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舞踏会②
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21歳のわたしは多分参加したことがあるらしい。
でもわたしにとっては初めての舞踏会。
名前も顔も知っている高位貴族の方もたくさんいる。もちろん向こうはわたしを知らないけど。
ーーと思っていたらグレイ様は高位貴族。だからわたしにも声をかけてくださる方々が沢山いた。
「フォード夫人、今回はお辛かったと思います。少しはお気持ちも落ち着かれましたか?」
ーーお父様のことを言ってるのね。
わたしの辛い気持ちなんて誰にも分からないわ。でも以前のわたしのように塞ぎ込んで子供達に冷たく接するなんてしたくない。だからわたしは前を向くの。
優しく声をかけてくださる年上の夫人もいたと思えばわたしより少し年上の夫人は。
「あら?もう舞踏会に参加なさるなんて。伯爵がお亡くなりになったのによく参加しようなんて思われましたわね。ふふ、流石に噂通りの方ですわ」
「フォード侯爵とは不仲だとお聞きしておりましたのに、お二人で参加なさるなんてどんな皮を被ってこられたのでしようね?」
ーーううん?わたしって嫌われてるの?
学生の時はみんなと仲良くしていて社交に出たことはないけど悪意を持たれたことはなかった。
以前のわたしってかなり態度が悪かったのかしら?
グレイ様は顔見知りの方達と挨拶をしたりしていてわたしはポツンと壁の花になってボーッとしていた。
あまりの人に、友人や顔見知りを見つけるのは大変。ここは大人しくしておくべきだろう。
嫌味な挨拶をしてくる人にはニコニコ笑顔で「あらぁ?そんなこと御座いませんわ」の言葉だけで通してみた。
それ以外の言葉は一切言わない。何度も繰り返していたら諦めて去って行った。
いちいち気にしていたら疲れてしまうわ。相手にしないのが一番だもの。
ーーあっ、向こうに美味しそうなお肉の料理が沢山あるわ。
お腹が空いたし、暇だし、あそこにはあまり女性はいないからちょうどいい!
うるさい令嬢達から逃げるため料理がある場所へこっそり移動していたら、腕を掴まれた。
「ティア!」
「だ、誰?」
振り返ろうとしたらガシッと抱きしめられた。
「く、く…るしい……」
「ご、ごめん!わたしよ、セリナよ!ずっと連絡とっていたのに貴女は一度も手紙を返してくれなかったでしょう?だから心配になって今回の舞踏会に参加することにしたのよ?」
「セリナ様?………わたし、会いたかったの!もう頭の中が混乱してておかしくなりそうだったの!おじさんといきなり結婚していたし、兄様は亡くなっていると言うし、お父様まで病気で亡くなったと聞いて、もう不安で……なのにわたし子供がいるのよ!信じられないことばかりなの!」
「しっ!こんなところで話さない!あっちに行くわよ!」
わたしの口を押さえて「うるさい」と叱った。
ーーああ、わたしの大好きなセリナ様だ。少し大人になっているけど変わらない。
セリナ様はわたしの腕を掴んで会場を出て王家専用の部屋へと向かった。
「ちょっと、待って!わたしお肉食べたかったのに!」
会場を振り返り文句を言った。
「ティア、やっぱりあなた16歳のままの記憶しかないって本当だったのね?フォード侯爵から手紙で事情は聞いていたの。食いしん坊なところはそのままだわ」
「だってあのお肉、ローストビーフだったわ!わたしの大好きなお肉よ!いつもわたしが遊びにくると王宮の料理人が出してくれるでしょう?最近食べてなかったから楽しみにしていたの!」
「………後で持ってくるように言うから……とりあえず部屋に行きましょう。ティアと話をしたいの」
「わたしもいっぱい話したいことがあったの」
部屋に入るとセリナ様はすぐに「料理を持ってきてあげて」とメイドに声をかけた。
