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後日談 やっぱり可愛いもん勝ち 1
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◇小鳥遊兄弟宅リビング:秋生◇
小鳥遊兄弟の家には食卓がない。
元々、男二人暮らしで、外食が多く、簡単な料理しかしない上にいい歳した兄弟が二人顔を突き合わせて食事をするためにわざわざカップル用と思しき二人掛けのテーブルを買うのが嫌だと、兄・アキが主張したからだ。だから、スイが来るようになってからは元々広めだったカウンターにもう一脚椅子を置いて、三人ならんで食事をするようになっていた。
大抵はスイが真ん中、その両側にアキとユキ。普通より明らかにサイズ感大き目な二人に挟まれて、スイは窮屈ではないかと、アキは心配していたのだが、くるくる、アキとユキの顔を何度も振り返るスイはなんだかすごく楽しそうで、これはこれでいいかな。と、思い始めていた。
「今日の。どう?」
スイは料理が上手い。レストランで食べるのと遜色ない料理が毎日出てくる。しかも、味がいいだけでなく健康面も考えてくれていて、ユキと二人きりだった時と比べると食生活の充実度は雲泥の差だった。
「ん。今日のも美味い」
だから、アキは素直に答えた。
別にお世辞でも何でもない。それでも、そんな一言でスイはすごく嬉しそうな顔をする。そして、また、せっせと新たなレシピを開拓するのだ。
自分やユキを喜ばせようと一生懸命なところも、飾り気もない褒め言葉だけで幸せそうな顔をしてくれる健気なところも堪らなく可愛い。
アキは思う。
スイは今まであった誰とも全く違う。
自分がこんなふうに誰かに夢中になる日が来るなんて思っていなかった。人並み程度には恋愛もしたけれど、家族であるユキとどちらが大切かと聞かれて迷うような相手なんて、誰もいなった。
ただ、笑ってくれるだけで幸せに感じて、失ったらと考えると絶望するような相手に出会えたことが、正直怖かった。もちろん、自分に自信がないわけではない。自分の外観がほかの人より多少優れていることを、アキは正しく理解している。それでも、そんなお手軽なアピールポイントなど、スイには通用する気がしない。しかも、スイを奪い合う相手はレベルが高すぎる。
「スイさんの作るのは何でも美味いよ」
スイの向こう側からユキが満面の笑顔で言う。基本、好き嫌いはないユキだが、スイが作ったものを残したことはない。心の底から美味いと思っているんだろう。そもそも、ユキはそういう類の嘘が苦手だ。
思ったことをストレートに言ってしまっても、許されるような空気をユキは持っている。それは、恐らく天性のもので、ほんのしばらく一緒にいるだけで、ユキにまいってしまう女性を(男も)アキは何度も見ている。
ほぼ何もせずに素で人を惹きつけるユキが、本気で好かれようとしたら、スイだってきっと、惹かれずにはいられないだろう。その時に、単に容姿が優れているくらいで勝てる自信がない。だから、スイがユキと自分を同じくらいに好きだと言ってくれたことに、アキは安堵した。
「ありがと」
ユキの笑顔にスイも笑顔を返す。
安堵した理由はそれだけではない。
ユキが言ったのと同じことをアキも考えていた。
スイに選ばれて、アキを失うのも嫌だし、選ばれなくてスイを失うのも嫌だ。
だから、ユキも、スイも、自分も笑顔でいられる今が奇跡のように思えた。
奇蹟なんて、ガラじゃないか。
心の中で呟いて、アキは苦笑した。そんなロマンチシズム以前の自分なら寒気がする。と、でも言っていただろう。けれど、スイに出会って、知らなかった自分を教えられた気がする。
いないと思っていた神に祈る自分。
奇蹟なんて不確かなものを信じる自分。
失うのが怖いと臆病な自分。
たった一人の人を焦がれるほど想う自分。
そして……。
ヴヴヴヴ。ヴヴヴヴ。
小鳥遊兄弟の家には食卓がない。
元々、男二人暮らしで、外食が多く、簡単な料理しかしない上にいい歳した兄弟が二人顔を突き合わせて食事をするためにわざわざカップル用と思しき二人掛けのテーブルを買うのが嫌だと、兄・アキが主張したからだ。だから、スイが来るようになってからは元々広めだったカウンターにもう一脚椅子を置いて、三人ならんで食事をするようになっていた。
大抵はスイが真ん中、その両側にアキとユキ。普通より明らかにサイズ感大き目な二人に挟まれて、スイは窮屈ではないかと、アキは心配していたのだが、くるくる、アキとユキの顔を何度も振り返るスイはなんだかすごく楽しそうで、これはこれでいいかな。と、思い始めていた。
「今日の。どう?」
スイは料理が上手い。レストランで食べるのと遜色ない料理が毎日出てくる。しかも、味がいいだけでなく健康面も考えてくれていて、ユキと二人きりだった時と比べると食生活の充実度は雲泥の差だった。
「ん。今日のも美味い」
だから、アキは素直に答えた。
別にお世辞でも何でもない。それでも、そんな一言でスイはすごく嬉しそうな顔をする。そして、また、せっせと新たなレシピを開拓するのだ。
自分やユキを喜ばせようと一生懸命なところも、飾り気もない褒め言葉だけで幸せそうな顔をしてくれる健気なところも堪らなく可愛い。
アキは思う。
スイは今まであった誰とも全く違う。
自分がこんなふうに誰かに夢中になる日が来るなんて思っていなかった。人並み程度には恋愛もしたけれど、家族であるユキとどちらが大切かと聞かれて迷うような相手なんて、誰もいなった。
ただ、笑ってくれるだけで幸せに感じて、失ったらと考えると絶望するような相手に出会えたことが、正直怖かった。もちろん、自分に自信がないわけではない。自分の外観がほかの人より多少優れていることを、アキは正しく理解している。それでも、そんなお手軽なアピールポイントなど、スイには通用する気がしない。しかも、スイを奪い合う相手はレベルが高すぎる。
「スイさんの作るのは何でも美味いよ」
スイの向こう側からユキが満面の笑顔で言う。基本、好き嫌いはないユキだが、スイが作ったものを残したことはない。心の底から美味いと思っているんだろう。そもそも、ユキはそういう類の嘘が苦手だ。
思ったことをストレートに言ってしまっても、許されるような空気をユキは持っている。それは、恐らく天性のもので、ほんのしばらく一緒にいるだけで、ユキにまいってしまう女性を(男も)アキは何度も見ている。
ほぼ何もせずに素で人を惹きつけるユキが、本気で好かれようとしたら、スイだってきっと、惹かれずにはいられないだろう。その時に、単に容姿が優れているくらいで勝てる自信がない。だから、スイがユキと自分を同じくらいに好きだと言ってくれたことに、アキは安堵した。
「ありがと」
ユキの笑顔にスイも笑顔を返す。
安堵した理由はそれだけではない。
ユキが言ったのと同じことをアキも考えていた。
スイに選ばれて、アキを失うのも嫌だし、選ばれなくてスイを失うのも嫌だ。
だから、ユキも、スイも、自分も笑顔でいられる今が奇跡のように思えた。
奇蹟なんて、ガラじゃないか。
心の中で呟いて、アキは苦笑した。そんなロマンチシズム以前の自分なら寒気がする。と、でも言っていただろう。けれど、スイに出会って、知らなかった自分を教えられた気がする。
いないと思っていた神に祈る自分。
奇蹟なんて不確かなものを信じる自分。
失うのが怖いと臆病な自分。
たった一人の人を焦がれるほど想う自分。
そして……。
ヴヴヴヴ。ヴヴヴヴ。
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