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53話 ハイド編
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クリス殿下が目の前から連れ出されてもターナはムスッとしたままで床に座っていた。
「カイザ様、ハイド様、私達は席を外しますわ。あとはお二人がこの娘の処遇をお決めください」
王妃はターナを見て一言だけ言うと部屋を出て行った。
「ターナ、貴女は自分が全てで、人を蹴落とすことでしか自分の価値を見出せないでいるわ、このまま成長すれば周りに悪影響しか及ぼさない、その時はわたしが貴女を消し去りましょう。
どうか己を見つめ直してください」
ターナはその言葉を聞いて
「わたしは悪くないわ!」
と、王妃の背中に向かって叫んだ。
「ターナ、もうこれ以上情けない姿を見せないでくれ」
わたしは悲しげにターナを見つめたが、ターナには何も感じないのだろうか。
「お父様、わたしは何もしていません、悪くありません。お姉様だと思っていたのです、まさか王妃様だとは思わなかったのです。
どうしてわたしがこんな目に遭うのですか?どうしてお姉様はいつも守られていてわたしだけ怒るのですか?お姉様はいつも狡いです!」
「……お前は今この状況に陥っても反省することもなくアイシャが狡いと思っているのか?」
ターナはやっと父であるわたしが自分の話を聞き入れてくれると勘違いしたのか嬉しそうに話し出した。
「お姉様は屋敷でもみんなに慕われています、頭も良くてお綺麗です。怒られることもありません。
わたしはいつも一人です、特に何ができるわけでもないわたしです。
どうしていつもわたしだけが我慢しなくてはいけないのですか?
お姉様はお父様にもお母様にもわたしにも似ておりません。どう見ても他所の子にしか見えません。
ならば排除するべきではありませんか?要らないモノは捨てるべきです」
「お前にとってアイシャは要らないモノなのか?」
「はい、だってわたしの心を掻き乱す人です。わたしには要らないモノです。お父様は今日やっとわたしの思っていることをきちんと聞いてくださったわ、とても嬉しいです」
ターナはとても嬉しそうに満足気に微笑んだ。
その微笑みはどこか歪んで恐ろしい娘にしか見えなかった。
ーーわたしはリサに対してもターナに対しても間違った対応しかしていなかったのか……
二人の、アイシャへの嫉妬心は血が繋がった者への感情とは言い難い。
狂気にも見える。
アイシャは聡明で才能豊かで誰もが振り返ってしまう程の美しさを持つ娘だ。
時に人を狂わせてしまうのだろうか。
リサ、ターナ、殿下、そしてエレン夫人までもがアイシャを憎み、それ以上に焦がれているように見える。
リサは今、母上と共に過ごしているが毎日厳しい言葉と態度に辛い日々を過ごしていると報告を受けている。
今まで公爵令嬢、そして王族として過ごしてきたリサ。
そしてわたしと結婚してからは公爵夫人として過ごしてきた。
傲慢で優しさに少し欠けるところがあったのは確かだが、それを補うほどの魔力と賢さ、人を圧倒的な力で纏め上げ統率する力を持つ、皆から憧れの女性としてみられてきた。
そんなリサが、アイシャに対して嫉妬をしたのだ。
妹であるターナはそれ以上にアイシャへの嫉妬心をそして憧れを抱いたのだろう。
それがこんな歪んだ感情にまでなるとは……
「ターナ、アイシャは君の姉なんだ、血の繋がった。憎むべき人でも要らないモノでもないんだ。アイシャは君に一度でもひどい態度をとったことはあるのかい?邪険にしたり意地悪を言ったのかい?よく思い出してごらん」
「…っ、え?」
ターナは自信満々に答えていた態度から明らかに動揺し始めた。
目をキョロキョロさせている、頭の中で考えがぐるぐると回っているのだろう。
「………お姉様はいつもメリッサやロウトと楽しそうに過ごしていました。わたしは仲間に入れてもらえない。
お姉様は、魔法も碌に使えないくせに必死で練習をしていました。どうせ制御なんて出来ないくせに!
お姉様はわたし達三人で楽しく話していたら、横で黙って笑っていました。それがいつもイライラするんです!
お姉様はどんなにわたしが我儘を言っても困った顔をしながら笑ってるんです。何を言っても怒りもしない、泣きもしないんです!
お姉様なんか要らない!いつもいつもわたしのことを馬鹿にしてるんです!
わたしが必死で頑張ってもお姉様の方がなんでも出来て褒められるのはお姉様なんです!
貰い子のくせに!
使用人達から笑われて悪口言われても言い返さない!あの屋敷でお姉様の存在は必要ありません!わたしとお母様にとってお姉様は死ねばいいと思っています!」
バシッ‼︎
ターナの頬は真っ赤になってしまった。
わたしは娘の頬を叩いていた。
暴力だけはしてはいけない。
そう思っていたのに……
「どうしてお父様はわからないのですか?わたしもお母様もお姉様のせいで辛い思いをしているんです!
エレン夫人はわかってくれました。
わたしが可哀想だと、思っていることはハッキリと伝えるべきだと!
