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L's rule. Side Akiha.
可愛い人が俺を尊死させようとしてきます 4
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「……ユキ君」
そんな思いに気付いているのか、ぽんぽんと優しくスイが背中を叩いてくれる。優しい仕草。母親がまともなら、こんなふうにあやしてくれるのかと思う。思ってから、子ども扱いされている自分が情けなくなる。
「あのさ。……俺。アキ君と……したよ」
腕の中のスイが言った。分かっていたけれど、なんだか辛かった。
「……ごめん。やっぱり、こんなのやかな?」
少し震えるような声で聞かれて、ユキははっとした。きっと、ユキが嫉妬していることが、スイには辛いはずだ。そもそも、二人とも好きでいてほしいと最初に願ったのはユキ自身だ。もちろん、スイを責めるつもりなんてなかった。けれどこれでは、まるで彼を責めているようだ。
「スイさん……ちが。俺」
スイを離して顔を見ると、翡翠の色の瞳が不安げにユキを見ていた。
さっきまで兄のことを考えて、幸せそうだった表情を、自分が変えてしまったのだろうと思うと、申し訳なくなる。同時に。ユキは思う。
「……ごめん。でも、俺は、もう、ユキ君を離してあげられないよ? 好きなんだ」
ぎゅっと、ユキの袖を掴んで、スイが言った。
スイは、ユキに嫌われたくないと思ってくれている。スイはどうでもいいと思っている相手にこんな顔を見せたりはしない。それが、嬉しかった。
「君が望むなら、俺は……いつでも受け入れるけど……その。ユキ君には、ユキ君のペースで俺のこと……好きでいてほしい」
スイの手がユキの手に重なる。きゅ。と、その手を握って頬擦りする。すごく大切なものを扱うような優しい手つきだった。
「ユキ君。手繋いで歩きたいって言ってただろ? だから、火曜日にはデートしよう? 手を繋いで街を歩いて、手袋を買って、見たいって言ってた映画を見て、ご飯は鉄板焼きかな? それから、お酒はうちで飲みたいな。酔っ払ったユキ君を連れて帰るのは一苦労だし。……こんなの……嫌かな」
ユキがふとした時に言ったこと、見ていたものを、スイは全部覚えていてくれた。
「嫌な……わけない。スイさんといられるなら」
テレビのCMの男女が手を繋いでいるシーンで“あれいいな”と独りごとを言っていたこと。使っていた手袋をまた、片方だけなくしてしまったこと。買い物の途中、ふと見た映画のポスターをじっと見ていたこと。仕事終わりに疲れている時に“肉食いてー”と冗談のように言っていたこと。
ちゃんと、自分を見ていてくれたことが嬉しい。
「……俺は、アキ君に望んでいることを、ユキ君に望んではいないよ? だって、二人は違う人だし。同じだったら、多分二人とも好きになったりしなかった」
少し背伸びをして、スイがユキの頬にキスをする。それから、優しく微笑む。
「だから。さ。ゆっくりと、一緒に歩こう」
結局、スイには全部お見通しだったみたいだ。優しくスイをリードできる兄のことを羨ましいと思ってしまっていたこと。また、一人だけ置いていかれて、焦っていたこと。
全部分かった上で、二人の関係は二人のものだと大切に思ってくれていた。
「……スイさん。俺。ガキで……ごめん」
スイの気持ちに気付けなかった自分が情けない。スイの綺麗な瞳を見られなくて、うなだれていると、スイがぎゅっと抱きしめてくれた。
「どうして? 俺はそんなユキ君が好きなのに?」
それから、また、ぽんぽんとあやすように背中を叩いてくれる。だから、ユキもスイを抱き締めた。
「きっと、いい男になってスイさんを幸せにするから」
ユキの言葉に。ふふ。とスイが笑う。
「だから、ユキ君は今でも“いい男”だし、俺は今でも充分“幸せ”だよ」
微笑んで、スイの方からキスをくれる。
だから、ユキは思う。
まだ、子供でもいいのかな。と。
きっと、この先もスイから見たら自分は子供のままだろう。でも、それが彼を幸せにするのなら、それが自分の役目なのかもしれない。
ただ、今は無理でも、きっと近い将来、その人と結ばれたい。
そう願うユキだった。
