真鍮とアイオライト 1

司書Y

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月夕に落ちる雨の名は

幕間 三食昼寝溺愛付き 後編 1

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 菫にとって、鈴は初めての人だ。
 鈴と出会うまで、菫は自分が異性愛者だということに疑いはなかった。というか、そのことについて考えたこともなかった。だからと言って、同性愛に偏見もない。今時、そんな友人が一人二人くらいはいるのも珍しくはない。そんな友人の性嗜好が友人関係に何の影響も与えることはなかったし、菫にとってそれは、その人物が猫が好きか犬が好きか。くらいの違いだった。

 菫は女性と付き合ったことがあるし、童貞でもない。ただ、あまりそっちの欲求が強いほうではなかったと思う。彼女は可愛い。一緒にいて楽しい。キスをすればドキドキするし、そばにいたら触れたくもなる。けれど、我慢できないくらいに相手を求めるなんてことは、記憶にはない。
 菫と付き合った女性は、大抵、別れ際に言うのだ。

『菫君。優しいし、大切にしてくれるけど、本当に私のこと好きなの?』

 その問いに菫だって『好きだよ』と、答える。けれど、そんな彼女たちの熱量と自分の熱量の違いに気付いてしまう。求められるほど、菫は相手を求めていない。愛情も、性欲も、我を忘れるほどに誰かを求めるということが、菫には理解できなかった。

 鈴に会うまでは。
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