真鍮とアイオライト 1

司書Y

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月夕に落ちる雨の名は

2 またかよ 3

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「あの人の花嫁になってください」

「はあ!?」

 菫は真面目に話をしていたつもりだった。けれど、予想外の答えに思わず声が裏返ってしまった。さすがに、その答えは想像していなかった。

「そういう冗談は……」

「冗談じゃない!」

 揶揄われたのだと思って、半分笑いながら言いかけた菫を制して、新三が言う。

「嘘とか冗談じゃない。黒羽様の命がかかってるのに。そんな嘘つかない! 
 人との繋がりが必要なんだ。あの人が死んで。切れてしまった繋がりを結びなおせたら……」

 新三の真剣な表情に気おされて菫は何も言えなくなってしまった。どういう意味なのか、『あの人』とは誰なのか問いただすこともできない。

「社がなくても、人と繋がることはできる。一番簡単な方法は婚姻すること。ただ、誰でもいいってわけじゃない。黒羽様ほどの神使と番うことができる人間なんて今の世の中には殆どいない。だって……200年以上探した。けど……」

 そこまで言うと、新三は菫の両腕を掴んで顔を覗き込んできた。

「黒羽様には昔、番った相手がいた。その人が……死んでしまって。きっと、生きていても仕方ないって思ってる。
 その人がいなくなって、はじめて。黒羽様が名前を呼ぶことを許した。だから。きっと。あんたなら」

「ちょ。ま。……前提がおかしい」

 新三の表情に尋常でないものを感じて、菫は思わず言葉を遮った。

「花嫁って。君には俺が女の子に見えるわけ?」

 花嫁と言うからには普通は女性だ。まさかとは思うけれど、彼には自分が女性に見えているんだろうか。と、菫は不安になった。確かに今、菫は鈴と付き合ってはいるが、今まで女の子に間違われたことは一度もない。多分、就学前でもなかっただろうと思う。

「や。そう言うことじゃなくて。性別とか関係ない。ただ。深く関係を繋ぐことで道を作るだけ。普通なら社がその役目をする。たとえ、古くたって、管理して参る人間がいればいいけど。これじゃ……」

 新三が振り返る先には朽ち果てた社。管理するものがいないのは明白だ。お参りに来るものもいないだろう。そもそも、地元の子供ですらここに社があることを知らない。祭りはあれだけ盛大にやっているというのに、大元の社がこんな風だと、祭りの参加者は殆ど知らないだろう。

「一番いいのは、子を成すこと」

「え?」

 新三の言葉にまた、菫は聞き返した。

「子供がいるってことは、それだけで人の世界とあの人を繋げてくれる。だけど。あんたが男だってことくらい俺だって見れば分かってるよ。ただ。あんたは『特別』だ」

 社から菫に視線を移して、菫の顔を新三がじっと見つめる。その瞳はじっと菫の瞳を見ていた。

「なんで……そんな。なんだ?」
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