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鬼男と少女魔術師と戦争
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しおりを挟むアルゴとヒスイが特級冒険者になって数日、二人は以前訪れた珍妙な料理メニューが並ぶレストランで食事をしていた。
周囲に異彩を放つ服飾を身につけている者が多いこの店は派手な二人も比較的目立たないのですっかり二人のお気に入りの店になっていた。
「怪我も無事に良くなって来たし最後に一仕事してそろそろ田舎に帰りましょうか」
「俺の田舎なんだがな……」
「細かいことは気にしたら負けよ」
「まぁそれはともかく確かにもうそんな時期だな。今年は時間がいろいろありすぎて時間が立つのが早く感じる」
「半年間に二度も鬼と戦うなんて滅多にない貴重な体験だったわね」
「もう味わいたくない体験だがな」
「あら、二度あることは三度あるというじゃない。もう一度会えるかもしれないわよ」
二人はそんな軽口を叩きながら注文した料理が届くのを待っていた。例のごとく料理名から料理の内容が判断できないため目に止まった物を適当に注文しただけだあったが、その小さなスリル感も二人がこの店を気に入っている一因であった。
「料理が来たのかしら」
ヒスイの目が向く方を見ると確かにトンガリ帽子をかぶった店員さんが二人の方に向かって来ているように見えた。
「お待たせしましたー。大地に浮かぶ伝説の島、深海番長のステーキ、天使の気まぐれサラダ、悪魔の気まぐれサラダ、そしてこちらがポイズンデッドパフェになります。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「あぁ、問題ない。ありがとう」
頼んだ料理のイメージと実際に運ばれて来る料理がなかなか一致しないためか、わざわざ料理名を言いながら料理を並べてくれる謎の親切心を店員さんが発揮してくれる。それなら最初から分かりやすい名前にしてくれればいいのだが、この料理名が店の繁盛する理由の一つであるのだろう。
二人はさっそく興味津々に料理を眺めたのち、躊躇いなくそれを口にする。見た目と名前はともかく料理人の腕と味は確かであることを何度か来るうちに確信しての行動だ。
「これは地底魚だから魚なんだろうけど鳥みたいな味がするな。風変わりだが美味い」
「このパフェの紫色のソースは何かしら。毒を模しているのだろうけど食べても何かわからないわね。ちょっとアルゴ食べてみて。はい、あーん」
そう言ってヒスイは自分が口をつけていたスプーンにパフェをすくうとそれをそのままアルゴの口へと近づけた。
こういった展開で自らに拒否権が存在しないことをしばらくの付き合いでよく理解しているアルゴは諦めの表情でそれを受け入れる。
「あら、素直ね」
「これは葉野菜の一種だな。普通は緑色をしているんだが紫色をしている種類もあるんだ」
「へー、さすがは農家さんね。農業をしているところは見たことがないけれどもうすぐ見れるから楽しみだわ」
「そんなに楽しいものではないぞ……」
「楽しいかどうかは私が決めるのよ」
そんな会話をしながらも二人は謎の料理を楽しむ。
しばらく料理を堪能しているとふとアルゴの耳に隣のテーブルからなにやら不穏な空気がまとった声が聞こえた。特別に聴覚が優れているわけではないので言葉の端々しか聞き取れない、魔物との戦争、そんな言葉が聞こえたのでアルゴがそのテーブルの方を振り向くと相手方もアルゴの視線に気づいたのかピシャリと会話をやめてしまった。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
「そう」
挙動不審気味なアルゴを見たヒスイがアルゴに尋ねたが、アルゴが軽くはぐらかすとヒスイは特に深追いしてこなかった。
アルゴはそこから急に口数が少なくなったため、二人の会話もほとんどなくなった。
しばらくして、料理を食べ終えた二人が店を出た途端ヒスイから声がかかる。
「で、どうしたの?」
「あぁ、ちょっと嫌な予感のする会話が隣から聞こえてな。このまま冒険者ギルドに行ってもいいか」
「えぇ、もちろんいいわよ」
そうして二人は冒険者ギルドへ向かうのだった。
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