真鍮とアイオライト 1

司書Y

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月夕に落ちる雨の名は

幕間 三食昼寝溺愛付き 後編 5

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「このまま、閉じ込めたい」

 冗談かと思った。けれど、鈴の顔は真剣だった。
 その手が髪を梳く。そのまま、頰を撫で、首筋を滑る。そして、二の腕を掠めて、ぎゅ。と、手首を握った。
 熱い。

「菫さんが、俺以外のこと考えてるのが嫌だし、ほかのヤツが菫さんのことほしいって思ってるのも嫌です。誰のことも見ていてほしくないし、誰の目にも触れさせたくない」

 菫の目を鈴は真っ直ぐに見つめる。痛いくらいに掴まれた手が、これが夢ではないのだと伝えていた。

「怖い……ですか?」

 鈴の問いに、菫はごくり。と、喉を上下させる。
 それから、ゆっくりと、はっきりと、首を横に振った。

「いいよ。鈴ならいい」

 捨てたくないものはたくさんある。
 兄。祖母。仕事。友達。それに縁。
 けれど、わかっている。
 それを全部合わせても、鈴の方を選ぶ自分がいること。

「だから、甘やかさないで」

 菫の答えに、やはり鈴は困ったような顔になる。そして、やはり隠せない歓喜。

「ごめんなさい。こんなことを言って。無理やり言わせたのに、菫さんの言葉。喜んでる」

 手を離す代わりにぎゅ。と、強く抱きしめられる。痛いほどの抱擁が堪らなく、心地良い。

「違うよ。鈴」

 だから、菫は言った。

「鈴にそんなことまで言ってもらって。喜んでるのは俺の方だ」

 菫は鈴の目を見返す。
 その言葉は本心だ。
 本当に閉じ込められたら、もしかしたら、息苦しくなる日が来るかもしれない。いや、きっと来るだろう。ただ、想像する。束縛したい。されたいと願う今の自分たちを否定したら、いつか鈴の、自分のどこかが壊れる。そうなったら、もう、直すことは不可能だ。

「菫さん……」

 菫だって分かっている。閉じ込めたい。なんて、ただの比喩だ。
 普通に考えたら、ただ、変な隠し事をせずに全部話して、鈴だけを好きだと伝え続ければ済むという話なのだ。今回のことだって、巻き込まれたときにすぐに鈴に助けを求めていれば、鈴を不安にさせることなんてなかった。
 ただそれだけのことなのだ。

「鈴になら。閉じ込められたって……いいよ」

 だから、そんなことを本気で考えているなんて、重いのは菫の方だ。
 それでも、言ってあげたかった。

「鈴になら何をされても」

 あの日『そんなものいない』と、無責任に言ったように。
 ただ、それは言葉にすると酷くありふれていて、陳腐に感じた。心を込めたつもりだけれど、まるで、三文芝居のようだ。

「俺は、鈴が好きだから」

 鈴が望んでいるように、言ってあげたい。自分が思っているように伝えたい。言っている言葉に嘘はないけれど、上手い言葉が見つからない。もどかしい。

 こんな言葉では鈴の不安は。怯えは消えないのに。

 と、心の中で呟いた、自分自身の言葉にはっとする。
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