だからお姉様なんか嫌いだと貰い子のくせに屋敷で暮らしているのはおかしいと言いました。
それなのに、わたしを叩いた!
いつも守られるのはお姉様だけ!
狡いです!ずるいです!お姉様なんかもうこのまま消えてなくなればいいんです!」
「ターナ、感情的になって叩いてすまなかった。君はアイシャにしたことは悪いことではないと思っているんだね?」
「そうです」
「わかった、では残念ながらアイシャに今までしてきたことを体験してもらおう」
「え?お父様、何を仰っているのですか?」
ターナはわたしの言葉の意味が理解できずに不安そうにしていた。
わたしはターナを眠りにつかせそのまま医療研究所へ連れて行った。
そこは義父であるカイザ様の研究所だ。
魔法と医術を使った治療法を研究している。
カイザ様の時を止める魔法は、転生前のアイシャのような心臓病の時に活躍する。
アイシャの心臓だけ時を止めてその間に治療をするのだ。
これはかなり画期的な治療で我が国でしか出来ないことだ。
そしてここで研究されているのが、「夢」の治療だ。
病んだ精神疾患の患者から怖い夢を取り除き楽しい夢を見せるのだ。
もちろん未だ研究段階である。
ターナは治験者として選ばれた。
ターナにはターナが今までしてきたアイシャへの嫌がらせを本人に実体験してもらう。
それがターナへの罰だ。
心が壊れてしまうのではないか…カイザ様にやはりそこまでは…と躊躇してしまったが、カイザ様に言われた。
「ハイド、お前は優しい父親で夫だ。しかし公爵でもあり時には辛い判断もしなければいけない。ターナはあまりにも身勝手過ぎた。さらに王妃に対して不敬なことをし過ぎたんだ。アレに良心が残っていればアイシャと王妃を見間違うことはなかったはずだ。クリス殿下もターナもそしてエレン夫人も王妃がアイシャに見えてしまった。
それは良心がない、それほどアイシャを嫌い虐めることに喜びを感じていたんだ。少しでも良心があれば王妃は王妃としか見えなかったはずだ、そう魔法をかけていたからな」
「まだ8歳の娘です、今度やっと9歳になる娘なんです。アイシャもターナもわたしにとっては大事な娘なんです」
「わかっている、わたしにとっても二人は大事な孫だ。だからこそターナには今、人の苦しみや悲しみ、辛さを教えておかなければならないんだ。
この子は大人になっても他人を傷つけながらしか生きていけない人として最低な人間になってしまう」
「そうですね……もしそれでも直らなければターナもそしてリサも……地下で過ごすことにしましょう。わたしも家族と共にそこで一生を終わらせるのもいいかもしれませんね」
明日へ続きます
「カイザ様、ハイド様、私達は席を外しますわ。あとはお二人がこの娘の処遇をお決めください」
王妃はターナを見て一言だけ言うと部屋を出て行った。
「ターナ、貴女は自分が全てで、人を蹴落とすことでしか自分の価値を見出せないでいるわ、このまま成長すれば周りに悪影響しか及ぼさない、その時はわたしが貴女を消し去りましょう。
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「わたしは悪くないわ!」
と、王妃の背中に向かって叫んだ。
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わたしは悲しげにターナを見つめたが、ターナには何も感じないのだろうか。
「お父様、わたしは何もしていません、悪くありません。お姉様だと思っていたのです、まさか王妃様だとは思わなかったのです。
どうしてわたしがこんな目に遭うのですか?どうしてお姉様はいつも守られていてわたしだけ怒るのですか?お姉様はいつも狡いです!」
「……お前は今この状況に陥っても反省することもなくアイシャが狡いと思っているのか?」
ターナはやっと父であるわたしが自分の話を聞き入れてくれると勘違いしたのか嬉しそうに話し出した。
「お姉様は屋敷でもみんなに慕われています、頭も良くてお綺麗です。怒られることもありません。
わたしはいつも一人です、特に何ができるわけでもないわたしです。
どうしていつもわたしだけが我慢しなくてはいけないのですか?
