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6話

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「アイシャ、ずっとおかしいと思っていたの、最近のアイシャは無理して明るく振る舞っていたから。でもわたし達に気付かれたくないと思っているのもわかっていたからお父様と二人で見守っていたの……まさか殿下とターナがあなたを虐めていたなんて……」

わたしは下を向いて涙がポロポロ落ちてきて、鼻水も出て、頭もなんだか痛くて、どうしていいかわからなくなっていた。

「アイシャ、その傷は誰にされたの?」

いつもハキハキしていて少しきつめの印象のあるお母様、なのに今はとても優しくて、わたしに懇願するように話しかけてきた。

(本当のことを言っていいのかしら?でも、わたしは……本当の子供ではないのだから……)

「この怪我はわたしが転んだのです。心配かけてすみませんでした……お母様、ちょっと頭が痛いです……しばらく横になってもいいですか?」

「も、もちろんよ、アイシャ、横になってゆっくりしていてね」

お母様はわたしの傷にそっと触れて静かに部屋を出て行った。

「メリッサ、わたし寝るわ」

「アイシャ様……お話したくないのならわたしからは奥様には何も言いません、ロウトも何も伝えておりません。でも、いつか話せる時が来たら旦那様と奥様に話してください。そうしないとアイシャ様の心が壊れてしまいます」

「メリッサありがとう、そしてごめんなさい。わたし……使用人のみんなからなんて言われているか考えたら怖くて……メリッサのことも避けていたの」

「知っておりました。でもわたしとロウトはアイシャ様の味方です、たとえ旦那様達に何を聞かれてもアイシャ様が嫌がることは話しません。アイシャ様の笑顔がだんだん作り笑いになるのを見ているのが辛いです。ターナ様はアイシャ様が悲しそうな顔をするのを楽しんでいます。まだ小さいからとそれを許せばずっと続くことになると思います」

「いいの…もう慣れたわ……わたしが何を言われても楽しそうに笑顔でいるとターナはますますわたしに意地悪を言ってくるの、でもね別に暴力を振るわれるわけでもないしみんなから無視されるわけでもないからいいの、辛くはないわ」




◇ ◇ ◇

アイシャの怪我は転んでできた傷なわけがない。

それに最近のアイシャは無理して笑っている。

心から楽しそうに笑っていない。

母親としてどうしたらいいのかわからなくなって夫のハイドに相談した。

「アイシャは自分でなんとかしようと頑張っているんだ、わたし達はそっと見守るしかない。だが常にあの子のことを見ていよう、少しの変化も見逃さないように」

二人で話し合ったのに、見逃さないようにしていたつもりなのに……

殿下とターナがアイシャを虐めている?

ターナはいつもアイシャを慕って「お姉様!」と甘えているのに。

殿下だってずっとアイシャのことが好きで婚約したいと何度も話がきているのに。
それをまだ子供だからと、やんわりと断っていた。

アイシャは前回の人生であまりにも辛い思いをしてきた。
親に見捨てられ、使用人達に虐められ、婚約者の王子には放置され、王妃にはかなり酷い虐めにあった。

そして心臓病で手術をすれば助かるのに、自ら死を選んだ。

その時に立ち会ったのがわたしと父のカイザだった。

そしてアイシャはわたしとハイドの子供として生まれ変わった。

アイシャは全く前回の記憶がない。

明るく可愛らしくみんなに愛されるアイシャとして育った。

なのにどうして?

わたしは何をみていたの?

アイシャはわたし達に心を開かなくなってしまっている。
あの子の心は前回のアイシャのように壊れてしまう。

でも、わたしがそばにいると辛そうにしていた……

(あっ、今日はアイシャの誕生日だった……)

明日は家に帰ってお祝いしてあげるつもりだった。

なのに病院でアイシャに会っている間一度もアイシャの誕生日のことなんて頭になかった。

お祝いすらあげていない。

おめでとうって言ってあげたかしら……

その昔、アイシャの親達を責めたのにわたしも大して変わらない。
わたしもアイシャが良い子で明るくて手がかからないから、つい後回しにしてターナの方を構っていた。

ターナは甘え上手でついターナに目がいってしまう。
アイシャはいつも笑顔でわたし達がついターナを優先しても怒ったりヤキモチを妬いたりしないので、ターナから先になんでもしてあげるのが当たり前になっていた。

「アイシャ……」

「先生、急患です。お願いします」

「わかったわ、どういう状態?」

わたしは急ぎ患者の元へ向かった。


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