ルール6。土曜日はユキを。水曜日はアキを。甘やかすこと。
スイの部屋のドアの向こうで、泣きべそかいているユキと、それをよしよししているスイをこっそりと眺めて、あまりに情けない弟と、まるで聖母のような恋人に、ため息をついたり、惚れなおしたりするアキなのであった。
そんな思いに気付いているのか、ぽんぽんと優しくスイが背中を叩いてくれる。優しい仕草。母親がまともなら、こんなふうにあやしてくれるのかと思う。思ってから、子ども扱いされている自分が情けなくなる。
「あのさ。……俺。アキ君と……したよ」
腕の中のスイが言った。分かっていたけれど、なんだか辛かった。
「……ごめん。やっぱり、こんなのやかな?」
少し震えるような声で聞かれて、ユキははっとした。きっと、ユキが嫉妬していることが、スイには辛いはずだ。そもそも、二人とも好きでいてほしいと最初に願ったのはユキ自身だ。もちろん、スイを責めるつもりなんてなかった。けれどこれでは、まるで彼を責めているようだ。
「スイさん……ちが。俺」
スイを離して顔を見ると、翡翠の色の瞳が不安げにユキを見ていた。
さっきまで兄のことを考えて、幸せそうだった表情を、自分が変えてしまったのだろうと思うと、申し訳なくなる。同時に。ユキは思う。
「……ごめん。でも、俺は、もう、ユキ君を離してあげられないよ? 好きなんだ」
ぎゅっと、ユキの袖を掴んで、スイが言った。
スイは、ユキに嫌われたくないと思ってくれている。スイはどうでもいいと思っている相手にこんな顔を見せたりはしない。それが、嬉しかった。
「君が望むなら、俺は……いつでも受け入れるけど……その。ユキ君には、ユキ君のペースで俺のこと……好きでいてほしい」
スイの手がユキの手に重なる。きゅ。と、その手を握って頬擦りする。すごく大切なものを扱うような優しい手つきだった。
「ユキ君。手繋いで歩きたいって言ってただろ? だから、火曜日にはデートしよう? 手を繋いで街を歩いて、手袋を買って、見たいって言ってた映画を見て、ご飯は鉄板焼きかな? それから、お酒はうちで飲みたいな。酔っ払ったユキ君を連れて帰るのは一苦労だし。……こんなの……嫌かな」
ユキがふとした時に言ったこと、見ていたものを、スイは全部覚えていてくれた。
「嫌な……わけない。スイさんといられるなら」
テレビのCMの男女が手を繋いでいるシーンで“あれいいな”と独りごとを言っていたこと。使っていた手袋をまた、片方だけなくしてしまったこと。買い物の途中、ふと見た映画のポスターをじっと見ていたこと。仕事終わりに疲れている時に“肉食いてー”と冗談のように言っていたこと。
ちゃんと、自分を見ていてくれたことが嬉しい。
「……俺は、アキ君に望んでいることを、ユキ君に望んではいないよ? だって、二人は違う人だし。同じだったら、多分二人とも好きになったりしなかった」
少し背伸びをして、スイがユキの頬にキスをする。それから、優しく微笑む。
「だから。さ。ゆっくりと、一緒に歩こう」
結局、スイには全部お見通しだったみたいだ。優しくスイをリードできる兄のことを羨ましいと思ってしまっていたこと。また、一人だけ置いていかれて、焦っていたこと。
全部分かった上で、二人の関係は二人のものだと大切に思ってくれていた。
「……スイさん。俺。ガキで……ごめん」
スイの気持ちに気付けなかった自分が情けない。スイの綺麗な瞳を見られなくて、うなだれていると、スイがぎゅっと抱きしめてくれた。
「どうして? 俺はそんなユキ君が好きなのに?」
それから、また、ぽんぽんとあやすように背中を叩いてくれる。だから、ユキもスイを抱き締めた。
「きっと、いい男になってスイさんを幸せにするから」
ユキの言葉に。ふふ。とスイが笑う。
「だから、ユキ君は今でも“いい男”だし、俺は今でも充分“幸せ”だよ」
微笑んで、スイの方からキスをくれる。
だから、ユキは思う。
まだ、子供でもいいのかな。と。
きっと、この先もスイから見たら自分は子供のままだろう。でも、それが彼を幸せにするのなら、それが自分の役目なのかもしれない。
ただ、今は無理でも、きっと近い将来、その人と結ばれたい。
そう願うユキだった。
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