真鍮とアイオライト 1

司書Y

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月夕に落ちる雨の名は

20 祭 3

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「バカはどっちだよ!」

 ケータが自分の父親に食って掛かった。

「父さんさっき、言ったよな。遊んでばっかりで、勉強から逃げるなって。じゃあ、祭りを楽しんでおいて、神社のお掃除から逃げてる父さんたち大人はろくな大人じゃないんだな」

 ずばり。と、言い切られて、父親の口からは反論は出てこなかった。

「俺知ってるよ。黒羽祭の後、商店街の人たちが大通りの掃除してるんでしょ? だったら、俺たちはここの掃除したっていいじゃん。楽しませてもらったお礼したっていいじゃん。だめなの? なんで? なんでだよ?」

 父親の腕にしがみついて、ケータが問いかける。その必死な様子に気おされたように、ケータの父親は彼から目を逸らした。

「うるさい! 子供は黙ってろ。祭りはここの氏子がやってるんじゃないから、関係ねえんだよ」

 縋りつく手を振り払って、重機のある方に向かおうとした父親の前に、女の子二人が立ちはだかる。怯えた表情は残っているけれど、逃げない。と、強い意志が伝わってきた。

「俺。掃除とか、勉強とか嫌いだし、苦手だよ。サッカーとかゲームだけしてられたらいいと思うよ。でも、本当にそうしたら、なんか、友達の顔見てるのが嫌になった。自分はいらないのかなって思った。けど、すみれお兄さんが教えてくれた。苦手でも下手くそでもいいって。だから、俺は苦手な勉強もやることにした。そしたら、下手くそでも誰も笑わなかったし、俺はちゃんとみんなといるのが楽しくなった。
 だから、やる。掃除もする。ここがなくなったら、きっとお祭りに行っても、楽しくない。なくなっちゃうんだよ」

 なんだか、泣きそうな声になった少年が、自分の言ったことをしっかりと受け取ってくれていたのが、菫には嬉しかった。図書館司書をしていて、こんなに嬉しいと思ったのは久しぶりだった。

「だからって……」

「わかったよ。とりあえず……区の会議にかけてみよう」

 ため息交じりにそう言ったのは区長だった。諦観の籠った顔。けれど、その表情には多少なりとも安堵の色が混じっていたのに菫は気付いていた。

「ここに仮の社を置くことは氏子名簿の方に許可を取ってください」

 檀に向かって続ける。その言葉に、檀は頷いた。

「会議にはかけてみるが、ダメだった場合は氏子の方に管理をお願いすることになりますが、いいですか?」

「じゃあ、私氏子になります!」

 そう言って、チナが手を挙げた。

「なら、私も!」

 後ろにいたナナも手を挙げる。

「うちのばあちゃんは、氏子らしいよ? 元々?」

 ショウが言った。

「じゃあ、僕も」

 ユーマも言う。

「俺も!」

 ケータもさっきまでの泣き声はどこへやら、笑顔で手を挙げる。

「……ああ。なら、俺もいいですか?」

 と、何故か、鈴が片手を上げた。一斉にその場にいた全員の視線が鈴に集中した。

「あれ? ダメですか? うち、近所なんですけど」

 多分、注目を浴びているのは、氏子に立候補したからではないのだけれど、それは敢えて言わなかった。鈴がそんなふうに言ってくれるのも菫には嬉しかった。

「氏子になるのは総代が認めればいいけれど。運営の資金は区費からはでないよ?」

 そんなことは分かっている。恐らくはそれがそもそもの出発点だ。
 人手と資金の不足。それは、確実に何か方法を考えなければならない問題で、それが一番の難問だ。
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