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DoRow
前編 5
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ため息を一つ。ユキはベッドを出た。ん。と、大きく伸びをして、リビングへのドアを開ける。その途端に、幸せな朝食の匂いが鼻腔を擽った。
「はよ」
ダイニングのカウンタにはすでにアキが座っていた。
「あれ? 兄貴早いじゃん。昨夜遅かったんじゃなかったの?」
アキがユキより先に起きているのは、珍しい。しかも、昨夜はN署のレンタルで9時近くなってから呼び出されていたはずだ。こんな時間に起きているなんて奇跡に近い。というか、ありえない。
「早いんじゃねーよ。遅いの。寝てねーの」
大きく欠伸をして、アキはしょぼしょぼの目をこすった。
「あー。徹夜明け? お疲れさん」
32年前に終結した、第3次世界大戦以降、この国の治安はどんどん悪くなっている。一応、一般人の銃器の所持は禁止されてはいるが、それは有名無実で、学生ですらそれを手に入れることは容易い。違法薬物も蔓延していて、より依存度、中毒性の高いドラッグが日々開発されて、流通している。
傷害、殺人、強姦の件数は戦前の10倍以上になっていて、すでに警察の人手だけで取り締まることなど不可能だった。そのために考えられたのがレンタルと言われるシステムだ。警察からの依頼を公認非公認にかかわらず、一定数こなしたハウンドが任意で登録されて、人手不足の際には所定の契約手続きを省いて、予備人員として作戦行動に参加できる。
アキとユキも、N署にレンタル登録されていて、何かというとすぐに呼び出されていた。
「ったく……セージのやつ。ほいほいと呼び出しやがって」
不機嫌そうに悪態をついて、肩を鳴らしているアキに苦笑する。そんなことを言っていても、セイジに仕事を依頼されてアキが断ることは殆どない。文句は多いけれど、結局は友人思いなのだ。
「お疲れ様。風呂用意しておくから、飯食ったらゆっくり休んで?」
朝食の味噌汁とご飯をアキとユキの前に置いてから、スイはアキに向かって優しく微笑んだ。
「……癒される……」
給仕を終えたスイの腕を座ったまま掴んで引き寄せて、膝の上に座らせて、ぎゅっと背中から抱きしめて、その首筋に顔を埋めて、アキがため息を漏らした。
「スイさんの『お疲れ様』があったら、俺、大抵のことはがんばれるわ」
首筋にちゅ。と、キスをして、アキはその滑らかな首筋の感触を堪能しているようだった。
「ちょ。アキ君。くすぐったいよ」
アキの吐息が首筋に当たってくすぐったいのかスイが身を捩る。
「折角温め直したご飯。冷めちゃうから……って、ホントやめ。……あっ」
「いで!」
調子に乗って、ぺろ。と、スイの首筋を舐めたアキの頭をユキは新聞紙を丸めて叩いた。
「朝からなに盛ってんだよ」
アキの腕が緩んだ隙に腕の中から逃げ出したスイが、ユキの後ろに逃げ込む。その仕草がすごく可愛い。とても10歳年上とは思えない。
「俺にとっては朝じゃねーし。むしろ、深夜だし」
叩かれはしたけれど、機嫌を損ねた風もなく、にやり。と、笑ってアキは手を合わせて、『いただきます』と、言った。邪魔されることは織り込み済みなのだ。
「んま」
味噌汁に一口口をつけて、アキが小さく呟く。ユキの後ろに避難しながらも、スイはそのアキの言葉が嬉しいようで、すごく可愛い笑顔を浮かべていた。
「はよ」
ダイニングのカウンタにはすでにアキが座っていた。
「あれ? 兄貴早いじゃん。昨夜遅かったんじゃなかったの?」
アキがユキより先に起きているのは、珍しい。しかも、昨夜はN署のレンタルで9時近くなってから呼び出されていたはずだ。こんな時間に起きているなんて奇跡に近い。というか、ありえない。
「早いんじゃねーよ。遅いの。寝てねーの」
大きく欠伸をして、アキはしょぼしょぼの目をこすった。
「あー。徹夜明け? お疲れさん」
32年前に終結した、第3次世界大戦以降、この国の治安はどんどん悪くなっている。一応、一般人の銃器の所持は禁止されてはいるが、それは有名無実で、学生ですらそれを手に入れることは容易い。違法薬物も蔓延していて、より依存度、中毒性の高いドラッグが日々開発されて、流通している。
傷害、殺人、強姦の件数は戦前の10倍以上になっていて、すでに警察の人手だけで取り締まることなど不可能だった。そのために考えられたのがレンタルと言われるシステムだ。警察からの依頼を公認非公認にかかわらず、一定数こなしたハウンドが任意で登録されて、人手不足の際には所定の契約手続きを省いて、予備人員として作戦行動に参加できる。
アキとユキも、N署にレンタル登録されていて、何かというとすぐに呼び出されていた。
「ったく……セージのやつ。ほいほいと呼び出しやがって」
不機嫌そうに悪態をついて、肩を鳴らしているアキに苦笑する。そんなことを言っていても、セイジに仕事を依頼されてアキが断ることは殆どない。文句は多いけれど、結局は友人思いなのだ。
「お疲れ様。風呂用意しておくから、飯食ったらゆっくり休んで?」
朝食の味噌汁とご飯をアキとユキの前に置いてから、スイはアキに向かって優しく微笑んだ。
「……癒される……」
給仕を終えたスイの腕を座ったまま掴んで引き寄せて、膝の上に座らせて、ぎゅっと背中から抱きしめて、その首筋に顔を埋めて、アキがため息を漏らした。
「スイさんの『お疲れ様』があったら、俺、大抵のことはがんばれるわ」
首筋にちゅ。と、キスをして、アキはその滑らかな首筋の感触を堪能しているようだった。
「ちょ。アキ君。くすぐったいよ」
アキの吐息が首筋に当たってくすぐったいのかスイが身を捩る。
「折角温め直したご飯。冷めちゃうから……って、ホントやめ。……あっ」
「いで!」
調子に乗って、ぺろ。と、スイの首筋を舐めたアキの頭をユキは新聞紙を丸めて叩いた。
「朝からなに盛ってんだよ」
アキの腕が緩んだ隙に腕の中から逃げ出したスイが、ユキの後ろに逃げ込む。その仕草がすごく可愛い。とても10歳年上とは思えない。
「俺にとっては朝じゃねーし。むしろ、深夜だし」
叩かれはしたけれど、機嫌を損ねた風もなく、にやり。と、笑ってアキは手を合わせて、『いただきます』と、言った。邪魔されることは織り込み済みなのだ。
「んま」
味噌汁に一口口をつけて、アキが小さく呟く。ユキの後ろに避難しながらも、スイはそのアキの言葉が嬉しいようで、すごく可愛い笑顔を浮かべていた。
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