遠くて近い世界で

司書Y

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L's rule. Side Hisui.

ちゃんと両方面倒見てよ? 2

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「あ……」

 そこにユキがいた。その向こうのソファにはアキが座ってこっちを見ている。

「……スイさん。大丈夫?」

 洗濯ものが入った籠を持って、ユキが言った。

「ユキ……君。いつから、そこに?」

 気配。など、探ってはいなかった。というか、そんなことを考えられない程度には幸せボケしていた。だから、いつから背後をとられていたのかも、スイにはわからなかった。

「窓、開けたとこ」

 最初からかよ!
 と、ツッコミは声にならなかった。

「……そ。そう……」

 代わりに、消え入るような声が出る。自分でも分かるくらいに顔が熱い。きっと真っ赤になっていると思う。何かあらぬことを口に出していなかっただろうかと、不安になった。
 
「顔。赤いよ?」

 少し心配そうな、そして複雑そうな顔をして、ユキが言う。
 ちらり。と、その向こうのアキを見ると、にっこり。と、やけに嬉しそうに笑ってから、首を傾げてユキの後姿に視線をやって、最後に少し寂し気に苦笑して新聞に視線を落としてしまった。

「……だい……じょうぶ」

 ユキが、アキが、何を考えていたのかなんて、全部分かるわけじゃない。けれど、わかるのは、アキの最後の苦笑。『今日はユキに譲る』と、言っているんだろう。それを見たら、なんだかすごく申し訳ない気持ちになった。

「手伝ってくれる?」

 それでも、スイはユキに笑いかけた。
 アキのことばかりを考えていたことに、なんだか罪悪感。決してユキのことを忘れていたわけじゃない。アキとユキを比べてアキの方が大事だとか思ったわけじゃない。けれど、昨夜の出来事があまりに強烈過ぎて、ふわふわ。と、浮かれていた。

「うん」

 洗濯籠を持ったまま、ベランダに出て、ユキはサッシを閉めた。
 いつもなら、開けっ放しで洗濯物を干しているユキ。無意識なんだろうか。

「いい天気だね」

 ユキが置いた洗濯籠から取り出した洗いたてのシーツを物干しに広げながら話しかける。覗き見る横顔は既にいつも通りだ。

「うん」

 さっきのことなんて忘れたみたいに無邪気な笑顔でユキが答えた。けれど、きっと、いつもとは何か違う。

「あとで、買い物にも行くから付き合って」

 そんな顔をさせたのが辛くて、スイは精一杯明るく言った。無理をしているつもりはない。ただ、いつものユキに戻ってほしかった。

「うん」

 不器用にシャツをハンガーにかけながらユキが答える。
 視線を寄越してくれない。それが、寂しい。そう思ってから、自分のせいで二人にも要らない我慢をさせているくせにと、自己嫌悪。
 なんて我儘になってしまったんだろうと、自分が嫌になった。

「今日は、ユキ君の好きなからあげつくろうか……ああ。それから、帰ったら、今日から、配信のゲームしよう。えと。それから……」

 泣きたいような、申し訳ないような、嫌われたくないと焦るような、だから、ユキを甘やかしたい、大切にしたい気持ちになって、スイは言った。そんなことでユキはいつも通りにはなってくれない。わかってはいる。それでも、ユキを繋ぎ留めておきたくて、スイも必死だった。

「うん」
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