【完結】母になります。

たろ

文字の大きさ
上 下
1 / 35

記憶をなくしたわたし。

しおりを挟む
「あー、頭が痛い」

 目が覚めた瞬間、ズキズキと痛む右側の頭に痛み。

「ねぇ、タバサ、ここを見てちょうだい」

「ティア様!目覚めてすぐ起きられて大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないわよ。とっても痛いの、わたしどうしてこんなに痛いのかわからないわ」

「…えっ?」
 タバサは一瞬驚いて手を止めた。

「もう!水!水がコップから溢れているわよ!」

 タバサがピッチャーからコップにお水を入れていたのに……

 もう!ほんと何してるの!

 怒ろうとしたらタバサが「す、すみません……あ、あの……」
 ピッチャーとコップをテーブルに置くと恐る恐るわたしの顔を覗く。

「ティア様………ご自分がどうして頭が痛いのか、頭の怪我のことお忘れなのですか?」

「頭の怪我?」
 そういえば痛いのは、中ではなく……外?のような気がするわね。

 恐る恐る頭を触ると「う、うわっ!」包帯が頭にぐるぐる巻きにされていた。

「タバサ!わたしどうしたの?」

 それによく部屋を見ると………


「ねぇ、ここはどこ?そういえばタバサったら老けたわね?ふふっ、どうしたの?疲れているのかしら?わたしそんなにタバサをこき使った覚えはないのに」

「ティア様…………」

「うん?どうしたの?」

 タバサは驚きわたしに恐る恐る尋ねる。

「覚えておられないのですか?」

「何を?どうしてわたしがここにいるのかはわからないわ。でも今朝二人でミルフォードの街へ遊びに行こうと約束したことは覚えているわ。お父様に許可をもらわないといけないわねと話したじゃない?」

「………ここはそのミルフォードの街の中にあるお屋敷です」

「何を言ってるのよ?ミルフォードは我が家から二日もかかるのよ?簡単に来れるわけがないじゃない?」

「ティア様は今………おいくつですか?」

「もう!馬鹿なことを聞かないで!わたしは16歳になったばかりよ!この前みんなが誕生日のお祝いをしてくれたでしょう?お兄様も久しぶりに領地から帰ってこられて楽しかったわ」

「あ、ああああああ~、なんてことでしょう」

 タバサが突然泣き出した。

「もうなんなの?」
 意味がわからないわ。ここはどこなの?タバサったら見慣れないメイド服を着てるけどいつ替えたのかしら?

 今度メイド長のツェンと話さないといけないわね。お屋敷のことはわたしを通して決めていたはずなのに。

「ツェンはどこ?呼んできて頂戴!」

「ティア様………驚かないでください……今ティア様のお歳は21歳なんです」

「はあああああああ?何を馬鹿なことを言ってるの。もうタバサったらいくらわたしが頭の怪我をしたからってそんなこと信じるわけがないじゃない!」

 あまりの話に驚いて叫んでいると「おい!」と知らない男の人が入ってきた。

 怖い顔をしてムスッとしたおじさんは、わたしを睨みつけていた。

「きゃあーーーー!誰?このおじさん!レディの部屋に勝手に入ってきたわ!タバサ!追い出して!」

「ふ、ふざけるな!!誰がおじさんだ!」
 怒りで体をプルプルさせているのをじっと見ていると……

 ーーうん?確かにおじさんとまではいかないかしら?よく見たらわたしより年上だけど……20代みたいだし、お顔もとても綺麗な顔だわ。

 銀髪の髪は光に当たってキラキラしてるし、アイスブルーの瞳がとても綺麗だわ。

「タバサ、この知らない人は誰?どうしてわたしのことを怒っているのかしら?」

 わたしの質問に困った顔をしたタバサは言いにくそうに咳払いをしてから小さな声で呟いた。

「………ダンナサマ………です……」

「えっ?」

「だから……ティア様の……オット……デス」

「はあああああああああああ?何ふざけたこと言ってるの?わたしこの前16歳になったばかりなのよ?結婚なんてするわけないでしょう?しかも婚約者もいないのよ?それにこんなおじさんとわたしが結婚するわけないじゃない!
 わたし、うら若き乙女なのよ!」

「いや、だからティア様はもう21歳の侯爵夫人です!旦那様はおじさんではなく25歳の侯爵で王立騎士団の第一騎士団の隊長をされている立派な方です!」


「もう、冗談はいい加減にしてとさっきから言ってるじゃない!真面目なタバサがそんなことばっかり言うなんて珍しいわね?」

 タバサは突然ドレッサーの引き出しを開けて手鏡を取り出した。

 ーーあっ……お母様の形見の手鏡だわ。

 するとわたしの前に差し出してわたしの顔を写した。


「い、いやあーーーー!」

 わたしはまた大きな声を出した。

 だってそこにいるのはピチピチの肌の可愛らしいわたしではなく少し落ち着いた……疲れ切って青褪めて、包帯ぐるぐる巻きの……どう見ても16歳には見えない……だけど……『わたし』だった。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

転生した王妃は親バカでした

ぶるもあきら
恋愛
い、いだーーいぃーー あまりの激痛に目がチカチカする。 それがキッカケの様にある景色が頭にうかぶ、 日本…東京… あれ?私アラフォーのシングルマザーだったよね? 「王妃様、もう少しです!頑張ってください!!」 お、王妃様って!? 誰それ!! てかそれより いだーーーいぃー!! 作家をしながらシングルマザーで息子と2人で暮らしていたのに、何故か自分の書いた小説の世界に入り込んでしまったようだ… しかも性格最悪の大ボスキャラの王妃バネッサに! このままストーリー通りに進むと私には破滅の未来しかないじゃない!! どうする? 大ボスキャラの王妃に転生したアラフォーが作家チートを使いながら可愛い我が子にメロメロ子育てするお話 我が子をただ可愛がっていたらストーリー上では夫婦ながらバネッサを嫌い、成敗するヒーローキャラの国王もなんだか絡んできて、あれれ?これってこんな話だったっけ?? *・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・* 拙い本作品を見つけてくれてありがとうございます。 毎日24時更新予定です。 (寝落ちにより遅れる事多々あり) 誤字脱字がありましたら、そっと教えてくれると嬉しいです。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

相手不在で進んでいく婚約解消物語

キムラましゅろう
恋愛
自分の目で確かめるなんて言わなければよかった。 噂が真実かなんて、そんなこと他の誰かに確認して貰えばよかった。 今、わたしの目の前にある光景が、それが単なる噂では無かったと物語る……。 王都で近衛騎士として働く婚約者に恋人が出来たという噂を確かめるべく単身王都へ乗り込んだリリーが見たものは、婚約者のグレインが恋人と噂される女性の肩を抱いて歩く姿だった……。 噂が真実と確信したリリーは領地に戻り、居候先の家族を巻き込んで婚約解消へと向けて動き出す。   婚約者は遠く離れている為に不在だけど……☆ これは婚約者の心変わりを知った直後から、幸せになれる道を模索して突き進むリリーの数日間の物語である。 果たしてリリーは幸せになれるのか。 5〜7話くらいで完結を予定しているど短編です。 完全ご都合主義、完全ノーリアリティでラストまで作者も突き進みます。 作中に現代的な言葉が出て来ても気にしてはいけません。 全て大らかな心で受け止めて下さい。 小説家になろうサンでも投稿します。 R15は念のため……。

処理中です...