【完結】母になります。

たろ

文字の大きさ
上 下
31 / 35

舞踏会②

しおりを挟む
 21歳のわたしは多分参加したことがあるらしい。
 でもわたしにとっては初めての舞踏会。

 名前も顔も知っている高位貴族の方もたくさんいる。もちろん向こうはわたしを知らないけど。

 ーーと思っていたらグレイ様は高位貴族。だからわたしにも声をかけてくださる方々が沢山いた。

「フォード夫人、今回はお辛かったと思います。少しはお気持ちも落ち着かれましたか?」
 ーーお父様のことを言ってるのね。
 わたしの辛い気持ちなんて誰にも分からないわ。でも以前のわたしのように塞ぎ込んで子供達に冷たく接するなんてしたくない。だからわたしは前を向くの。

 優しく声をかけてくださる年上の夫人もいたと思えばわたしより少し年上の夫人は。

「あら?もう舞踏会に参加なさるなんて。伯爵がお亡くなりになったのによく参加しようなんて思われましたわね。ふふ、流石に噂通りの方ですわ」
「フォード侯爵とは不仲だとお聞きしておりましたのに、お二人で参加なさるなんてどんな皮を被ってこられたのでしようね?」

 ーーううん?わたしって嫌われてるの?

 学生の時はみんなと仲良くしていて社交に出たことはないけど悪意を持たれたことはなかった。

 以前のわたしってかなり態度が悪かったのかしら?

 グレイ様は顔見知りの方達と挨拶をしたりしていてわたしはポツンと壁の花になってボーッとしていた。

 あまりの人に、友人や顔見知りを見つけるのは大変。ここは大人しくしておくべきだろう。

 嫌味な挨拶をしてくる人にはニコニコ笑顔で「あらぁ?そんなこと御座いませんわ」の言葉だけで通してみた。

 それ以外の言葉は一切言わない。何度も繰り返していたら諦めて去って行った。

 いちいち気にしていたら疲れてしまうわ。相手にしないのが一番だもの。

 ーーあっ、向こうに美味しそうなお肉の料理が沢山あるわ。

 お腹が空いたし、暇だし、あそこにはあまり女性はいないからちょうどいい!

 うるさい令嬢達から逃げるため料理がある場所へこっそり移動していたら、腕を掴まれた。

「ティア!」

「だ、誰?」

 振り返ろうとしたらガシッと抱きしめられた。

「く、く…るしい……」

「ご、ごめん!わたしよ、セリナよ!ずっと連絡とっていたのに貴女は一度も手紙を返してくれなかったでしょう?だから心配になって今回の舞踏会に参加することにしたのよ?」

「セリナ様?………わたし、会いたかったの!もう頭の中が混乱してておかしくなりそうだったの!おじさんといきなり結婚していたし、兄様は亡くなっていると言うし、お父様まで病気で亡くなったと聞いて、もう不安で……なのにわたし子供がいるのよ!信じられないことばかりなの!」

「しっ!こんなところで話さない!あっちに行くわよ!」
 わたしの口を押さえて「うるさい」と叱った。
 ーーああ、わたしの大好きなセリナ様だ。少し大人になっているけど変わらない。

 セリナ様はわたしの腕を掴んで会場を出て王家専用の部屋へと向かった。

「ちょっと、待って!わたしお肉食べたかったのに!」

 会場を振り返り文句を言った。

「ティア、やっぱりあなた16歳のままの記憶しかないって本当だったのね?フォード侯爵から手紙で事情は聞いていたの。食いしん坊なところはそのままだわ」

「だってあのお肉、ローストビーフだったわ!わたしの大好きなお肉よ!いつもわたしが遊びにくると王宮の料理人が出してくれるでしょう?最近食べてなかったから楽しみにしていたの!」

「………後で持ってくるように言うから……とりあえず部屋に行きましょう。ティアと話をしたいの」

「わたしもいっぱい話したいことがあったの」


 部屋に入るとセリナ様はすぐに「料理を持ってきてあげて」とメイドに声をかけた。

 食事の用意が終わるとみんな部屋から出て二人っきりになった。

「記憶は戻っていないの?」

「全く……おかげでここ数ヶ月、以前のわたしの話を聞くたびに驚きしかないの。家族のことも……信じたくなかったわ、だけどお墓に行ったの……そしたら、嘘ではなかったわ」

「ティアは家族と仲が良かったから……結婚した時、借金で無理やり結婚させられたと思ってショックであなたは落ち込んでいたわ。わたしの力ではあなたを助けられなかった」

「ううん、わたし、多分……お父様達がわたしの身を守るために嫁がせたのに売られたと思い込んだみたいなの……大好きで信頼してたから、余計にショックが強かったのだと思う。セリナ様は王族よ?いちいち大変だからと一貴族を助けていたらキリがないし、他の貴族から不満の声が出てしまうわ。常に公平でいないといけないもの」

「今のティアは昔のままね、人の話がちゃんと聞けるようになったのね?」

「へっ?当たり前じゃない!」

「当たり前じゃなかった!わたしの声があなたには全く届かなかった!ずっと心配してたんだから!他国に嫁ぐことになって会えなくて……何度手紙を送っても返事ももらえず……シャイナー伯爵が亡くなったと聞いてもっと最悪な状態になってるんじゃないかと心配で……」

 セリナ様は涙をいっぱい溜めていた。

「ごめんなさい……心配かけて……記憶をなくしたわたしは……今頑張って現実と向き合ってるの……グレイ様とも話すようになったし、ノエル君の母親になろうと頑張ってるところなの」

「ノエル君と?あれだけ嫌がってたのに?フォード侯爵のことなんて毛嫌いしてたのよ?」

「……そうみたいだね……わたしって酷い母親だったよね……我が子にあんな態度をとっていたのだもの」

「ほんとだわ!わたしに対してもよ!親友のわたしを無視して!」

 ーー5年間の記憶をなくして大切なものも沢山失ったと思っていたのに、ここにまだ変わらなくわたしを想ってくれる人がいた。

 セリナ様に叱られながらもしっかりとお肉を食べていると「ティアがまた戻ってきてくれて嬉しいわ」と言った。


しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

転生した王妃は親バカでした

ぶるもあきら
恋愛
い、いだーーいぃーー あまりの激痛に目がチカチカする。 それがキッカケの様にある景色が頭にうかぶ、 日本…東京… あれ?私アラフォーのシングルマザーだったよね? 「王妃様、もう少しです!頑張ってください!!」 お、王妃様って!? 誰それ!! てかそれより いだーーーいぃー!! 作家をしながらシングルマザーで息子と2人で暮らしていたのに、何故か自分の書いた小説の世界に入り込んでしまったようだ… しかも性格最悪の大ボスキャラの王妃バネッサに! このままストーリー通りに進むと私には破滅の未来しかないじゃない!! どうする? 大ボスキャラの王妃に転生したアラフォーが作家チートを使いながら可愛い我が子にメロメロ子育てするお話 我が子をただ可愛がっていたらストーリー上では夫婦ながらバネッサを嫌い、成敗するヒーローキャラの国王もなんだか絡んできて、あれれ?これってこんな話だったっけ?? *・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・* 拙い本作品を見つけてくれてありがとうございます。 毎日24時更新予定です。 (寝落ちにより遅れる事多々あり) 誤字脱字がありましたら、そっと教えてくれると嬉しいです。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

処理中です...