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ノエルの母として。
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グレイ様との話はとりあえずここで終わった。
「ノエル君のところへ行かなきゃ!」
話がかなり長くなった。タバサとメイドのミサに頼んでノエル君をみてもらっているとはいえ気になって仕方がない。
ショックを受けて項垂れているグレイ様を横目にみながら「あなたはどうされるのですか?」と冷たく言った。
「どうするとは……?」
「ノエル君に会おうとは思わないのですか?あんなに苦しんでいる我が子に愛情すらないのですか?嫌われているのは仕方がないし、勝手に傷ついていればいいと思います。だけどノエル君は……あ……父親は求めていないみたいだけど…………うーん、確かに……『パパ』とは呼んでいないわ。
『ママ』と求めてはいたけど………」
「そ、そうか…やはり、そうだよな………」
「で、でも、やはり会いに行ってあげて欲しいです。アンミリカさんに虐げられて今度は熱を出してとても心細くてとても弱っていると思うんです。今必要なのは愛情です、あなたにもノエル君への愛情はあるのでしょう?」
「ある!しかし………嫌われているし怖がられているんだ……さらに体調が悪くなったらどうするんだ……」
「たしかに!そのムスッとした怖い顔は嫌われますよね?わたしでも怖いんだもの………少しは笑顔なんて作れませんよね?」
「こうか?」
そう言って口角を少しだけあげて笑おうとするのだが……
ーー怖すぎ………
わたしの顔が引き攣っているのをみて「そんなに怖いか?」と聞かれたので正直に答えた。
「笑った顔が怖い人なんて初めてみました。グレイ様って顔立ちは綺麗なのに表情筋が死滅しているんですね?
同じ顔でもノエル君の笑顔は可愛らしくて天使のようで、もうウリウリしたくなるくらい可愛くて、思わず抱きしめてしまいますが、グレイ様にはそんな感情なんて湧かないですもの」
「ウリウリ?なんだそれは?」
「わたしの頬をノエル君の頬に頬擦りすることです。もうギュッと抱きしめてついでにキスもしたくなります!あの可愛さは罪ですよ!あんな可愛らしく産んだわたしは天才ですよ!!そう思いませんか?」
「産んだ記憶があるのか?」
「………いえ……全く……でも、わたしが産んだのでしょう?グレイ様の愛人かアンミリカさんだと思っていたけど、わたしが産んだのなら納得です!だからあんな可愛らしい天使が生まれたんですよね?ふふっ、わたし『ママ』なんですね」
「君は受け入れたのか?受け入れられたのか?」
「……あなたの妻としては…よくわかりませんがノエル君のママなら受け入れられます!……まだ兄様のことは………………受け入れたくありませんが……」
ーー兄様の死なんて受けいれられない。信じたくないの。
「ノエル君?」
ノックをせずに部屋に入るとタバサ達はベッドから離れて二人とも椅子に座り刺繍をしたり縫い物をしていた。
「あ……ティア様…………」
タバサは口に人差し指を当て静かにするようにと、入ってきたわたしに向かって小さな声で言ったので、わたしも慌てて口を手で塞いだ。
ベッドに近寄るとスースーと寝息が聞こえてきた。まだ顔は真っ赤で熱がある。
小さな可愛らしい手をそっと握るとほんの少し手を握り返してきた。その手はまだ熱かった。
額に乗せていたぬるくなった濡れたタオルをそっと取って水桶の中に入れて冷たくして絞り、また熱い額にそっと乗せた。
タバサがベッドに近づいてきた。
「ティア様……お話を聞いたのですね?」
わたしはコクンと頷いた。
ノエル君をみてずっと愛おしい、可愛いと思っていたのはわたしが母親だったからだ。
記憶を失う前のわたしはこんな可愛らしいノエル君を放置していた。なんて酷い母親だったのだろう。
虐げられ傷だらけだったノエル君。もし助け出されなかったら今もこんな小さな体で耐えていなければいけなかった。
あの女……やはり絶対許せない!!アンミリカさんのことを思い出すと一発、いや十発くらい殴っておけばよかった。
殺意が芽生えそう。
ノエル君がされたことをアンミリカさんにもしてやりたい!ううん、わたしが、同じことをされないと……
アンミリカさんはカルロの前では絶対にバレないようにしていたらしい。子供達にも脅して恐怖心を与え絶対泣いたり助けを求めたりしないように言いつけていたらしい。
子供にとって大人は大きくて逆らうことができない。従うしかなかったのだろう。
アリスちゃんは別の部屋でお昼中らしい。アリスちゃんも大人の犠牲者だ。無理やり孤児院から引き取られノエル君の友達にさせられ虐待されていたのだから。
あんな小さな体で必死でお姉ちゃんだからとノエル君を庇っていたらしい。
二人とも服を脱げば痣だらけだった。
食事も減らされ痩せ細っているし……
わたしは以前の自分の甘えに叱咤してしまいそう。
ーー甘えるな!!!
