136 / 363
FiLwT
Mission Impossible 3
しおりを挟む
「待たない」
きっぱりとアキが答える。
「考える時間。あげると、スイさん余計なこと考えるからな。今すぐ。答えて。
二人とも好きかどうかだけでいい。それだけ、聞かせてくれたら、もう、余計なこと考えられないくらい、思いっきり甘やかして、大切にするから」
そんな顔をするのはズルい。
スイは思う。
好きだと自覚したばかりの人に、こんなふうに全部許すみたいな顔されて、逆らえるほど幸せな人生を歩んでいない。裏切られる悔しさも。蹂躙される屈辱も。傷つけられる痛みも。逃げ続ける恐怖も。独りでいる孤独も。いやというほど理解しているスイにとって、その誘惑は抗いがたいものだった。
「スイさんが本当はどうしたいのか教えて」
首を傾げたユキがスイの顔を覗き込む。なんでも見透かしてしまいそうなその深い黒の目にはきっと、スイの揺れる気持ちなんてお見通しだのだろう。
「俺。言えないことばっかだし……PC以外に自慢できることもないし……随分。年上だし。女の子でもないし……そのうえ、欲張りで。選べないとかいうのに……それでいいのかよ」
ダメ。と、言ってくれれば今ならまだ間に合う。とは、もう、思えなかった。もう、引き返せないくらいに気持ちは傾いている。全部引き換えにしてでも、手に入れられるなら、手に入れたい。
幸福を。
「なんだよ今更。言えないことばっかりなんて知ってるし、年上だってことだってわかってるし、女の子じゃないことことくらい、見りゃわかる。
けど、PC以外にだってスイさんのいいところは山ほど知ってるし、スイさんじゃなきゃやなんだ」
ユキの言葉に、許されてもいいのかと思えてくる。
三人でいられる幸福を手に入れるための、その幸福を守るための努力をするチャンスを諦めなくてもいいのだろうか。
「スイさん。
俺たちがほしいのは、平穏じゃないよ。スイさん自身だ。遠慮しないで、欲張って」
アキの甘い甘い低い声にもう、逆らうことなんてできなかった。
自分のためにここまで言ってくれる二人をスイ自身の手で幸せにしてあげたいと願う。
もし、自分の呪いが彼らを傷つけようとするなら、どんな手を使ってでも、どんな犠牲を払っても、自分が守ると、決めた。
二人が想ってくれている限りは、想いを返したいと決めた。
「……好き。だよ。アキ君。好きだよ。ユキ君。
俺には何にも、残らなくてもいい。一人占めさせて」
スイの言葉に、ユキの顔にぱぁ。っと、笑顔が咲いた。と、思った瞬間にぐい。と、横から引き寄せられてアキの腕の中に収められる。
「聞いたからな。も、絶対に離さない」
吐息がかかるほどにアキの声が近い。突然動き出したんじゃないかと思うほどに心臓の音が高鳴る。上手く息ができないほどだ。けれど、はく。と、息を吸い込んだ瞬間。アキの匂いがして、肺から全身へ幸せが広がっていくようだった。
「兄貴。ズルい」
頭越しにユキの拗ねたような声が聞こえる。いや、拗ねたような、ではなく、ユキは拗ねた。
「俺だってスイさんのこと抱きしめたい!」
駄々っ子のようなだん。と、足をならして、ユキが言う。たしか、今24時を回った頃だ。近所迷惑かもしれない。と、別れなくていいのだと安堵したら当たり前のことが頭をかすめた。
「何が『ズルい』だ。お前、さっきフライングしてただろうが。今度は俺の番だ」
片手でしっし。と、ユキを追い払うような仕草をして、アキが答える。
さっきまで、この世界が終わってしまうような気持ちだった。閉じ込められた呪いから絶対に抜け出すことなんてできなくて、自分は一生独りなんだと思っていた。
世界は何一つ変わってはいない。スイに呪いをかけた相手はまだ、この世界の中にいる。話していない過去だって変えられないし、スイが自分に自信がないのも変わらない。
それなのに、一言で世界は変わってしまった。
「好きだよ。スイさん」
耳元を擽る、アキの甘くて低くて優しい声。
「俺も! スイさんのこと大好きだからね」
