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愛を捨てた日

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わたしはこれまでアイリスに、ラウルに素直になれないこと、愛しているのにどうしたらいいのかわからないことなど相談してきた。

彼女のことを信頼していたから。


◇ ◇ ◇


「シャノン、どうしたの?この前の夜会では会えなかったじゃない。今日は久しぶりに会うんだから、楽しみにしていたのよ?体調が悪いの?」
アイリスの様子はいつもと変わらず可愛らしく大きなグリーンの瞳を潤ませて心配しながら聞いてきた。 

夜会から2週間後、前々から約束をしていた二人でのお茶会。

あまりのショックにそのことも忘れていたお茶会。
そして今に至る。

2週間前までのわたしなら我が家の四阿でいつものようにお茶とお菓子で楽しむこともできた。

「アイリス、ごめんなさい、最近少し体調が悪くて」
わたしは青い顔をしていた。

「まあ、大丈夫?知らなくて来てしまったわ。次の機会にゆっくりお話ししましょうか。
ラウル様のこともまたゆっくり相談に乗るわ」

「……あ、ありがとう……わたし……「そうよね、あんなところを見てしまったら落ち込んでも仕方ないと思うわ」

アイリスは、シャノンの言葉を遮ってニコリと可愛く微笑んだ。

周りにいた執事や侍女長、侍女のロニーは、突然始まったアイリスの話しに真っ青になって固まっていた。

「夜会の時のラウル様、とっても素敵で優しくてわたしのこと愛してるって何度も囁いて抱きしめてくれたのよ。
彼ったらいつもとっても甘くて優しいのよ、ベッドの中の彼ったら一晩中離してくれないの。何度もわたしを抱き続けるの。シャノンってお人形さんみたいで抱いてもつまらないんだって」

アイリスは、真っ青になって俯いて震えているわたしに向かって、ニッコリ微笑みながらさらに話し続けた。

「ラウル様ったら、アイリスだけを愛してる、シャノンとは政略結婚だからすぐには別れられないけど、子どもができない女とは、跡継ぎをもうけることができないことを理由に別れるとおっしゃっていたわ」

ふふふ

「シャノン、ラウル様に最近抱かれていないでしょ?貴方をみても全くそんな気にはならないって昨日もわたしの部屋のベッドの中で言ってたわ。お人形さんだって」

わたしは何も言えなかった。
悔しくて悲しくてつらくて、でも、なんて言えばいいの?
わたしの夫よ!と叫ぶの?
ふざけないでよ!と怒るの?
泣き叫ぶの?

下を向いて手をギュッと握りしめて・・・

絶対に嫌!アイリスの前で絶対に泣かない、負けたくない。

わたしは上を向いてアイリスの顔を見ながら平静を装った。
(シャノン、落ち着いて冷静に!ふぅ)

深呼吸して

「アイリス、人のお古で使い回しだけど、貴方にあげるわ」

わたしは優しく微笑んで

「貴方っていつもわたしのものを欲しがるけど、そんなにお下がりばかり欲しがって……お古が好きなのね?」

バシッ!

わたしの頬が真っ赤になった。

「他人に取られたからって負け惜しみを言わないで!ラウル様はわたしのことを愛しているの!貴方なんかただのお飾り妻なの!」

アイリスはあの可愛らしい仮面をどこかに置いて来たみたいで、醜い笑顔でわたしを睨みつけて、嘲笑っている。

わたしは、椅子から立つと慌ててそばにきた侍女と侍従を手で止めた。

「アイリス、貴方にこの家もラウルも全てあげるわ、お古でごめんあそばせ!」

わたしは自分の部屋に行き、すぐに鞄を一つ持って屋敷を出ることにした。

「みなさん、お世話になりました、これからは、奥様はアイリスよ。離縁状に名前をサインしてあるから、ベルアート公爵様に手紙と一緒に渡して下さい」
と言って、執事のセバスに二枚の手紙を手渡した。

執事のセバスは、
「奥様、考え直していただけませんか?」

侍女の一人は、
「奥様、嫌です、何処にも行かないで下さい、お願いします」

侍女長でラウルの乳母でもあったマーサは
「奥様、ラウル様が浮気などあり得ません。出て行く前にお話しをしていただけませんか?」

「貴方、さっき一緒にアイリスの話しを側で聞いていたでしょう?それが事実だわ」

頭を深々と下げて
「さようなら」

と言って屋敷を後にした。


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