真鍮とアイオライト 1

司書Y

文字の大きさ
上 下
342 / 392
月夕に落ちる雨の名は

15 北島鈴 1

しおりを挟む
 突然鳴る電話の音はどうしてあんなにも人を不安にさせるのだろう。

 家の電話の音が聞こえたとき、鈴は何故かそんなことを考えた。気のせいというには明確で、予感というには不確かで、不穏な何かが、心の奥の方から湧き上がってきたからだ。
 鈴は一戸建ての家に一人で暮らしている。もちろん、家は鈴の持ち物ではなく、鈴の父の名義だ。両親は今は共に海外で仕事をしていて帰ってくるのは多くても年に一回。正月くらいだ。兄弟は姉が一人。隣の市で彼氏と同棲している。頻繁に家に顔を出してはくれるが、基本的に鈴の方が几帳面だし、家事も得意だから面倒を見てくれるわけではない。ただの生存確認。と、いうよりも、彼氏と喧嘩をして家に居づらくなって避難してくるだけなのだ。
 だから、広い家に、鈴は一人だった。
 そんな大学生独り暮らしの家の家電に電話がかかってくるとしたら、殆どが世論調査か、太陽光発電の宣伝ばかりで、時折近所の自治会の連絡網が回ってくるくらいだった。

 いつもなら、無視していたと思う。居留守を使えばそのうち留守電に切り替わる。自治会の連絡網ならそこにメッセージを残してくれるから、問題ない。もちろん、友人が家に電話をかけてくることなんてあるはずがない。大体において家の電話番号を教えている友人はいない。

 とにかく、強いて電話に出る必要はなかったのだ。
 けれど、鈴は電話の前に立った。
 そして、ふと、不安に駆られた。
 3回。4回。コール音は続く。嫌な音だ。不安と一緒に焦燥感を煽られる。電話というものの特性上当たり前なのだが、早く出ないと。と、いう気持ちにさせられる。
 5回。6回。受話器に手を伸ばす。不安で、焦るのに、取りたいという気にはならない。悪いことがあるのではないかという不安を現実にしてしまいそうだとか、何か悪いことがあるのではと不安になっている自分自身がみっともないとか、理由はいくつかあった。
 7回。8回。もう少しで、留守電に切り替わってしまう。切り替わってからでも電話に出ることはできるのだから、慌てる必要などない。
 9回。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...