お姉様はお父様にもお母様にもわたしにも似ておりません。どう見ても他所の子にしか見えません。
ならば排除するべきではありませんか?要らないモノは捨てるべきです」
「お前にとってアイシャは要らないモノなのか?」
「はい、だってわたしの心を掻き乱す人です。わたしには要らないモノです。お父様は今日やっとわたしの思っていることをきちんと聞いてくださったわ、とても嬉しいです」
ターナはとても嬉しそうに満足気に微笑んだ。
その微笑みはどこか歪んで恐ろしい娘にしか見えなかった。
ーーわたしはリサに対してもターナに対しても間違った対応しかしていなかったのか……
二人の、アイシャへの嫉妬心は血が繋がった者への感情とは言い難い。
狂気にも見える。
アイシャは聡明で才能豊かで誰もが振り返ってしまう程の美しさを持つ娘だ。
時に人を狂わせてしまうのだろうか。
リサ、ターナ、殿下、そしてエレン夫人までもがアイシャを憎み、それ以上に焦がれているように見える。
リサは今、母上と共に過ごしているが毎日厳しい言葉と態度に辛い日々を過ごしていると報告を受けている。
今まで公爵令嬢、そして王族として過ごしてきたリサ。
そしてわたしと結婚してからは公爵夫人として過ごしてきた。
傲慢で優しさに少し欠けるところがあったのは確かだが、それを補うほどの魔力と賢さ、人を圧倒的な力で纏め上げ統率する力を持つ、皆から憧れの女性としてみられてきた。
そんなリサが、アイシャに対して嫉妬をしたのだ。
妹であるターナはそれ以上にアイシャへの嫉妬心をそして憧れを抱いたのだろう。
それがこんな歪んだ感情にまでなるとは……
「ターナ、アイシャは君の姉なんだ、血の繋がった。憎むべき人でも要らないモノでもないんだ。アイシャは君に一度でもひどい態度をとったことはあるのかい?邪険にしたり意地悪を言ったのかい?よく思い出してごらん」
「…っ、え?」
ターナは自信満々に答えていた態度から明らかに動揺し始めた。
目をキョロキョロさせている、頭の中で考えがぐるぐると回っているのだろう。
「………お姉様はいつもメリッサやロウトと楽しそうに過ごしていました。わたしは仲間に入れてもらえない。
お姉様は、魔法も碌に使えないくせに必死で練習をしていました。どうせ制御なんて出来ないくせに!
お姉様はわたし達三人で楽しく話していたら、横で黙って笑っていました。それがいつもイライラするんです!
お姉様はどんなにわたしが我儘を言っても困った顔をしながら笑ってるんです。何を言っても怒りもしない、泣きもしないんです!
お姉様なんか要らない!いつもいつもわたしのことを馬鹿にしてるんです!
わたしが必死で頑張ってもお姉様の方がなんでも出来て褒められるのはお姉様なんです!
貰い子のくせに!
使用人達から笑われて悪口言われても言い返さない!あの屋敷でお姉様の存在は必要ありません!わたしとお母様にとってお姉様は死ねばいいと思っています!」
バシッ‼︎
ターナの頬は真っ赤になってしまった。
わたしは娘の頬を叩いていた。
暴力だけはしてはいけない。
そう思っていたのに……
「どうしてお父様はわからないのですか?わたしもお母様もお姉様のせいで辛い思いをしているんです!
エレン夫人はわかってくれました。
わたしが可哀想だと、思っていることはハッキリと伝えるべきだと!
だからお姉様なんか嫌いだと貰い子のくせに屋敷で暮らしているのはおかしいと言いました。
それなのに、わたしを叩いた!
いつも守られるのはお姉様だけ!
狡いです!ずるいです!お姉様なんかもうこのまま消えてなくなればいいんです!」
「ターナ、感情的になって叩いてすまなかった。君はアイシャにしたことは悪いことではないと思っているんだね?」
「そうです」
「わかった、では残念ながらアイシャに今までしてきたことを体験してもらおう」
「え?お父様、何を仰っているのですか?」
ターナはわたしの言葉の意味が理解できずに不安そうにしていた。
わたしはターナを眠りにつかせそのまま医療研究所へ連れて行った。
そこは義父であるカイザ様の研究所だ。
魔法と医術を使った治療法を研究している。
カイザ様の時を止める魔法は、転生前のアイシャのような心臓病の時に活躍する。
アイシャの心臓だけ時を止めてその間に治療をするのだ。
これはかなり画期的な治療で我が国でしか出来ないことだ。
そしてここで研究されているのが、「夢」の治療だ。
病んだ精神疾患の患者から怖い夢を取り除き楽しい夢を見せるのだ。
もちろん未だ研究段階である。
ターナは治験者として選ばれた。
ターナにはターナが今までしてきたアイシャへの嫌がらせを本人に実体験してもらう。
それがターナへの罰だ。
心が壊れてしまうのではないか…カイザ様にやはりそこまでは…と躊躇してしまったが、カイザ様に言われた。
「ハイド、お前は優しい父親で夫だ。しかし公爵でもあり時には辛い判断もしなければいけない。ターナはあまりにも身勝手過ぎた。さらに王妃に対して不敬なことをし過ぎたんだ。アレに良心が残っていればアイシャと王妃を見間違うことはなかったはずだ。クリス殿下もターナもそしてエレン夫人も王妃がアイシャに見えてしまった。
それは良心がない、それほどアイシャを嫌い虐めることに喜びを感じていたんだ。少しでも良心があれば王妃は王妃としか見えなかったはずだ、そう魔法をかけていたからな」
「まだ8歳の娘です、今度やっと9歳になる娘なんです。アイシャもターナもわたしにとっては大事な娘なんです」
「わかっている、わたしにとっても二人は大事な孫だ。だからこそターナには今、人の苦しみや悲しみ、辛さを教えておかなければならないんだ。
この子は大人になっても他人を傷つけながらしか生きていけない人として最低な人間になってしまう」
「そうですね……もしそれでも直らなければターナもそしてリサも……地下で過ごすことにしましょう。わたしも家族と共にそこで一生を終わらせるのもいいかもしれませんね」
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