いをさせた。どんなに後悔しても遅過ぎたんだ。だからわたしもお前と同じように苦しい思いをして死ぬしかないと思い込んでいた。
それもまたわたしの傲慢な考えだった。周りに心配かけて迷惑をかけて……」
「本当にそう思います。でもお父様のおかげでわたしもどんなに周りに辛い思いをさせたかわかりました」
お父様を見つめると、お父様もわたしを見つめ返した。
「生きることを諦めて死んでいくなんて……たとえ助からない命でも最後まで抗い続けなければいけなかったのですね、わたしは諦めることに慣れ過ぎていました……そんなわたしの性格が今のアイシャちゃんにも伝わって、アイシャちゃんも傷ついて眠り続けているんです」
「アイシャをそんな風に追い込んだのはわたしだ」
「………お父様……もうこうして過去を悔やむのはやめましょう。わたしはみんなにもう一度会えて嬉しかったです、あと少しわたしを…そばに居させてもらえませんか?」
「そうだな、もうすぐ国へ帰ってしまうんだ。少しでもアイシャとの時間を大切に過ごさないといけないな」
「……はい」
わたしはお父様とお兄様、そしてマーシャリ様、アリーちゃん、ケビン君と家族として数週間を過ごすことが出来た。
お父様の体も癒しの魔法のおかげで、順調に回復していき、庭を散歩することが出来るようになった。
ケビン君とわたしとアリーちゃんとお父様、四人で歩くのがとても楽しい。
綺麗なお花を見るのも青い空を見るのも、みんなで見るだけで鮮やかで生き生きとして違って見える。
最近はミケランもこっちの屋敷で過ごしている。
ケビン君と仲良しになっていつも寝る時はケビン君のベッドに潜り込んでいるみたい。
ケビン君もミケランが大好きで追いかけ回している。
少しだけ……ミケランが疲れて見えるんだけど、そこは気が付かなかったことにしている。
こうしてわたしの新しい幸せな時間が過ぎて行った。
◇ ◇ ◇
「アイシャお姉ちゃん、そろそろカイザ様との約束の日が近づいてきたよ」
「うん、帰らないといけないわね」
約束の二月が経った。
この国にずっといるわけにはいかない。
だってアイシャちゃんはルビラ王国の公爵令嬢なのだから。
リサ様とターナ様、それからクリス殿下の話はキリアン君、そしてカイザ様からの手紙で聞いていた。
そして……エレン夫人はまさかのバナッシユ国の前王妃だったなんて……
わたしにとって前王妃の思い出は………とても厳しい怖い人だった。
逆らうことなど出来ない、いつも怒られ鞭で打たれる人。
思い出すだけで体が震えてしまう。
エレン夫人としてルビラ王国でクリス殿下やターナ様の教育係として過ごしていたと聞いて驚いた。
それもアイシャちゃんを虐め貶めるために、二人にいろんなことを吹き込んでいたと聞いた。
わたしの中ではクリス殿下の記憶はアイシャちゃんの中でもしかないのであまりよくわからない。
でもターナちゃんのアイシャちゃんへ向ける感情は、蔑み、見下し、嫌悪しているように見えた。
実の姉にあそこまで酷く向ける感情を、アイシャちゃんは我慢して受け、耐えていたのかと思うとわたしまで辛くなる。
リサ様は……わたしを娘として受け入れることが難しかったのかもしれない。
アイシャちゃんに辛い思いをさせたのは前世であるわたし。
リサ様はわたしを娘として思えない感情がアイシャちゃんへの言葉の暴力、ああいう冷たい態度になってしまったのだろうか。
これからまたルビラ王国へ帰ることを考えると気が重い。
でもアイシャちゃんのためにも帰るしかない……のか。
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