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FiLwT
Mission Impossible 5
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「ズルい」
ぼそ。と、聞こえてきた声に振り返ると、ソファで動画を見ていたはずのユキが真後ろまで来ていた。
「俺だけ除け者して二人でイチャイチャすんのズルい!!」
大の男のくせに、ぷう。と、頬を膨らませている弟にため息が漏れる。
「お前が勝手に動画見てただけだろうが。俺が俺の恋人に触って何が悪いんだよ」
開き直ってそう答えて、カウンター越しにスイの頬から首筋をする。と、撫でると、びく。と、反応を返したスイの口から小さく、あ。と、声が漏れた。
「っ!!」
スイの可愛らしい反応に何を思ったのか、ユキはキッチンに走り込んで、アキの手を引きはがして、スイを腕の中に収めた。
「スイさんは兄貴だけのものじゃない!」
スイを抱きしめたまま涙目になって力説する弟に今度は苦笑する。割り切って付き合う女性相手なら、余裕で甘えて見せるくせに、どうやら、スイのことはそんな風に割り切れないらしい。まるで幼稚園児のような独占欲丸出しの行動に、それでもスイは苦笑すらせずに、ユキの頭をよしよし。と、撫でていた。
意外だと思ったのは、自分自身のことだ。
スイが誰かに優しくするところなんて絶対に見たくないと思っていたし、そんなところを見たら冷静でいられるはずがないと思っていた。けれど、意外にも腹が立たない。独占したいと思うときもあるけれど、ユキがスイに甘やかされているのを微笑ましく思う自分がいるのが驚きだった。
スイと二人でいる未来を想像するよりも、三人でいる未来を想像する方が自然に思えた自分がくすぐったいけれど、誇らしく思えた。それから、スイも、ユキも失わずに済む未来に感謝した。
「半分ずつで、ごめん。でも、全部二人のだ」
ユキを優しく撫でながらスイが微笑む。友達の時には見たことがないような艶のある微笑みに、見惚れたのはユキだけではない。そうやって、見たこともない表情を毎日見せてくれるから、目が離せない。どんどん夢中になっている。
アキは思う。
きっと、うまく行かない日もあるだろう。我儘で独占欲が強い自分がスイを傷つけることも、ガキで空気の読めないユキがスイを困らせることもあるだろう。繊細で傷つきやすいスイがまた、自分を許せなくなってしまうことも、スイが恐れる過去が彼の前に立ちはだかることもあるだろう。
それでも、きっと、その人が自分たちを好きだと思っていてくれる限りは、一緒にすべて乗り越えたいと思う。二人なら無理かもしれない。けれど、三人ならきっと。
「……スイさん」
アキが見てるのなんてお構いなしにユキがスイの頬を両手で包み込む。言葉にしなくても、あなたに夢中ですと、表情が語っている。
ただ。その先まで許すには、まだ、アキも修行が足りなかった。
カウンターから立ち上がり、キッチンに入って、ユキの肩に手をかける。二人の間に割って入ろうとした瞬間。
ぴぴぴ。ぴぴぴ。
高らかに鳴ったタイマーの音。
あ。と、小さく呟いて、スイが、するり。と、ユキの腕を抜け出す。それはもう、どうやったのかと聞きたくなるくらいにあっさりと。
「……え?」
ユキの方もいい雰囲気だと思っていた恋人がいきなり消えて困惑するばかりだ。?を何個も飛ばしながら、スイがすり抜けた腕を見つめてから、アキの顔を見て、どうやったの? と、表情で訊ねてくる。
腕を上に向けて、首を横に振って見せると、なんとも言えない悲哀を漂わせてユキが肩を落とす。暴くこと、隠すことのエキスパートで、逃げるのも振り回すのも得意な、年上の天然美人の攻略は、恋愛初心者のユキには、いや、アキにすら難易度が高いミッションだ。
前途多難だな。
アキは思う。
きっと、ずっと、こんなふうにスイに振り回され続けるのだろう。スイ自身まったく無自覚なまま。
「……できた」
コンロの上の鍋の中を確認して、スイが振り返る。
また、その笑顔が信じられないくらい可愛いものだから、振り回されるのも悪くないと思ってしまった。きっと、ユキも思ったことだろう。
ぽん。と、アキは、ユキの肩を叩いた。
「俺らの負けだ」
スイが食卓の準備を始めるのを茫然と見ているユキが振り返る。
「……かわいい」
軽やかに動き回る姿は、確かにとても年上とは思えない愛らしさだ。
