【完結】愛されない王妃

たろ

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25話  カリクシード編

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 俺はここでは王として誰からも敬意を払われない。

 もちろん戦に負け捕まり誰にも敬われることはないのかもしれない。

 だが、こんな平民達に、そして俺の言う命令を全て聞いていたはずの騎士達だって俺を軽蔑した冷たい目で見ている。

「くそっ!」
 俺が殴りかかろうとするとベルナンド皇帝が「やめとけ」と冷たく言った。

「こいつらは自分の立場がわかっていない。たとえ戦に負けたとはいえこの国の王であった俺を敬わないとはどう言うことなんだ?」

「お前にそれだけの価値がないからだろう?それにこの場所はジュリエットが大切にしてきた場所だ。ジュリエットを蔑ろにしてきたお前に誰が敬う?
 誰がお前にこうべを下げるんだ?俺なら絶対にしない。本当なら今すぐその首を切ってその辺に捨ててしまいたいところだが、お前にはジュリエットがどれだけ聡明ですごい女なのか分からせてからしか殺さない」

「ジュリエット?あの女が聡明?傲慢で我儘で自分のことしか考えない。俺の大切な妹とクリシアを苦しめる元凶。
 無理やり正妃になって威張り散らすだけの女。笑いもせず可愛げすらない。
 地下牢で死んだふりしてこの国をさっさと捨てて逃げた馬鹿な女だろう?」

「お前……」
 ベルナンド皇帝が俺を殴ろうとした。なのに、グッと拳を握りしめたままその手を止めた。

「お前には殴る価値もない。ジュリエットが逃げた?逃げたんじゃなくお前を見限った貴族達がジュリエットを逃したんだ」

「あいつらは捕まえて牢にぶち込んだ。国王である俺を裏切りやがって!」

「は?もうすでに牢から出してこの国の再建のために働いてもらっている。碌でもない国王のせいでこの国はかなりの貧困を強いられていたんだ。悪政が至る所で行われなかなか粛清するには時間がかかっているが膿は全て出し尽くすつもりだ」

「ふざけるな!俺はこの国のために精一杯頑張ってきた!マリーナもクリシアも!一番何もせず王妃という立場に固執して政務をまともに行わなかったのはジュリエットだ!あの女のせいでこの国は衰退したんだ!」

「馬鹿に何を言っても無駄だ。話す価値もない、そして殴る価値もない。みんなこんなクズの男は放っておけ。ただし逃げ出したら即殺せ!」

 ベルナンド皇帝は俺をクズと言った。


 くそっ、くそっ、くそっ!!

 俺が何をしたというんだ。きちんと父上から言われた仕事はこなしてきた。

 俺は王として威厳を持ち周りに尊敬され、立派にやってきたんだ。

 なのに、なのに、こいつらは、俺に価値がないと?

 なんで他国の者達が、この国の平民達と楽しそうにしているんだ。
 なんでこの国の騎士達が、他国の皇帝と親しげに笑い合っているんだ。


 俺は椅子にどかっと座って何もしなかった。
 もう言葉を発するのも馬鹿らしい。

 みんなが休憩中水を飲んだり差し入れられた果物を食べたりしていた。

 俺はそれを見て、(なぜ俺にはない?)と思うのだがそれを口にするのは嫌だった。


 すると薄汚い7歳くらいの女の子が俺のそばにきて、恐る恐る「どうぞ」と水の入ったコップとリンゴを持ってきた。

 どう見ても手は薄汚れている。こんな汚い子供から施しを受けるなんて……

「結構だ」

「…………で、でも……」

「向こうへ行け!汚い!」

「………王様、とっても体がキツそうだから……これ食べて元気になってほしい」

「はっ?」
 何を言ってるんだ。俺がキツそう?元気がない?それはそうだろう。

 戦に負け、牢に入れられていたんだ。

 だがしっかり食べ物は出されていたし、服とかもきちんとしたものを与えられていた。

 今だけは平民と変わらない服を着ているが、それはベルナンド皇帝も同じだった。

 そしてベルナンド皇帝達も、薄汚い奴らの手から水や果物を受け取り、美味しそうに食べていた。

 俺が平民の、それも子供に同情されている?

 カッとなった俺はその女の子の手を払いのけた。

 コップとリンゴが地面に転がった。そして女の子も転んでしまった。

 わざとではない。手を払いのけたら勝手に転んだんだ。

 俺は悪くない。

『大丈夫?』とか『すまない』とかそんな言葉が頭に浮かぶが平民にそんな言葉をかけようとは思わない。

 無視して座っていると、ベルナンド皇帝が転んだ女の子を抱き上げた。女の子は転んで泥で汚れているのに全く気にしていない。

「痛くないか?大丈夫か?」

「うん、だけどリンゴが……」
 泣きそうな声で女の子が言うと「洗えばいいんだ、気にするな」とベルナンド皇帝が優しい声で話しかけていた。

「新しいリンゴとお水持ってきます」

 俺にそう言うと、ベルナンド皇帝の手を離れて女の子がどこかへ行ってしまった。

 ベルナンド皇帝は俺をチラリと見たが何も言わずに去っていった。

 周りの目も俺を冷たく見てはいても、誰も話しかけてこようとはしない。

 まだ怒鳴られたほうがマシだ。

 俺は椅子にふんぞり返って座っているしかなかった。
 俺のプライドが許さなかった。

 女の子が「遅くなってごめんなさい、どうぞ」とまた何もなかったようにコップとリンゴを差し出した。

「ありがとう………さっきは………すまなかった」

 生まれて初めて人に謝罪した。

 屈辱的な気分になるかと思ったのに、謝罪できてホッとした。

 不思議な気分だった。

 女の子は「王様が元気になってまたこの国をよくしてくださいね」と言ってくれた。

 どんな褒め言葉よりどんなお世辞より心に沁みた。

 俺は俯いて何も言えなかった。


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