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錨草と紫苑
2 昔話とサッカーチーム 6
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ブラックフォクシーズのコーナーを見ている少年は目を輝かせていた。本を読むのは苦手と言っていたのに、選手のインタビューや、少年向けのサッカーテクニックの本を熱心に読んでいる。本が苦手。と、いうよりは、押し付けられたものを読むのが嫌なだけなのだろう。スポーツが得意な子は集中力が高い場合が多い。興味があることなら喜んで読書するし、覚えようとする。それが勉強する。ということなのだ。
「これって借りられるの?」
振り返った少年の表情はさっきの拗ねた顔など嘘のようだった。きらきらと光る瞳が菫を見つめている。
「もちろん。図書カード持ってる?」
貸出禁止の本でないことを確認して、菫が答える。
「持ってる。市内見学のときに作った」
ケータはポケットを探って、カードを取り出した。
「サッカー本当に好きなんだ」
本とカードを受け取って、カウンターに向かいながら訊ねると、ケータはうきうきとした足取りで菫の後を追いながら、大きく頷く。
「ユーマ君? だったかな。お友達も同じチーム?」
途端に少しだけ表情が曇る。忘れていたことを思い出してしまったのだろう。
「そう」
伏し目がちに応える様子は、面白くない。と、思っているのと同時に、やはり、皆が勉強しているのに、一人だけ好きなことをしていることに負い目を感じているのかもしれない。
「ユーマ君は、不真面目? だから、レギュラーなれないのかな?」
ケータの気持ちはなんとなく察していたけれど、菫は敢えてその話題を続けた。
「んーん。俺と同じくらい練習してる。4年生の頃より上手くなったけど、まだレギュラーじゃない。でも。5年生でレギュラーも俺ともう一人だけだから、あいつだけじゃないよ」
さっきは、得意げだったけれど、今度はどこか庇うような言い方だった。
それに気付ない振りをしながら、カウンターの中に立って、貸し出しの手続きを始める。
「ふうん。でも、ケータ君の方がサッカー上手いんだ。5年生で二人だけなんてすごいね」
素直に褒めると、ケータは少しはにかんだように笑う。
「監督もコーチも才能あるって褒めてくれる」
貸出の手続きが終わった本を渡して、返却日を告げると、ケータも、素直に本を受け取った。
「じゃあ、ユーマ君は要らないね?」
ありがとう。と、頭を下げながらそう言うと、はっとして、ケータは顔を上げた。
「え?」
努めて優しく話しかけていた菫が突然冷たいことを言い出したことに酷く驚いた表情で、ケータはその顔を見上げていた。
「レギュラーになれないへたくそなんだろ? 才能があるケータ君がいれば要らないじゃん」
そのケータの視線に非難の色が籠っていたのにも気付いていた。それでも、菫は冷たくそう言った。
「や。だって、サッカーはみんなでやるもんだし。一人じゃできないよ」
そうすると、今度はもごもごと言い訳でもするようにケータが言う。
「うん。一人じゃできないね」
もちろん、菫だってわかっている。分かっていて、敢えて言った。その言葉の方が、ケータには伝わると思ったからだ。
「でもさ。それって、サッカーだけ?」
だから、本当に言いたかったことを問いかける。
「あ……」
呟いて、ケータは下を向いてしまった。菫が言いたかったことに気付いてくれたようだった。
「これって借りられるの?」
振り返った少年の表情はさっきの拗ねた顔など嘘のようだった。きらきらと光る瞳が菫を見つめている。
「もちろん。図書カード持ってる?」
貸出禁止の本でないことを確認して、菫が答える。
「持ってる。市内見学のときに作った」
ケータはポケットを探って、カードを取り出した。
「サッカー本当に好きなんだ」
本とカードを受け取って、カウンターに向かいながら訊ねると、ケータはうきうきとした足取りで菫の後を追いながら、大きく頷く。
「ユーマ君? だったかな。お友達も同じチーム?」
途端に少しだけ表情が曇る。忘れていたことを思い出してしまったのだろう。
「そう」
伏し目がちに応える様子は、面白くない。と、思っているのと同時に、やはり、皆が勉強しているのに、一人だけ好きなことをしていることに負い目を感じているのかもしれない。
「ユーマ君は、不真面目? だから、レギュラーなれないのかな?」
ケータの気持ちはなんとなく察していたけれど、菫は敢えてその話題を続けた。
「んーん。俺と同じくらい練習してる。4年生の頃より上手くなったけど、まだレギュラーじゃない。でも。5年生でレギュラーも俺ともう一人だけだから、あいつだけじゃないよ」
さっきは、得意げだったけれど、今度はどこか庇うような言い方だった。
それに気付ない振りをしながら、カウンターの中に立って、貸し出しの手続きを始める。
「ふうん。でも、ケータ君の方がサッカー上手いんだ。5年生で二人だけなんてすごいね」
素直に褒めると、ケータは少しはにかんだように笑う。
「監督もコーチも才能あるって褒めてくれる」
貸出の手続きが終わった本を渡して、返却日を告げると、ケータも、素直に本を受け取った。
「じゃあ、ユーマ君は要らないね?」
ありがとう。と、頭を下げながらそう言うと、はっとして、ケータは顔を上げた。
「え?」
努めて優しく話しかけていた菫が突然冷たいことを言い出したことに酷く驚いた表情で、ケータはその顔を見上げていた。
「レギュラーになれないへたくそなんだろ? 才能があるケータ君がいれば要らないじゃん」
そのケータの視線に非難の色が籠っていたのにも気付いていた。それでも、菫は冷たくそう言った。
「や。だって、サッカーはみんなでやるもんだし。一人じゃできないよ」
そうすると、今度はもごもごと言い訳でもするようにケータが言う。
「うん。一人じゃできないね」
もちろん、菫だってわかっている。分かっていて、敢えて言った。その言葉の方が、ケータには伝わると思ったからだ。
「でもさ。それって、サッカーだけ?」
だから、本当に言いたかったことを問いかける。
「あ……」
呟いて、ケータは下を向いてしまった。菫が言いたかったことに気付いてくれたようだった。
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