アキが抱きしめるその背中からスイをぎゅ。と、抱きしめて、ユキも言う。
二人の言葉が世界を変えてくれた。
「……ありがとう。俺も……すき」
二人が変えてくれた世界をもう、二度と手放すことはできない。
どんなことがあっても守りたいと願うスイだった。
きっぱりとアキが答える。
「考える時間。あげると、スイさん余計なこと考えるからな。今すぐ。答えて。
二人とも好きかどうかだけでいい。それだけ、聞かせてくれたら、もう、余計なこと考えられないくらい、思いっきり甘やかして、大切にするから」
そんな顔をするのはズルい。
スイは思う。
好きだと自覚したばかりの人に、こんなふうに全部許すみたいな顔されて、逆らえるほど幸せな人生を歩んでいない。裏切られる悔しさも。蹂躙される屈辱も。傷つけられる痛みも。逃げ続ける恐怖も。独りでいる孤独も。いやというほど理解しているスイにとって、その誘惑は抗いがたいものだった。
「スイさんが本当はどうしたいのか教えて」
首を傾げたユキがスイの顔を覗き込む。なんでも見透かしてしまいそうなその深い黒の目にはきっと、スイの揺れる気持ちなんてお見通しだのだろう。
「俺。言えないことばっかだし……PC以外に自慢できることもないし……随分。年上だし。女の子でもないし……そのうえ、欲張りで。選べないとかいうのに……それでいいのかよ」
ダメ。と、言ってくれれば今ならまだ間に合う。とは、もう、思えなかった。もう、引き返せないくらいに気持ちは傾いている。全部引き換えにしてでも、手に入れられるなら、手に入れたい。
幸福を。
「なんだよ今更。言えないことばっかりなんて知ってるし、年上だってことだってわかってるし、女の子じゃないことことくらい、見りゃわかる。
けど、PC以外にだってスイさんのいいところは山ほど知ってるし、スイさんじゃなきゃやなんだ」
ユキの言葉に、許されてもいいのかと思えてくる。
三人でいられる幸福を手に入れるための、その幸福を守るための努力をするチャンスを諦めなくてもいいのだろうか。
「スイさん。
俺たちがほしいのは、平穏じゃないよ。スイさん自身だ。遠慮しないで、欲張って」
アキの甘い甘い低い声にもう、逆らうことなんてできなかった。
自分のためにここまで言ってくれる二人をスイ自身の手で幸せにしてあげたいと願う。
もし、自分の呪いが彼らを傷つけようとするなら、どんな手を使ってでも、どんな犠牲を払っても、自分が守ると、決めた。
二人が想ってくれている限りは、想いを返したいと決めた。
「……好き。だよ。アキ君。好きだよ。ユキ君。
俺には何にも、残らなくてもいい。一人占めさせて」
スイの言葉に、ユキの顔にぱぁ。っと、笑顔が咲いた。と、思った瞬間にぐい。と、横から引き寄せられてアキの腕の中に収められる。
「聞いたからな。も、絶対に離さない」
吐息がかかるほどにアキの声が近い。突然動き出したんじゃないかと思うほどに心臓の音が高鳴る。上手く息ができないほどだ。けれど、はく。と、息を吸い込んだ瞬間。アキの匂いがして、肺から全身へ幸せが広がっていくようだった。
「兄貴。ズルい」
頭越しにユキの拗ねたような声が聞こえる。いや、拗ねたような、ではなく、ユキは拗ねた。
「俺だってスイさんのこと抱きしめたい!」
駄々っ子のようなだん。と、足をならして、ユキが言う。たしか、今24時を回った頃だ。近所迷惑かもしれない。と、別れなくていいのだと安堵したら当たり前のことが頭をかすめた。
「何が『ズルい』だ。お前、さっきフライングしてただろうが。今度は俺の番だ」
片手でしっし。と、ユキを追い払うような仕草をして、アキが答える。
さっきまで、この世界が終わってしまうような気持ちだった。閉じ込められた呪いから絶対に抜け出すことなんてできなくて、自分は一生独りなんだと思っていた。
世界は何一つ変わってはいない。スイに呪いをかけた相手はまだ、この世界の中にいる。話していない過去だって変えられないし、スイが自分に自信がないのも変わらない。