食事の用意が終わるとみんな部屋から出て二人っきりになった。
「記憶は戻っていないの?」
「全く……おかげでここ数ヶ月、以前のわたしの話を聞くたびに驚きしかないの。家族のことも……信じたくなかったわ、だけどお墓に行ったの……そしたら、嘘ではなかったわ」
「ティアは家族と仲が良かったから……結婚した時、借金で無理やり結婚させられたと思ってショックであなたは落ち込んでいたわ。わたしの力ではあなたを助けられなかった」
「ううん、わたし、多分……お父様達がわたしの身を守るために嫁がせたのに売られたと思い込んだみたいなの……大好きで信頼してたから、余計にショックが強かったのだと思う。セリナ様は王族よ?いちいち大変だからと一貴族を助けていたらキリがないし、他の貴族から不満の声が出てしまうわ。常に公平でいないといけないもの」
「今のティアは昔のままね、人の話がちゃんと聞けるようになったのね?」
「へっ?当たり前じゃない!」
「当たり前じゃなかった!わたしの声があなたには全く届かなかった!ずっと心配してたんだから!他国に嫁ぐことになって会えなくて……何度手紙を送っても返事ももらえず……シャイナー伯爵が亡くなったと聞いてもっと最悪な状態になってるんじゃないかと心配で……」
セリナ様は涙をいっぱい溜めていた。
「ごめんなさい……心配かけて……記憶をなくしたわたしは……今頑張って現実と向き合ってるの……グレイ様とも話すようになったし、ノエル君の母親になろうと頑張ってるところなの」
「ノエル君と?あれだけ嫌がってたのに?フォード侯爵のことなんて毛嫌いしてたのよ?」
「……そうみたいだね……わたしって酷い母親だったよね……我が子にあんな態度をとっていたのだもの」
「ほんとだわ!わたしに対してもよ!親友のわたしを無視して!」
ーー5年間の記憶をなくして大切なものも沢山失ったと思っていたのに、ここにまだ変わらなくわたしを想ってくれる人がいた。
セリナ様に叱られながらもしっかりとお肉を食べていると「ティアがまた戻ってきてくれて嬉しいわ」と言った。
でもわたしにとっては初めての舞踏会。
名前も顔も知っている高位貴族の方もたくさんいる。もちろん向こうはわたしを知らないけど。
ーーと思っていたらグレイ様は高位貴族。だからわたしにも声をかけてくださる方々が沢山いた。
「フォード夫人、今回はお辛かったと思います。少しはお気持ちも落ち着かれましたか?」
ーーお父様のことを言ってるのね。
わたしの辛い気持ちなんて誰にも分からないわ。でも以前のわたしのように塞ぎ込んで子供達に冷たく接するなんてしたくない。だからわたしは前を向くの。
優しく声をかけてくださる年上の夫人もいたと思えばわたしより少し年上の夫人は。
「あら?もう舞踏会に参加なさるなんて。伯爵がお亡くなりになったのによく参加しようなんて思われましたわね。ふふ、流石に噂通りの方ですわ」
「フォード侯爵とは不仲だとお聞きしておりましたのに、お二人で参加なさるなんてどんな皮を被ってこられたのでしようね?」
ーーううん?わたしって嫌われてるの?
学生の時はみんなと仲良くしていて社交に出たことはないけど悪意を持たれたことはなかった。
以前のわたしってかなり態度が悪かったのかしら?
グレイ様は顔見知りの方達と挨拶をしたりしていてわたしはポツンと壁の花になってボーッとしていた。
あまりの人に、友人や顔見知りを見つけるのは大変。ここは大人しくしておくべきだろう。
嫌味な挨拶をしてくる人にはニコニコ笑顔で「あらぁ?そんなこと御座いませんわ」の言葉だけで通してみた。
それ以外の言葉は一切言わない。何度も繰り返していたら諦めて去って行った。
いちいち気にしていたら疲れてしまうわ。相手にしないのが一番だもの。
ーーあっ、向こうに美味しそうなお肉の料理が沢山あるわ。
お腹が空いたし、暇だし、あそこにはあまり女性はいないからちょうどいい!
