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月夕に落ちる雨の名は
21 御清と臣丞 2
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それは、唐突に始まった。
さっきまで、そこは何もない普通の広場だった。
けれど、その扉が、否、扉は最初から開いていたのだが、扉が繋ぐ道が開いた途端にそこは別の場所に変わったのだ。
それは、赤い炎。
それは、きらきらとまばゆい光。
それは、燐の灼ける匂い。
それは、柔らかな毛皮の感触。
それは、小さな花の匂い。
溢れ出した。
小さな石の社の小さな扉からまるで間欠泉のように。
「な……んだ? これ」
思わず後ずさると、背中を鈴が支えてくれた。
溢れ出すものは止まらない。途切れることなく溢れ続ける。
それが何なのか、よくわからない。けれど、それが、多分、新三の言っていた力なのだと、感じる。
「……な……んで? 力、無くなったんじゃ……ないのか?」
信仰心や畏れ、恐怖、興味、愛情。そんなものが彼らの力になる。しかし、今の世の中の人々は、そういうものを彼らのような人ならざる者に向けない。だから、社はあんなふうに寂れてしまった。はずだ。
人との繋がりを取り戻したと言っても、その力をくれる人の数は少ない。繋がったからと言ってどこかから溢れて来るようなものではないのだ。
「分からないですけど……少なくとも悪いものじゃない。し……向かってる先は多分、あいつ。だ」
鈴も困惑したように耳元で呟く。悪いものでないことくらいは菫にもはっきりとわかる。それどころか、見ていると心が躍る。力が湧く。頑張れそうな気持になれる。そんな光景だった。
「わわわわわわわっ!!!!」
ぽん。っっ。と、言う音が松林に響き渡った。
「いやああああん」
続けて、もう一度。
音と共に何か、明らかに社の扉より大きいものが吐き出されて、ぼと。ぼと。と、地面に落ちた。
そして、それを吐き出して、あの奔流が収まる。収まって、社の小さな扉が閉まった。
「……な……に?」
あまりの唐突さに思わず菫は鈴に抱きついていた。その二人の前で、落ちたものが、もぞ。と、動く。
「やああっっと帰れた~!!」
むく。と、起き上がったのは、巫女の服を着た、女性だった。かなりの美人だ。20代後半くらいの大人の女性。しかも、ものすごく。巨乳。何故か、半分くらい乳がはみ出している。ちなみに上。
「姉さん……うち……だあ」
もう一人は禰宜の格好をした青年。恐らく20代前半くらいだった。驚くほど整った顔立ちをしているけれど、何故か、襟巻のようなもので顔を半分隠している。殆ど表情はないけれど、なにやらぷるぷる。と震えているのは、怖いのか寒いのか(夏だからこれはないだろう)感動しているのかは判別がつかない。
「臣丞……」
禰宜の青年をむぎゅ。と、抱きしめて、巨乳のお姉さんは涙目になっている。巨乳に押し付けられて、息ができなくて苦しいのか、臣丞と呼ばれた青年の方はじたばた。と、暴れていた。
その二人の頭と尻に特徴的なアレを見つけて、ようやく何が起こっているか少しだけ分かってきた。どうやら、扉を繋げるのは彼ら眷属のお家芸らしい。
「「清姉!!」」
そこにもう二匹。お揚げの色の耳と尻尾がついた少年少女がなだれ込んできた。最初に落ちてきた二人の頭上の何もない場所に開いた扉から落ちてきたのだ。
そして、二匹はそのまま、女性に抱きついて泣き出す。
あのツンツンした新三の泣き顔は初めて見た。それは、10代半ばの外見に相応しい子供のような泣き顔だった。
「どこ行ってたの? 黒ちゃんが大変だったのに」
ぐりぐり。と、女性の背中に顔を埋めて泣きながら、冴夜が言う。鼻水が彼女の背中に盛大に広がるけれど、お構いなしだ。
「ごめんね。ごめんねえ。冴夜ぁ。私たちも大変だったのよ」
鼻水をこすりつけられながらも、わしわし。と、冴夜の頭を撫でてやって、清姉と呼ばれた女性が答える。
「たまたま向こうに行ったら、いきなり扉が閉じて向こうの社に閉じ込められたのよお」
そこまで言ってから、彼女ははた。と、抱き合ったまま呆けている菫と鈴に気付いた。
「おや。人間……あんた。もしかして。菫? ええええ? マジで? ホントに生まれ変わってきたの?? うそお? すごくない?」
臣丞と新三と冴夜を引きずったまま菫の前まで歩いてきて、まじまじと菫の顔を見つめて、彼女は言った。
「あんた。相変わらずねえ。綺麗な目して。って。え? なにこのイケメン? この顔面。ありえなくない?? え? 本当に人間?」
今度は鈴の顔をまじまじと見つめて、彼女は言う。
