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わたしは誰かと婚約します②

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「わたしは殿下の乳母の娘で殿下の幼馴染でもあるのよ、殿下のお世話係だったの」
イリーンさんが怖い笑顔で殿下を見た。

「陛下には殿下のこと全て報告したわ」

「知らなかったとは言えセスティ嬢辛い思いをさせたな。
そして父親でもあるアイバーン男爵、お前も娘に甘え過ぎだろう!
妻が亡くなった悲しみはわかる、だが5年は長すぎだ!」

「すみません……気がつけば5年が経ち、セスティは一番可愛い時なのに痩せこけていました。見ていなかった、いや見ようとしていませんでした」

「セスティ嬢、今更だがコイツに謝罪をさせたいと思う」

殿下は、陛下の後ろから出てくると、わたしの近くにきて
「セスティ嬢、ずっと辛い思いをさせてすまなかった。わたしの浅はかな考えで君を犠牲にしていたことに気が付いたのが遅すぎた。何度か話しかけようとしたがもう君はわたしを見て恐怖していたのできちんと謝罪できなかった。
申し訳ない」

謝罪を受けなければいけない。
殿下が態々頭を下げてくださったんだから、陛下も見ている。

そうしないと不敬になる。

わかっている、わかっているのに……

受け入れられない………

「………………」
わたしは返事をしなかった。

これが殿下への返事だとみんなわかったようだ。

殿下は少し顔を歪めてわたしを見た。

わたしは固まったまま何も言わなかった。

「君がどんな辛い状態だったか気がついてずっと陰から見ていた。謝罪して終わる話ではないのもわかっていた。それでもわたしには謝るしか術がない、すまなかった」

「セスティ・アイバーン、許さなくていいと思うわ。殿下もセスティの辛さを味わえばいいのよ」

イリーンさんの毒舌がわたしをフォローしてくれた。

「そうだな、お前は人を貶めて自分だけ良ければいいと思い平気でいられたのだから、今度は自分がその枷を負うしかないな」

陛下もわたしが謝罪を受け入れないことを責めないでくれた。

「はい、肝に銘じます」
殿下はわたしに頭を下げるとその場から離れてくれた。

わたしは真っ青で体が震えていた。

イリーンさんがわたしの横に来てくれた。

「セスティ・アイバーン、大丈夫よ、もう怖くないからね」

「…はい、ありがとうございます」

わたしはもう帰っていいのかしら?

チラッとお父様を見ると、お父様はわたしが先ほど怒って言った発言に流石にショックを隠しきれずに落ち込んでいるようだった。

「セスティ嬢、息子のことはすまなかった、アレもかなり反省はしていると思う、許せとは言わないが謝罪の言葉は受け入れてやってはもらえぬか?」

「……すみません、わたしはとても心が狭いみたいです……いつか許せる時がくるとは思います。でもまだ殿下を見ると体調が悪くなります、どうか今はお許しください」

「……そうか……」

陛下は少し黙って、それから口を開いた。

「其方は婚約するらしいな、相手が誰か分かっているのか?」

「いえ、支度金が一番多い人と結婚するつもりです」

わたしはもうどうでもよかった。
陛下の前で殿下を許すことも謝罪を受け入れることもできなかった。
だったらもう今更笑顔で素直なセスティを演じる必要はない。

「ほお、それがどんな人でもいいのか」

「愛などお腹いっぱいにはなりません。愛だけでは服も買えません。わたしはわたしを高く買ってくれる方のもとへ嫁ぎます」

「アイバーン男爵、娘のこの言葉を聞いてどう思う」

「自分が情けないです。娘の辛さにも苦労にも目を向けず自分だけが辛いと悲しいと思って過ごしてきました。その間娘は一人で戦ってきたのですね」

「お父様……わたしは自分の価値を見出してくれる人の元へお嫁に行きます。たとえそこに愛がなくても、蔑まされて生きるよりいいです」

「男爵、娘の言葉を受け止めろ。セスティ嬢、言質は取った。では、彼と婚約を認めよう、一番高い金を出したんだ、絶対に文句は言うな」

「わかりました」

わたしは誰かわからない人と今婚約した。


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