それなのに、一言で世界は変わってしまった。
「好きだよ。スイさん」
耳元を擽る、アキの甘くて低くて優しい声。
「俺も! スイさんのこと大好きだからね」
アキが抱きしめるその背中からスイをぎゅ。と、抱きしめて、ユキも言う。
二人の言葉が世界を変えてくれた。
「……ありがとう。俺も……すき」
二人が変えてくれた世界をもう、二度と手放すことはできない。
どんなことがあっても守りたいと願うスイだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
【完結】18年間外の世界を知らなかった僕は魔法大国の王子様に連れ出され愛を知る
にゃーつ
BL
王族の初子が男であることは不吉とされる国ルーチェ。
妃は双子を妊娠したが、初子は男であるルイだった。殺人は最も重い罪とされるルーチェ教に基づき殺すこともできない。そこで、国民には双子の妹ニナ1人が生まれたこととしルイは城の端の部屋に閉じ込め育てられることとなった。
ルイが生まれて丸三年国では飢餓が続き、それがルイのせいであるとルイを責める両親と妹。
その後生まれてくる兄弟たちは男であっても両親に愛される。これ以上両親にも嫌われたくなくてわがまま1つ言わず、ほとんど言葉も発しないまま、外の世界も知らないまま成長していくルイ。
そんなある日、一羽の鳥が部屋の中に入り込んでくる。ルイは初めて出来たその友達にこれまで隠し通してきた胸の内を少しづつ話し始める。
ルイの身も心も限界が近づいた日、その鳥の正体が魔法大国の王子セドリックであることが判明する。さらにセドリックはルイを嫁にもらいたいと言ってきた。
初めて知る外の世界、何度も願った愛されてみたいという願い、自由な日々。
ルイにとって何もかもが新鮮で、しかし不安の大きい日々。
セドリックの大きい愛がルイを包み込む。
魔法大国王子×外の世界を知らない王子
性描写には※をつけております。
表紙は까리さんの画像メーカー使用させていただきました。
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
貧乏Ωの憧れの人
ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。
エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結済み】妹に婚約者を奪われたので実家の事は全て任せます。あぁ、崩壊しても一切責任は取りませんからね?
早乙女らいか
恋愛
当主であり伯爵令嬢のカチュアはいつも妹のネメスにいじめられていた。
物も、立場も、そして婚約者も……全てネメスに奪われてしまう。
度重なる災難に心が崩壊したカチュアは、妹のネメアに言い放つ。
「実家の事はすべて任せます。ただし、責任は一切取りません」
そして彼女は自らの命を絶とうとする。もう生きる気力もない。
全てを終わらせようと覚悟を決めた時、カチュアに優しくしてくれた王子が現れて……
(完)お姉様の婚約者をもらいましたーだって、彼の家族が私を選ぶのですものぉ
青空一夏
恋愛
前編・後編のショートショート。こちら、ゆるふわ設定の気分転換作品です。姉妹対決のざまぁで、ありがちな設定です。
妹が姉の彼氏を奪い取る。結果は・・・・・・。
王太子殿下に婚約者がいるのはご存知ですか?
通木遼平
恋愛
フォルトマジア王国の王立学院で卒業を祝う夜会に、マレクは卒業する姉のエスコートのため参加をしていた。そこに来賓であるはずの王太子が平民の卒業生をエスコートして現れた。
王太子には婚約者がいるにも関わらず、彼の在学時から二人の関係は噂されていた。
周囲のざわめきをよそに何事もなく夜会をはじめようとする王太子の前に数名の令嬢たちが進み出て――。
※以前他のサイトで掲載していた作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる