遠くて近い世界で

司書Y

文字の大きさ
上 下
286 / 378
Internally Flawless

16 論破 4

しおりを挟む
「なに? 君は苦労もしないで手に入るそんな幸運だけが自慢なわけ? てか、俺にとっては別に幸運でも何でもないし。こんなのほしいならいくらでもあげるよ? ま、薬でも使わないとあげることもできないけどね」

 薬という言葉は意図的に使った。それがただの噂でも、そうでなかったとしても、彼女の耳には入っているはずだ。
 案の定、彼女の表情が硬くなる。恐らく薬を使ってはいないだろう。でなければ、その髪や瞳をそこまで自慢したりはできないはずだ。ただ、そう思われるだけでも彼女には屈辱なのだと思う。だからこその挑発だ。

「こんなもんくらいで『神に愛されてる』とか、お手軽すぎ」

 レイは唇を噛んで、にらみ返してくる。その視線も無表情のまま受け止める。

「あ。ごめん。俺みたいに貧弱な普通のおっさんに外見のことでとやかく言われたくないよな。……や。でも、俺って『神に愛されてる』んだっけ? じゃあ、言ってもいい?」

 うって変わって笑顔をつくって、それでも挑むようにスイは言った。

「俺の世界には神様なんていないよ? これはただの遺伝子の気まぐれ。
 知ってる? 男が翠の髪と瞳両方持って生まれる確率。試算してみたら、200万分の1だって。ちなみに、女性が緑の髪と瞳で生まれる確率は10万分の1。
 でも、それだって、君の脚が長いのとも、俺がいくら食っても太らないのとも、あそこのおじさんの頭が禿げてるのとも、同じこと。ただの確率の問題だ。
 君が自慢しているそれは隕石が家の庭に落ちてきたことを自分の実力だと自慢しているのに等しい。そこには神の力なんて何も介在していないよ」

 言いたい放題言って少しすっきりしてきた。

「本当に神に愛されてる人がいるとしたら……優しい両親のもとに生まれて、何不自由なく育って、困難を乗り越えながら生きて、家族に囲まれて老衰で死ねる人のことじゃない? あ。じゃ、君はやっぱり、神に愛されているかもよ? 何不自由ないんだろ? 俺は無理だけど」

 何度も言うが、スイは髪の色や瞳の色などどうでもいいから、普通に生きたかったと思っている。その人生ではアキやユキに会えなかったというなら、どんなに辛い思いをしても今のままでもよかったと思うけれど。
 だから、これは、裕福で愛情深い親の元に生まれた彼女への羨望も入っていたのだと思う。彼女が自慢すべきは容姿ではなく、そんな優しい両親のことではないだろうか。

「まあ、とにかく。だ。そんなことを自慢して他人にひけらかしている暇があったら、中学生に戻って敬語と劣性遺伝の勉強をし直してきなさい。でないと、5年。や。3年後にはお父さんしか振り向いてくれなくなるよ」

 自分が童顔なのは知っている。それで大抵はまだ20代前半どころか、20歳前後に間違われる。だから、散々馬鹿にされた上に上から目線でそんな風に言われたら、絶対に腹が立つことくらいは分かっている。分かっているから、トドメを刺したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...