56 / 363
HBtF
6-5
しおりを挟む
「魔法って言えばさ」
二人の会話をつまらなそうに聞いていたユキが、口をはさんでくる。
「スイさん。どうして、兄貴のいる場所が分かったんだ?」
それは、アキも不思議に思っていた。
「ああ。それは……別に魔法でも何でもないよ」
そう言ってから、スイは部屋の中を見回す。それから、目当ての物を見つけたのか、立ち上がり歩いて行って、襲撃当時アキが着ていた衣類を持ってきた。縫合の際、着替えたものを看護師が置いて行ってくれたものだった。
「よかった。捨てられてなかった」
確かに、銃弾で穴があいて、血だらけになってしまったので、捨てようと思っていた。そのジーンズのポケットに手を入れて、スイが取り出したのは、飴色の革のキーケースだった。
「これ」
スイがユキの誕生日プレゼントに贈ったものとよく似ている。ただ、ユキのプレゼントについていた黒曜石が、柘榴石になっている。
「アキ君に似合いそうだったから、一緒に買っちゃってたんだ。GPS信号が出てるって言っただろ? とっさにアキ君に持たせたのは褒めてくれる?」
そう言って、スイはアキにそれを手渡した。
「いや。でも、これのGPS反応ってどうやって特定したわけ? ふつうはスマートフォンに登録するんだろ?」
青い石のついたキーケースを眺めてアキはスイに問う。
「製造会社のPCハッキングして、販売店に送られたロット№から調べた。そもそも、それあんまり数作られてないから、特定はそんなに難しくなかったし」
こともなげにスイは言う。
それが、他の人間にとっては魔法なのだと、彼は知らない。
「えー? 結構いい感じなのに、これ、売れてないの?」
自分のポケットから、同じキーケースを出して、じっくり見てから、変な所に食いついたユキに、スイは笑いながら今日一の衝撃的な一言を発した。
「あ。それ、一つ70万するから」
「「っ!!!!!!」」
各々キーケースと、スイの顔を見比べる。
「ちょちょちょちょ……まって……冷静になれ!」
スイの肩に手を置いてアキが言う。
冷静でないのはお前だと突っ込まれたら弁解のしようがない。
「スイさん。おかしいって。絶対おかしいって」
さすがのユキも言葉を失っている。
70万円の宝飾品は、おそらく、男友達に送るもんじゃない。しかも、兄弟二人同時に、だ。
「……えと。やっぱり、誕生日以外に男にものあげるとか……恥ずかしかった?」
少しズレたスイの疑問に、頭が痛くなる。これは、世間知らずとかいう問題じゃない。大体、警察や暴力団の裏情報は知ってるし、近所のスーパーの特売日は知ってるくせに、男友達に送るプレゼントの限度額を知らなってどういうことだ。
「それとも、気に入らなかったんだったら……返してこようかな」
しゅんとして寂しそうに呟くスイに、こいつを放っておいては危険だ。と、アキは危機感を覚えた。
放っておいたら、自分で無駄遣いをしたくせに何かあったら、報復で日本の半社会組織の均衡を崩しかねない仕返しを思想で怖い。
「や。いいよ! 俺気に入ったし!」
そんな兄の葛藤をどこ吹く風と、ユキが軽く言う。こういうときに順応性の高いユキが、アキは心底うらやましいと思う。
「な。兄貴も気にいっただろ?」
少し寂しそう上目づかいで見上げるスイと、きらきらと無邪気な瞳で見つめるユキ。
なにこれ?
ここで、もらわないと、俺、悪役なわけ??
