真鍮とアイオライト 1

司書Y

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月夕に落ちる雨の名は

20 祭 4

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「そんなのいいよ。クラウドファンディングで集めよう」

 あっさり。本当にあっさり。と、ユーマが言った一言に、今度はユーマの顔に、は? という、大人たちの視線が集中する。

「ここ、隠れた縁結びのパワスポらしいよ? おばあちゃん言ってた。狐の尻尾の毛を見つけて、指に巻き付けて告白すると絶対に成功するんだって!」

「じゃあ、返礼品は狐の尻尾の毛でいいじゃん。たまに狐見かけるもんね」

「目標額どれくらいに設定する?」

「ちょっと待ってて、検索してみる……」

「そだ。S市非公認萌えキャラとかのVチューバーチャンネル作るってどう?」

「いーねー。誰か、いいキャラの人いないかな。ガキだと見てもらえないしな」

 そこで、子供たちははっとして、ぐるん。と、鈴を振り返る。

「お兄さんどうですか?」

 一瞬、鈴は固まってから、横に首をぶんぶん。と、振った。

「……この人はやめてあげて……」

 鈴の性格上ソレは無理だろうと、菫がかわりに断る。
 そうすると、子供たちは残念そうな顔をして、さらに何かを楽し気に話し始めた。
 逞しい。
 うまくは行かないかもしれないけれど、自分たちのできる方法で困難に立ち向かおうとする力は素直に羨ましいと思った。

「あんた。巾上の壮太だろ?」

 楽しそうにこれからの話をする子供たちの姿を見つめながら、区長はケータの父親に話しかけた。恐らく巾上というのは屋号だ。

「あ。はい」

 ケータの父親は答える。彼も、この地域の生まれらしい。

「お前も、狐様の尻尾のご利益をいただいたクチだろうが。もう、諦めて、掃除くらいのお返しはしろ」

 ぽん。と、その背中を叩いて、区長が言う。

「真一さんだってそうでしょうが」

 シン坊と呼ばれていた区長。やはり、彼もここの出身で間違いないらしい。
 二人の会話に、壱狼と檀が、ぶは。と、笑いだす。

 そうして、諦めと、若かりし時代の恥ずかしい思い出と、子供たちの笑いの中で、この日の騒動は幕を閉じたのだった。
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