「もしかして、あんたたちが助けてくれたの?」
さっきまで、そこは何もない普通の広場だった。
けれど、その扉が、否、扉は最初から開いていたのだが、扉が繋ぐ道が開いた途端にそこは別の場所に変わったのだ。
それは、赤い炎。
それは、きらきらとまばゆい光。
それは、燐の灼ける匂い。
それは、柔らかな毛皮の感触。
それは、小さな花の匂い。
溢れ出した。
小さな石の社の小さな扉からまるで間欠泉のように。
「な……んだ? これ」
思わず後ずさると、背中を鈴が支えてくれた。
溢れ出すものは止まらない。途切れることなく溢れ続ける。
それが何なのか、よくわからない。けれど、それが、多分、新三の言っていた力なのだと、感じる。
「……な……んで? 力、無くなったんじゃ……ないのか?」
信仰心や畏れ、恐怖、興味、愛情。そんなものが彼らの力になる。しかし、今の世の中の人々は、そういうものを彼らのような人ならざる者に向けない。だから、社はあんなふうに寂れてしまった。はずだ。
人との繋がりを取り戻したと言っても、その力をくれる人の数は少ない。繋がったからと言ってどこかから溢れて来るようなものではないのだ。
「分からないですけど……少なくとも悪いものじゃない。し……向かってる先は多分、あいつ。だ」
鈴も困惑したように耳元で呟く。悪いものでないことくらいは菫にもはっきりとわかる。それどころか、見ていると心が躍る。力が湧く。頑張れそうな気持になれる。そんな光景だった。
「わわわわわわわっ!!!!」
ぽん。っっ。と、言う音が松林に響き渡った。
「いやああああん」
続けて、もう一度。
音と共に何か、明らかに社の扉より大きいものが吐き出されて、ぼと。ぼと。と、地面に落ちた。
そして、それを吐き出して、あの奔流が収まる。収まって、社の小さな扉が閉まった。
「……な……に?」
あまりの唐突さに思わず菫は鈴に抱きついていた。その二人の前で、落ちたものが、もぞ。と、動く。
「やああっっと帰れた~!!」
むく。と、起き上がったのは、巫女の服を着た、女性だった。かなりの美人だ。20代後半くらいの大人の女性。しかも、ものすごく。巨乳。何故か、半分くらい乳がはみ出している。ちなみに上。
「姉さん……うち……だあ」
もう一人は禰宜の格好をした青年。恐らく20代前半くらいだった。驚くほど整った顔立ちをしているけれど、何故か、襟巻のようなもので顔を半分隠している。殆ど表情はないけれど、なにやらぷるぷる。と震えているのは、怖いのか寒いのか(夏だからこれはないだろう)感動しているのかは判別がつかない。
「臣丞……」
禰宜の青年をむぎゅ。と、抱きしめて、巨乳のお姉さんは涙目になっている。巨乳に押し付けられて、息ができなくて苦しいのか、臣丞と呼ばれた青年の方はじたばた。と、暴れていた。
その二人の頭と尻に特徴的なアレを見つけて、ようやく何が起こっているか少しだけ分かってきた。どうやら、扉を繋げるのは彼ら眷属のお家芸らしい。
「「清姉!!」」
そこにもう二匹。お揚げの色の耳と尻尾がついた少年少女がなだれ込んできた。最初に落ちてきた二人の頭上の何もない場所に開いた扉から落ちてきたのだ。
そして、二匹はそのまま、女性に抱きついて泣き出す。
あのツンツンした新三の泣き顔は初めて見た。それは、10代半ばの外見に相応しい子供のような泣き顔だった。
「どこ行ってたの? 黒ちゃんが大変だったのに」
ぐりぐり。と、女性の背中に顔を埋めて泣きながら、冴夜が言う。鼻水が彼女の背中に盛大に広がるけれど、お構いなしだ。
「ごめんね。ごめんねえ。冴夜ぁ。私たちも大変だったのよ」
鼻水をこすりつけられながらも、わしわし。と、冴夜の頭を撫でてやって、清姉と呼ばれた女性が答える。
「たまたま向こうに行ったら、いきなり扉が閉じて向こうの社に閉じ込められたのよお」
そこまで言ってから、彼女ははた。と、抱き合ったまま呆けている菫と鈴に気付いた。
「おや。人間……あんた。もしかして。菫? ええええ? マジで? ホントに生まれ変わってきたの?? うそお? すごくない?」
臣丞と新三と冴夜を引きずったまま菫の前まで歩いてきて、まじまじと菫の顔を見つめて、彼女は言った。
「あんた。相変わらずねえ。綺麗な目して。って。え? なにこのイケメン? この顔面。ありえなくない?? え? 本当に人間?」
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「もしかして、あんたたちが助けてくれたの?」
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