ため息を一つ。アキは降参した。
「はい。気に入りました。いただきます」
これは、教育が必要だな。と、多難な前途に苦笑する。
手の中に収まる赤い色の石がもつ意味が“愛を貫き通す”だと知るのはもう少し先のことだった。
二人の会話をつまらなそうに聞いていたユキが、口をはさんでくる。
「スイさん。どうして、兄貴のいる場所が分かったんだ?」
それは、アキも不思議に思っていた。
「ああ。それは……別に魔法でも何でもないよ」
そう言ってから、スイは部屋の中を見回す。それから、目当ての物を見つけたのか、立ち上がり歩いて行って、襲撃当時アキが着ていた衣類を持ってきた。縫合の際、着替えたものを看護師が置いて行ってくれたものだった。
「よかった。捨てられてなかった」
確かに、銃弾で穴があいて、血だらけになってしまったので、捨てようと思っていた。そのジーンズのポケットに手を入れて、スイが取り出したのは、飴色の革のキーケースだった。
「これ」
スイがユキの誕生日プレゼントに贈ったものとよく似ている。ただ、ユキのプレゼントについていた黒曜石が、柘榴石になっている。
「アキ君に似合いそうだったから、一緒に買っちゃってたんだ。GPS信号が出てるって言っただろ? とっさにアキ君に持たせたのは褒めてくれる?」
そう言って、スイはアキにそれを手渡した。
「いや。でも、これのGPS反応ってどうやって特定したわけ? ふつうはスマートフォンに登録するんだろ?」
青い石のついたキーケースを眺めてアキはスイに問う。
「製造会社のPCハッキングして、販売店に送られたロット№から調べた。そもそも、それあんまり数作られてないから、特定はそんなに難しくなかったし」
こともなげにスイは言う。
それが、他の人間にとっては魔法なのだと、彼は知らない。
「えー? 結構いい感じなのに、これ、売れてないの?」
自分のポケットから、同じキーケースを出して、じっくり見てから、変な所に食いついたユキに、スイは笑いながら今日一の衝撃的な一言を発した。
「あ。それ、一つ70万するから」
「「っ!!!!!!」」
各々キーケースと、スイの顔を見比べる。
「ちょちょちょちょ……まって……冷静になれ!」
スイの肩に手を置いてアキが言う。
冷静でないのはお前だと突っ込まれたら弁解のしようがない。
「スイさん。おかしいって。絶対おかしいって」
さすがのユキも言葉を失っている。
70万円の宝飾品は、おそらく、男友達に送るもんじゃない。しかも、兄弟二人同時に、だ。
「……えと。やっぱり、誕生日以外に男にものあげるとか……恥ずかしかった?」
少しズレたスイの疑問に、頭が痛くなる。これは、世間知らずとかいう問題じゃない。大体、警察や暴力団の裏情報は知ってるし、近所のスーパーの特売日は知ってるくせに、男友達に送るプレゼントの限度額を知らなってどういうことだ。
「それとも、気に入らなかったんだったら……返してこようかな」
しゅんとして寂しそうに呟くスイに、こいつを放っておいては危険だ。と、アキは危機感を覚えた。
放っておいたら、自分で無駄遣いをしたくせに何かあったら、報復で日本の半社会組織の均衡を崩しかねない仕返しを思想で怖い。
「や。いいよ! 俺気に入ったし!」
そんな兄の葛藤をどこ吹く風と、ユキが軽く言う。こういうときに順応性の高いユキが、アキは心底うらやましいと思う。
「な。兄貴も気にいっただろ?」
少し寂しそう上目づかいで見上げるスイと、きらきらと無邪気な瞳で見つめるユキ。
なにこれ?
ここで、もらわないと、俺、悪役なわけ??
ため息を一つ。アキは降参した。
「はい。気に入りました。いただきます」
これは、教育が必要だな。と、多難な前途に苦笑する。
手の中に収まる赤い色の石がもつ意味が“愛を貫き通す”だと知るのはもう少し先のことだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】暁の荒野
Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。
いつしか周囲は朱から白銀染まった。
西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。
スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。
謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。
銃撃シーンがありますが、最初と最後当たりのみになります。
キャラクターイラスト:はちれお様
=====
別で投稿している「暁の草原」と連動しています。
どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。
面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ!
※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。
=====
この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる