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告。新入生諸君
1 石田燈 5
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「熱心だな」
同じ島の中央あたりの椅子に座って3人の様子を見ていた人物が声をかけてきた。
「和先輩。お疲れっす」
読みかけの文庫本に栞を挟んで、静かに笑みを浮かべているその人に、燈は改めて挨拶をする。
「お疲れ」
女神川学園特戦3年魔道A組。長嶋和彦(ながしまかずひこ)。たった二人しかいない3年生のうちの一人。電算部には4年生がいないから、彼らは最上級生で、和彦は副部長を務めていた。艶のある黒髪に深い緑の目をした物静かで繊細なタイプのイケメンで、普段は冷静沈着。思慮深く、知的な彼は下級生女子に絶大なる人気を誇る。
「あれ? 和先輩がコンビニ飯珍しいっすね」
普段は自作だというひっどい弁当(ご飯の隙間からタコの足が生えている海鮮おにぎりとか、チョコレート味の炊き込みご飯にオカズじゃ〇りことか、紫色の異臭を放つ液体の入ったスープジャーとか)を持参しているのに今日はごく普通のコンビニおにぎりの包み紙がビニール袋からはみ出している。
「ああ。弟たちがいきなり提出書類に名前を書けとか言ってくるから間に合わなかった。いつまで経っても子供で……困る」
先日、彼の弟(双子)が女神川学園に入学したらしい。和彦は元々寮で暮らしていたのだが、弟たちの入学に合わせて、この春からアパートを借りて3人で暮らし始めた。その弟たちにもあのひっどい弁当(もはやロールキャベツという既成概念を覆した生のキャベツでカニカマとコーンフレークを巻いてある物体とか、食パンに砂糖水びっしゃびしゃに浸しただけのものとか、カレーライスもといカレーさしみこんにゃくとか)を持たせているのかと考えると、弁当作りをさせないためにわざとギリギリに提出書類を出してきたのではないかと思われる。
電算部の良心。最も一般常識に近い男。と、言われている彼だが、味覚だけは非常識極まりないのだった。
「はは」
和彦の弁当ラインナップを思い出して食欲減退した燈は乾いた笑いを浮かべて曖昧に返事を返す。有名国立大学の物理入試問題でも顔色を変えない彼だが、彼の味覚のことを指摘しても意味が分からないという顔をされるので、ツッコむのは控えた。
「和先輩の弟君って、ウチに入部してくれるんですか?」
二人のやり取りを聞いていた雫が会話の切れ目に、待ってましたとばかり話に割り込んできた。
「ああ。他にも見学はしてみるって言っていたけど、本命はウチみたいだよ」
「弟君。双子ちゃんですよね? じゃあ、新入部員二人確保?」
雫の言葉に和彦が頷く。
どんな学校でも入学式が終わったこの時期は新入部員の獲得に躍起になっているものだろうとは思う。スレイヤーを養成することを目的としたこの女神川学園特殊戦闘学部でもそれは例外ではない。
ただ、一般人と身体能力が極端に違う生徒が在籍する特殊戦闘学部には運動部という概念は存在しないため、部活は文化部に分類されるものばかりだ。
ただ、その文化部と分類されるものも普通科とはまったく違う。
「あと、一人か」
二人の会話に、今度は燈が呟いた。
「一人くらいなら、なんとかなるって」
屈託ない笑顔を浮かべて雫が独り言のような呟きに答える。楽観的なのは雫の長所であり短所だと燈は思う。救われることも多いけれど、足を掬われることも少なくないからだ。
「……だといいけどな」
ネガティブ極まりない燈の言葉に、和彦が苦笑している。部員の勧誘が簡単でないことを一番理解しているのは、恐らく和彦だ。
「ダメだったら、私のこのお色気で……」
冗談なのか本気なのかイマイチ判断がつきかねるセリフは、しかし、最後まで発せられることなく途切れた。
同じ島の中央あたりの椅子に座って3人の様子を見ていた人物が声をかけてきた。
「和先輩。お疲れっす」
読みかけの文庫本に栞を挟んで、静かに笑みを浮かべているその人に、燈は改めて挨拶をする。
「お疲れ」
女神川学園特戦3年魔道A組。長嶋和彦(ながしまかずひこ)。たった二人しかいない3年生のうちの一人。電算部には4年生がいないから、彼らは最上級生で、和彦は副部長を務めていた。艶のある黒髪に深い緑の目をした物静かで繊細なタイプのイケメンで、普段は冷静沈着。思慮深く、知的な彼は下級生女子に絶大なる人気を誇る。
「あれ? 和先輩がコンビニ飯珍しいっすね」
普段は自作だというひっどい弁当(ご飯の隙間からタコの足が生えている海鮮おにぎりとか、チョコレート味の炊き込みご飯にオカズじゃ〇りことか、紫色の異臭を放つ液体の入ったスープジャーとか)を持参しているのに今日はごく普通のコンビニおにぎりの包み紙がビニール袋からはみ出している。
「ああ。弟たちがいきなり提出書類に名前を書けとか言ってくるから間に合わなかった。いつまで経っても子供で……困る」
先日、彼の弟(双子)が女神川学園に入学したらしい。和彦は元々寮で暮らしていたのだが、弟たちの入学に合わせて、この春からアパートを借りて3人で暮らし始めた。その弟たちにもあのひっどい弁当(もはやロールキャベツという既成概念を覆した生のキャベツでカニカマとコーンフレークを巻いてある物体とか、食パンに砂糖水びっしゃびしゃに浸しただけのものとか、カレーライスもといカレーさしみこんにゃくとか)を持たせているのかと考えると、弁当作りをさせないためにわざとギリギリに提出書類を出してきたのではないかと思われる。
電算部の良心。最も一般常識に近い男。と、言われている彼だが、味覚だけは非常識極まりないのだった。
「はは」
和彦の弁当ラインナップを思い出して食欲減退した燈は乾いた笑いを浮かべて曖昧に返事を返す。有名国立大学の物理入試問題でも顔色を変えない彼だが、彼の味覚のことを指摘しても意味が分からないという顔をされるので、ツッコむのは控えた。
「和先輩の弟君って、ウチに入部してくれるんですか?」
二人のやり取りを聞いていた雫が会話の切れ目に、待ってましたとばかり話に割り込んできた。
「ああ。他にも見学はしてみるって言っていたけど、本命はウチみたいだよ」
「弟君。双子ちゃんですよね? じゃあ、新入部員二人確保?」
雫の言葉に和彦が頷く。
どんな学校でも入学式が終わったこの時期は新入部員の獲得に躍起になっているものだろうとは思う。スレイヤーを養成することを目的としたこの女神川学園特殊戦闘学部でもそれは例外ではない。
ただ、一般人と身体能力が極端に違う生徒が在籍する特殊戦闘学部には運動部という概念は存在しないため、部活は文化部に分類されるものばかりだ。
ただ、その文化部と分類されるものも普通科とはまったく違う。
「あと、一人か」
二人の会話に、今度は燈が呟いた。
「一人くらいなら、なんとかなるって」
屈託ない笑顔を浮かべて雫が独り言のような呟きに答える。楽観的なのは雫の長所であり短所だと燈は思う。救われることも多いけれど、足を掬われることも少なくないからだ。
「……だといいけどな」
ネガティブ極まりない燈の言葉に、和彦が苦笑している。部員の勧誘が簡単でないことを一番理解しているのは、恐らく和彦だ。
「ダメだったら、私のこのお色気で……」
冗談なのか本気なのかイマイチ判断がつきかねるセリフは、しかし、最後まで発せられることなく途切れた。
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