上 下
89 / 89

シャノンの大学生活

しおりを挟む
わたしはロイズの一年半遅れで大学に後期から入学した。
大学は飛び級も出来るので、とりあえずロイズと一緒に卒業しようと目標を決めた。

あとで知ったのだけど、わたしが大学に入るのに伴いお父様は、アパートを大学の近くに何棟か建てていた。

わたしは知らずにロイズに案内されて最初に見た部屋を気に入って、ロニーと二人で住む事になった。
アパートの前の小さな花壇には、わたしの好きな薔薇が咲いていた。
アパートの部屋は新築で二人で住むには丁度良い広さでてとても気に入った。

友人が出来て学園生活も楽しいと思えるようになった頃、事件は起きた。

ロニーは昼間はわたしが大学に行くのでその間はアパートの管理人を任されていた。

わたしが大学から帰ってくると、アパートの入り口でロニーが震えていた。

ロニーは中々のつわもののはずなのに震えているなんて何があったのだろうと慌てて駆け寄ると、涙目で
「こ、ここに、ね、猫がニャーと言ってアパートへ入っていきました。ど、どうしましょう」
と、震えだした。
(そう言えばロニーって昔っから猫がとっても苦手なのよね)

「ロニーはここで待っていてね、わたしが捕まえてくるからね」
わたしは急いでアパートの入り口から階段を上がり探し回った。
でもなかなか見つからない。

「ロニー、いないわ。どこかへ行ってしまったのではないかしら?」

「そ、そうですか……わかりました、では部屋へ戻りましょう」

ロニーは当たりをキョロキョロ見回しながら歩いて部屋の玄関前に立つと、カギを開けた。

わたしが先に部屋に入るとロニーも慌てて入り玄関ドアを閉めた。



◇ ◇ ◇

お互い寝ようと自分の部屋へ入って暫くしてから、
「ギィヤアー!」
と、雄叫びが上がった。
「ロニー、どうしたの?」

部屋に泥棒でもいるのか、それとも何かあるのかと思いわたしは手に箒を持ってロニーの部屋へ入った。

ロニーは震えながら部屋の隅でブルブル震えていた。
「ニャー」
と鳴き声が聞こえた。
見るとまだ小さな黒い猫がロニーのベッドの上に寝そべっていた。

ロニーは気づかずにベッドに入り何か動くものがあるなと触ったら生温かく動いたらしい。

恐る恐る見ると黒猫のチビがいたのだ。
普段とのギャップにわたしは萌えた。
(ロニー、可愛い!)
いつも気丈でわたしを守ってくれる強く逞しいロニーが今は小娘のように目を潤ませ震えていた。

わたしは箒を捨て仔猫の首を持って
「ロニー、すぐに向こうへ連れて行くわね」
と言ってロニーの部屋を出た。
仔猫は震えていたし少しぐったりしていた。

わたしは急いでミルクを薄めて人肌に温めてお皿に入れて仔猫に飲ませた。これは侯爵家の侍女が迷い込んだ仔猫にあげていたのを覚えていたので、なんとか飲ませる事に成功した。

仔猫はたぶん親猫から逸れて、お腹を空かせ迷い込んだのだと思う。
わたしは、ロニーの可愛さと子猫の可愛さに癒されたが、ロニーが苦手な子猫を家に置いておくことは難しいのでこの子をどうしようかと悩んだ。

次の日とりあえずロニーには内緒でわたしの部屋に置いておいた。
「シャノン様あの仔猫はどうしました?」

「外へ出したわよ」

「よ、よかった。これで安心して過ごせます」
(ま、まずいわ。早く仔猫をどうにかしなきゃ)

「ロニー、今日はわたしの部屋には入らないでね」

「わかりました、いつものようになっているのですね」
「ええ、そうよ」
わたしは勉強が忙しくなると部屋が雑多になる。しかし、全ての本の位置はわかっているので本の位置を動かされると勉強が捗らなくて困る。なので、ロニーに入らないようにいつも頼んでいる。

(良かった、忙しい時で)

わたしは仔猫にミルクとご飯を置き、トイレ用に新聞を床に敷き詰め、大学へ出かけた。

ロイズや友人達に仔猫の引き取り手を探してもらったが医学生は忙しく中々貰い手がなかった。
夕方、悩みながら歩いて帰っていると、ダンがいつものように現れた。

ダンは先触れもなく突然来て我が家でお茶をして少し話すと帰って行くというのが、最近では当たり前になりつつある。
大学から診療所は馬車で1時間程かかるのだが、ダンの実家の屋敷からなら30分程で来れるので会いに来てくれる。

「ダン、いい所に来たわ、貴方の知り合いで仔猫を貰ってくれる人いないかしら?」

「仔猫?」

「ええ、わたしの家に仔猫が迷い込んでいるんだけど、大学ではみんな勉強が忙しくて仔猫を飼うなんて出来ないと言われたの。うちはロニーが猫がとっても苦手だから飼えないし、このまま捨てることも出来なくて困っているの」

「ふうん、とりあえずどんな仔猫か見てみようか」
「お願い」
ダンとアパートに帰ると、ロニーがリビングでテーブルの上に上がって震えていた。

「シャノン様、た、助けてください」
涙目になって青い顔をしたロニーが指差した方を見てみると、仔猫が後ろ足で耳を掻いていた。
(猫ちゃん可愛い)
わたしは仔猫に癒されてほっこりしてそっと仔猫を抱っこした。

「シャノンさまの嘘つき!捨てたと仰ったではないですか!」

「ロニー、ごめんなさい。こんな小さな子を捨てるなんて可哀想だったの、お腹も空かせていたしぐったりしていたし」

「わ、わたしは可哀想ではないのですか?」
テーブルから降りれないロニーが訴えた。

抱っこした仔猫がわたしの胸にゴロゴロ喉を鳴らしながらスリスリしてくる仔猫が可愛いすぎて、仔猫にキスを落としながら
「ロニー、今飼ってくれる人を探しているの、ダンにも誰かいないか聞いて欲しいとお願いしているわ、だからもう少しま……「俺が飼うよ」

「え?」
わたしは仔猫を抱きしめたまま驚いてダンを見た。
「ダンが飼うの?」

「ああ、今すぐ連れて帰る」
ダンは仔猫を受け取り「またな」と帰って行った。

◇ ◇ ◇

「シャノンにキスされるなんて、お前狡いぞ!それに抱きしめられやがって!」
ダンは仔猫に文句を言いながら屋敷に連れて帰った。
ジェシーに「お兄様、仔猫なんて連れて帰ってどうなさるのですか!」
と怒られたので
「こいつはシャノンに抱きしめられてキスされていたんだ!そのまま置いておく訳にはいかなかったんだ!」
とダンは言って飼う事にした。

気づけば毎日ベッドで仔猫と寝ているダンだった。




◆ ◆ ◆

最後までありがとうございました。
最後はほのぼのと終わらせたかったので追加しました。
ラウル編は次のはなしで出てきますのでこちらでは書いておりません。
また、時間があったら追加を書きたいと思っています






しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ
恋愛
 伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。 「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」  正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。 「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」 「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」  オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。  けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。  ──そう。  何もわかっていないのは、パットだけだった。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

もう、あなたを愛することはないでしょう

春野オカリナ
恋愛
 第一章 完結番外編更新中  異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。  実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。  第二章   ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。  フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。  護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。  一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。  第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。  ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!  ※印は回帰前の物語です。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

後悔だけでしたらどうぞご自由に

風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。 それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。 本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。 悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ? 帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。 ※R15は保険です。 ※小説家になろうさんでも公開しています。 ※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

処理中です...