前途は多難だけれど、このミッションはやりがいがありそうだ。すっかり、恋人の可愛い姿に魂を持っていかれた弟の隣で。いつの日かの完全攻略を誓う兄であった。
ぼそ。と、聞こえてきた声に振り返ると、ソファで動画を見ていたはずのユキが真後ろまで来ていた。
「俺だけ除け者して二人でイチャイチャすんのズルい!!」
大の男のくせに、ぷう。と、頬を膨らませている弟にため息が漏れる。
「お前が勝手に動画見てただけだろうが。俺が俺の恋人に触って何が悪いんだよ」
開き直ってそう答えて、カウンター越しにスイの頬から首筋をする。と、撫でると、びく。と、反応を返したスイの口から小さく、あ。と、声が漏れた。
「っ!!」
スイの可愛らしい反応に何を思ったのか、ユキはキッチンに走り込んで、アキの手を引きはがして、スイを腕の中に収めた。
「スイさんは兄貴だけのものじゃない!」
スイを抱きしめたまま涙目になって力説する弟に今度は苦笑する。割り切って付き合う女性相手なら、余裕で甘えて見せるくせに、どうやら、スイのことはそんな風に割り切れないらしい。まるで幼稚園児のような独占欲丸出しの行動に、それでもスイは苦笑すらせずに、ユキの頭をよしよし。と、撫でていた。
意外だと思ったのは、自分自身のことだ。
スイが誰かに優しくするところなんて絶対に見たくないと思っていたし、そんなところを見たら冷静でいられるはずがないと思っていた。けれど、意外にも腹が立たない。独占したいと思うときもあるけれど、ユキがスイに甘やかされているのを微笑ましく思う自分がいるのが驚きだった。
スイと二人でいる未来を想像するよりも、三人でいる未来を想像する方が自然に思えた自分がくすぐったいけれど、誇らしく思えた。それから、スイも、ユキも失わずに済む未来に感謝した。
「半分ずつで、ごめん。でも、全部二人のだ」
ユキを優しく撫でながらスイが微笑む。友達の時には見たことがないような艶のある微笑みに、見惚れたのはユキだけではない。そうやって、見たこともない表情を毎日見せてくれるから、目が離せない。どんどん夢中になっている。
アキは思う。
きっと、うまく行かない日もあるだろう。我儘で独占欲が強い自分がスイを傷つけることも、ガキで空気の読めないユキがスイを困らせることもあるだろう。繊細で傷つきやすいスイがまた、自分を許せなくなってしまうことも、スイが恐れる過去が彼の前に立ちはだかることもあるだろう。
それでも、きっと、その人が自分たちを好きだと思っていてくれる限りは、一緒にすべて乗り越えたいと思う。二人なら無理かもしれない。けれど、三人ならきっと。
「……スイさん」
アキが見てるのなんてお構いなしにユキがスイの頬を両手で包み込む。言葉にしなくても、あなたに夢中ですと、表情が語っている。
ただ。その先まで許すには、まだ、アキも修行が足りなかった。
カウンターから立ち上がり、キッチンに入って、ユキの肩に手をかける。二人の間に割って入ろうとした瞬間。
ぴぴぴ。ぴぴぴ。
高らかに鳴ったタイマーの音。
あ。と、小さく呟いて、スイが、するり。と、ユキの腕を抜け出す。それはもう、どうやったのかと聞きたくなるくらいにあっさりと。
「……え?」
ユキの方もいい雰囲気だと思っていた恋人がいきなり消えて困惑するばかりだ。?を何個も飛ばしながら、スイがすり抜けた腕を見つめてから、アキの顔を見て、どうやったの? と、表情で訊ねてくる。
腕を上に向けて、首を横に振って見せると、なんとも言えない悲哀を漂わせてユキが肩を落とす。暴くこと、隠すことのエキスパートで、逃げるのも振り回すのも得意な、年上の天然美人の攻略は、恋愛初心者のユキには、いや、アキにすら難易度が高いミッションだ。
前途多難だな。
アキは思う。
きっと、ずっと、こんなふうにスイに振り回され続けるのだろう。スイ自身まったく無自覚なまま。
「……できた」
コンロの上の鍋の中を確認して、スイが振り返る。
また、その笑顔が信じられないくらい可愛いものだから、振り回されるのも悪くないと思ってしまった。きっと、ユキも思ったことだろう。
ぽん。と、アキは、ユキの肩を叩いた。
「俺らの負けだ」
スイが食卓の準備を始めるのを茫然と見ているユキが振り返る。
「……かわいい」
軽やかに動き回る姿は、確かにとても年上とは思えない愛らしさだ。
前途は多難だけれど、このミッションはやりがいがありそうだ。すっかり、恋人の可愛い姿に魂を持っていかれた弟の隣で。いつの日かの完全攻略を誓う兄であった。
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