自分だけがこの世の中で不幸だなんて思っていたのだろうと思うと、自分に腹が立って仕方がない。
なんて馬鹿なことをしたんだろう。こんな可愛い子供達に辛い思いをさせて……グレイ様に色々言ったけど……こども達のこの不幸な出来事はわたしが発端なんだから責められない。
ノエル君………こんなわたしだけど……
あなたの母になってもいいかな……
いつかあなたに全てを話して許してもらえなくても……わたしはあなたの母になりたいです。
「ノエル君のところへ行かなきゃ!」
話がかなり長くなった。タバサとメイドのミサに頼んでノエル君をみてもらっているとはいえ気になって仕方がない。
ショックを受けて項垂れているグレイ様を横目にみながら「あなたはどうされるのですか?」と冷たく言った。
「どうするとは……?」
「ノエル君に会おうとは思わないのですか?あんなに苦しんでいる我が子に愛情すらないのですか?嫌われているのは仕方がないし、勝手に傷ついていればいいと思います。だけどノエル君は……あ……父親は求めていないみたいだけど…………うーん、確かに……『パパ』とは呼んでいないわ。
『ママ』と求めてはいたけど………」
「そ、そうか…やはり、そうだよな………」
「で、でも、やはり会いに行ってあげて欲しいです。アンミリカさんに虐げられて今度は熱を出してとても心細くてとても弱っていると思うんです。今必要なのは愛情です、あなたにもノエル君への愛情はあるのでしょう?」
「ある!しかし………嫌われているし怖がられているんだ……さらに体調が悪くなったらどうするんだ……」
「たしかに!そのムスッとした怖い顔は嫌われますよね?わたしでも怖いんだもの………少しは笑顔なんて作れませんよね?」
「こうか?」
そう言って口角を少しだけあげて笑おうとするのだが……
ーー怖すぎ………
わたしの顔が引き攣っているのをみて「そんなに怖いか?」と聞かれたので正直に答えた。
「笑った顔が怖い人なんて初めてみました。グレイ様って顔立ちは綺麗なのに表情筋が死滅しているんですね?
同じ顔でもノエル君の笑顔は可愛らしくて天使のようで、もうウリウリしたくなるくらい可愛くて、思わず抱きしめてしまいますが、グレイ様にはそんな感情なんて湧かないですもの」
「ウリウリ?なんだそれは?」
「わたしの頬をノエル君の頬に頬擦りすることです。もうギュッと抱きしめてついでにキスもしたくなります!あの可愛さは罪ですよ!あんな可愛らしく産んだわたしは天才ですよ!!そう思いませんか?」
「産んだ記憶があるのか?」
「………いえ……全く……でも、わたしが産んだのでしょう?グレイ様の愛人かアンミリカさんだと思っていたけど、わたしが産んだのなら納得です!だからあんな可愛らしい天使が生まれたんですよね?ふふっ、わたし『ママ』なんですね」
「君は受け入れたのか?受け入れられたのか?」
「……あなたの妻としては…よくわかりませんがノエル君のママなら受け入れられます!……まだ兄様のことは………………受け入れたくありませんが……」
ーー兄様の死なんて受けいれられない。信じたくないの。
「ノエル君?」
ノックをせずに部屋に入るとタバサ達はベッドから離れて二人とも椅子に座り刺繍をしたり縫い物をしていた。
「あ……ティア様…………」
タバサは口に人差し指を当て静かにするようにと、入ってきたわたしに向かって小さな声で言ったので、わたしも慌てて口を手で塞いだ。
ベッドに近寄るとスースーと寝息が聞こえてきた。まだ顔は真っ赤で熱がある。
小さな可愛らしい手をそっと握るとほんの少し手を握り返してきた。その手はまだ熱かった。
額に乗せていたぬるくなった濡れたタオルをそっと取って水桶の中に入れて冷たくして絞り、また熱い額にそっと乗せた。
タバサがベッドに近づいてきた。
「ティア様……お話を聞いたのですね?」
わたしはコクンと頷いた。
ノエル君をみてずっと愛おしい、可愛いと思っていたのはわたしが母親だったからだ。
記憶を失う前のわたしはこんな可愛らしいノエル君を放置していた。なんて酷い母親だったのだろう。
虐げられ傷だらけだったノエル君。もし助け出されなかったら今もこんな小さな体で耐えていなければいけなかった。
あの女……やはり絶対許せない!!アンミリカさんのことを思い出すと一発、いや十発くらい殴っておけばよかった。
殺意が芽生えそう。
ノエル君がされたことをアンミリカさんにもしてやりたい!ううん、わたしが、同じことをされないと……
アンミリカさんはカルロの前では絶対にバレないようにしていたらしい。子供達にも脅して恐怖心を与え絶対泣いたり助けを求めたりしないように言いつけていたらしい。
子供にとって大人は大きくて逆らうことができない。従うしかなかったのだろう。
アリスちゃんは別の部屋でお昼中らしい。アリスちゃんも大人の犠牲者だ。無理やり孤児院から引き取られノエル君の友達にさせられ虐待されていたのだから。
あんな小さな体で必死でお姉ちゃんだからとノエル君を庇っていたらしい。
二人とも服を脱げば痣だらけだった。
食事も減らされ痩せ細っているし……
わたしは以前の自分の甘えに叱咤してしまいそう。
ーー甘えるな!!!
自分だけがこの世の中で不幸だなんて思っていたのだろうと思うと、自分に腹が立って仕方がない。
なんて馬鹿なことをしたんだろう。こんな可愛い子供達に辛い思いをさせて……グレイ様に色々言ったけど……こども達のこの不幸な出来事はわたしが発端なんだから責められない。
ノエル君………こんなわたしだけど……
あなたの母になってもいいかな……
いつかあなたに全てを話して許してもらえなくても……わたしはあなたの母になりたいです。
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