うるさい令嬢達から逃げるため料理がある場所へこっそり移動していたら、腕を掴まれた。
「ティア!」
「だ、誰?」
振り返ろうとしたらガシッと抱きしめられた。
「く、く…るしい……」
「ご、ごめん!わたしよ、セリナよ!ずっと連絡とっていたのに貴女は一度も手紙を返してくれなかったでしょう?だから心配になって今回の舞踏会に参加することにしたのよ?」
「セリナ様?………わたし、会いたかったの!もう頭の中が混乱してておかしくなりそうだったの!おじさんといきなり結婚していたし、兄様は亡くなっていると言うし、お父様まで病気で亡くなったと聞いて、もう不安で……なのにわたし子供がいるのよ!信じられないことばかりなの!」
「しっ!こんなところで話さない!あっちに行くわよ!」
わたしの口を押さえて「うるさい」と叱った。
ーーああ、わたしの大好きなセリナ様だ。少し大人になっているけど変わらない。
セリナ様はわたしの腕を掴んで会場を出て王家専用の部屋へと向かった。
「ちょっと、待って!わたしお肉食べたかったのに!」
会場を振り返り文句を言った。
「ティア、やっぱりあなた16歳のままの記憶しかないって本当だったのね?フォード侯爵から手紙で事情は聞いていたの。食いしん坊なところはそのままだわ」
「だってあのお肉、ローストビーフだったわ!わたしの大好きなお肉よ!いつもわたしが遊びにくると王宮の料理人が出してくれるでしょう?最近食べてなかったから楽しみにしていたの!」
「………後で持ってくるように言うから……とりあえず部屋に行きましょう。ティアと話をしたいの」
「わたしもいっぱい話したいことがあったの」
部屋に入るとセリナ様はすぐに「料理を持ってきてあげて」とメイドに声をかけた。
食事の用意が終わるとみんな部屋から出て二人っきりになった。
「記憶は戻っていないの?」
「全く……おかげでここ数ヶ月、以前のわたしの話を聞くたびに驚きしかないの。家族のことも……信じたくなかったわ、だけどお墓に行ったの……そしたら、嘘ではなかったわ」
「ティアは家族と仲が良かったから……結婚した時、借金で無理やり結婚させられたと思ってショックであなたは落ち込んでいたわ。わたしの力ではあなたを助けられなかった」
「ううん、わたし、多分……お父様達がわたしの身を守るために嫁がせたのに売られたと思い込んだみたいなの……大好きで信頼してたから、余計にショックが強かったのだと思う。セリナ様は王族よ?いちいち大変だからと一貴族を助けていたらキリがないし、他の貴族から不満の声が出てしまうわ。常に公平でいないといけないもの」
「今のティアは昔のままね、人の話がちゃんと聞けるようになったのね?」
「へっ?当たり前じゃない!」
「当たり前じゃなかった!わたしの声があなたには全く届かなかった!ずっと心配してたんだから!他国に嫁ぐことになって会えなくて……何度手紙を送っても返事ももらえず……シャイナー伯爵が亡くなったと聞いてもっと最悪な状態になってるんじゃないかと心配で……」
セリナ様は涙をいっぱい溜めていた。
「ごめんなさい……心配かけて……記憶をなくしたわたしは……今頑張って現実と向き合ってるの……グレイ様とも話すようになったし、ノエル君の母親になろうと頑張ってるところなの」
「ノエル君と?あれだけ嫌がってたのに?フォード侯爵のことなんて毛嫌いしてたのよ?」
「……そうみたいだね……わたしって酷い母親だったよね……我が子にあんな態度をとっていたのだもの」
「ほんとだわ!わたしに対してもよ!親友のわたしを無視して!」
ーー5年間の記憶をなくして大切なものも沢山失ったと思っていたのに、ここにまだ変わらなくわたしを想ってくれる人がいた。
セリナ様に叱られながらもしっかりとお肉を食べていると「ティアがまた戻ってきてくれて嬉しいわ」と言った。
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