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Internally Flawless
10 嫌悪 1
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◇翡翠◇
その店は多国籍料理が評判の居酒屋で、殆どの部屋が半個室のような作りになっていた。座席は高くなった床から足を下ろす掘り炬燵のような作りになっていて、足元が温かい。店の雰囲気は落ち着いていて、店員も騒がしくはないけれど、愛想はいい。
こんな時でなければいい店なのだと素直に思えただろう。と、翡翠は思う。
「ここ、いいでしょ? 落ち着くんだよねー。スイさん何にする? とりあえず生中でいい?」
言われて、スイは頷いた。ケンジは嬉しそうに笑って、店員を呼んであれもこれもと注文している。
「スイさんは? 他に何か頼む?」
一通り気に入ったものを注文してから、ケンジが聞いてきた。
「そんなに二人で食べきれないって。俺、あんまり食う方じゃないし」
食欲はあまりない。こんな時はいつもそうだ。心のバランスを崩すと殆ど何も食べられない。
多分、それは、監禁されていたあの頃の名残で、身体が生きることを拒否しているのだと思う。
「スイさん細いよね? 俺は好みだけど」
テーブルに肘をついて、掌の上に顎を載せて、スイの顔をじっと見て、ケンジが言う。
「そゆうのいらない」
その顔から、スイは、す。と、視線を逸らす。見つめられているのは嫌だった。もともと、話すのは得意ではないのに、まじまじとみつめられてはうまく話せなくなってしまう。
これは仕事だ。だから、うまく話さないといけない。
翡翠は心の中で呟いた。
「ところでさ。ケンジ君てこゆう店どうやって探すの? ネットとかで探してもいいとこなかなか見つからなくて」
情報を引き出すのに必要なキーワードを、無理なく会話の中に埋め込むのは、パズルと同じだ。けれど、それでうまくできたとしても相手の反応が思ったものと違うこともある。探っているのだと知られたくない。動きづらくなる。だから、慎重に。慎重に。
と、努めて冷静に会話を組み立てる。それは会話というより作業だった。
「俺はK県のタウンナビ使ってる。口コミ情報多めでおすすめだよ。普通のグルメサイトだと、T都の方の情報ばっかじゃん? 前にも話したカモだけど、デートとか本気の時はSNSの行ってみたも参考にするよ? 雰囲気とか大事でしょ。SNSのがリアルにわかるし。近くの人フォローしたりして仲良くなったりもできるし」
スイの方から興味を持ってもらったのが嬉しいのか、ケンジは饒舌になる。
「あー。そういうの使ってんだ。俺、あんま、外でないから。
そいえば、ケンジ君、油絵専攻っていってたよね? ウェブデザインとかじゃなくても、今はPCとか結構使う?」
何でもない会話をしながらスイは別のことを考えていた。上手く会話を組み立てられない。人間とのコミュニケーションを疎かにしてきたから、どうやって思った方向に話しを進めていいのか、パズルのピーズがはまっていかなかった。
「学校では使わないかな。図書館のくらい。パソコンは完全に趣味でネットにつなぐ用。でも、普段はネットもスマホだよ。スイさんは得意分野だよね? 大学とか情報工学系?」
どちらかというと、ケンジに情報を引き出されているような気がする。上手くいかなくて焦るけれど、打開策は思いつかない。上手く頭を働かせるには、睡眠も栄養も安定もスイには足りていなかった。
「俺は高卒。PCは完全に独学だよ。てか、ケンジ君は、高校はこの辺?」
「や。俺はN県。めっちゃ田舎。大学入ってこっち来たけど、別世界だよね~。後1年で卒業だけど、帰らないで、こっちで就職するつもり。アイ先生のとこでも卒業したらおいで。って言ってくれてるし。友達も多いしね」
その店は多国籍料理が評判の居酒屋で、殆どの部屋が半個室のような作りになっていた。座席は高くなった床から足を下ろす掘り炬燵のような作りになっていて、足元が温かい。店の雰囲気は落ち着いていて、店員も騒がしくはないけれど、愛想はいい。
こんな時でなければいい店なのだと素直に思えただろう。と、翡翠は思う。
「ここ、いいでしょ? 落ち着くんだよねー。スイさん何にする? とりあえず生中でいい?」
言われて、スイは頷いた。ケンジは嬉しそうに笑って、店員を呼んであれもこれもと注文している。
「スイさんは? 他に何か頼む?」
一通り気に入ったものを注文してから、ケンジが聞いてきた。
「そんなに二人で食べきれないって。俺、あんまり食う方じゃないし」
食欲はあまりない。こんな時はいつもそうだ。心のバランスを崩すと殆ど何も食べられない。
多分、それは、監禁されていたあの頃の名残で、身体が生きることを拒否しているのだと思う。
「スイさん細いよね? 俺は好みだけど」
テーブルに肘をついて、掌の上に顎を載せて、スイの顔をじっと見て、ケンジが言う。
「そゆうのいらない」
その顔から、スイは、す。と、視線を逸らす。見つめられているのは嫌だった。もともと、話すのは得意ではないのに、まじまじとみつめられてはうまく話せなくなってしまう。
これは仕事だ。だから、うまく話さないといけない。
翡翠は心の中で呟いた。
「ところでさ。ケンジ君てこゆう店どうやって探すの? ネットとかで探してもいいとこなかなか見つからなくて」
情報を引き出すのに必要なキーワードを、無理なく会話の中に埋め込むのは、パズルと同じだ。けれど、それでうまくできたとしても相手の反応が思ったものと違うこともある。探っているのだと知られたくない。動きづらくなる。だから、慎重に。慎重に。
と、努めて冷静に会話を組み立てる。それは会話というより作業だった。
「俺はK県のタウンナビ使ってる。口コミ情報多めでおすすめだよ。普通のグルメサイトだと、T都の方の情報ばっかじゃん? 前にも話したカモだけど、デートとか本気の時はSNSの行ってみたも参考にするよ? 雰囲気とか大事でしょ。SNSのがリアルにわかるし。近くの人フォローしたりして仲良くなったりもできるし」
スイの方から興味を持ってもらったのが嬉しいのか、ケンジは饒舌になる。
「あー。そういうの使ってんだ。俺、あんま、外でないから。
そいえば、ケンジ君、油絵専攻っていってたよね? ウェブデザインとかじゃなくても、今はPCとか結構使う?」
何でもない会話をしながらスイは別のことを考えていた。上手く会話を組み立てられない。人間とのコミュニケーションを疎かにしてきたから、どうやって思った方向に話しを進めていいのか、パズルのピーズがはまっていかなかった。
「学校では使わないかな。図書館のくらい。パソコンは完全に趣味でネットにつなぐ用。でも、普段はネットもスマホだよ。スイさんは得意分野だよね? 大学とか情報工学系?」
どちらかというと、ケンジに情報を引き出されているような気がする。上手くいかなくて焦るけれど、打開策は思いつかない。上手く頭を働かせるには、睡眠も栄養も安定もスイには足りていなかった。
「俺は高卒。PCは完全に独学だよ。てか、ケンジ君は、高校はこの辺?」
「や。俺はN県。めっちゃ田舎。大学入ってこっち来たけど、別世界だよね~。後1年で卒業だけど、帰らないで、こっちで就職するつもり。アイ先生のとこでも卒業したらおいで。って言ってくれてるし。友達も多いしね」
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