214 / 392
錨草と紫苑
1 ケータとすみれおにいさん 1
しおりを挟む
「あ。いて……て」
一番低い書架へ、本を返そうとして屈んだ瞬間、菫はうめき声を漏らした。今日何回目だろう。多分。5回は同じことをしている。
S市立図書館2階閲覧室。いくつも並んだ書架の一番奥。世界一美しいシリーズの元素の図鑑の収めるべき場所は棚の一番下だ。やたらと重いその本を棚に返そうと屈んだ途端に、背中に痛みが走って固まってしまったのだ。
「池井くん大丈夫?」
後ろを通りかかった小柏が声をかけてきた。何故だろう満面の笑みだ。言葉の後ろについた♪マークが見えるようだ。
「だ……いじょうぶですよ? 別に何でもないです」
決してだいじょばないのだが、できる限りの笑顔を浮かべて、菫は答えた。精一杯なんでもない顔を作って立ち上がる。が、また背中にビキ。と、痛みが走って、引き攣った顔になってしまった。
「無理しなくてもいいんだよ~」
ひらひら。と、手を振って小柏は書架の向こうに消えた。担当の棚は同じ二階でも端と端なのに、今日に限ってやけに、菫の担当棚の近くまで来ている気がするのは、気のせいだろうか。
「気の所為……だよな?」
今朝は出勤時間ギリギリまで鈴といた。名残惜しい(/_;)とか、離してくれなかった(*´∀`*)とか、そういう色気のある話ではなく、単純に動けなかった。
普段使わない筋肉とか、用途違いの場所とか、喉とか、瞼とか……。とにかく身体中が痛くて、起き上がれなかったのだ。
鈴はそれをすごく心配して食事の用意してくれたし、着替えも手伝ってくれた。菫はと言えば、介護かよ。と、恥ずかしくて、情けなくなった。でも、鈴が何だかすごく楽しそうだから、止めてほしいとも言えず、黙ってされるがままに任せてしまった。
「すず……」
昨夜のことを思い出して、思わず頬が緩む。上手くはできなかったし、このざまだけれど、やっぱり、昨夜のうちに鈴に会えて、全部あげられてよかったと思う。
正直、何が何だか分からないうちに終わってしまったのは事実だ。事前情報のネットの記事でははじめから気持ちいいなんてないと、書いてあったから、覚悟していたのに意味わからんくらいに気持ちよかった。ネットに書いてあったことが嘘だったというよりも、鈴と自分の相性が良かったんじゃないかと思うと、なんだかそれも嬉しい。
とにかく。だ。菫は幸せだった。身体中が痛かろうと、声がカッスカスになっていようと、思い出し笑いをするたびにその表情の気持ち悪さに同僚にドン引きされようとも、間違いなく幸せだった。
そんなことを考えながら、また、一番下の棚に図鑑を戻そうとして、痛みに悶絶する。今日の菫に学習能力を期待してほしくない。痛い目に逢っても何度でも同じことをしてしまう。
一頻り痛みが去るのを待ってから、今度は慎重に本を戻して、菫は事務室へと向かった。
一番低い書架へ、本を返そうとして屈んだ瞬間、菫はうめき声を漏らした。今日何回目だろう。多分。5回は同じことをしている。
S市立図書館2階閲覧室。いくつも並んだ書架の一番奥。世界一美しいシリーズの元素の図鑑の収めるべき場所は棚の一番下だ。やたらと重いその本を棚に返そうと屈んだ途端に、背中に痛みが走って固まってしまったのだ。
「池井くん大丈夫?」
後ろを通りかかった小柏が声をかけてきた。何故だろう満面の笑みだ。言葉の後ろについた♪マークが見えるようだ。
「だ……いじょうぶですよ? 別に何でもないです」
決してだいじょばないのだが、できる限りの笑顔を浮かべて、菫は答えた。精一杯なんでもない顔を作って立ち上がる。が、また背中にビキ。と、痛みが走って、引き攣った顔になってしまった。
「無理しなくてもいいんだよ~」
ひらひら。と、手を振って小柏は書架の向こうに消えた。担当の棚は同じ二階でも端と端なのに、今日に限ってやけに、菫の担当棚の近くまで来ている気がするのは、気のせいだろうか。
「気の所為……だよな?」
今朝は出勤時間ギリギリまで鈴といた。名残惜しい(/_;)とか、離してくれなかった(*´∀`*)とか、そういう色気のある話ではなく、単純に動けなかった。
普段使わない筋肉とか、用途違いの場所とか、喉とか、瞼とか……。とにかく身体中が痛くて、起き上がれなかったのだ。
鈴はそれをすごく心配して食事の用意してくれたし、着替えも手伝ってくれた。菫はと言えば、介護かよ。と、恥ずかしくて、情けなくなった。でも、鈴が何だかすごく楽しそうだから、止めてほしいとも言えず、黙ってされるがままに任せてしまった。
「すず……」
昨夜のことを思い出して、思わず頬が緩む。上手くはできなかったし、このざまだけれど、やっぱり、昨夜のうちに鈴に会えて、全部あげられてよかったと思う。
正直、何が何だか分からないうちに終わってしまったのは事実だ。事前情報のネットの記事でははじめから気持ちいいなんてないと、書いてあったから、覚悟していたのに意味わからんくらいに気持ちよかった。ネットに書いてあったことが嘘だったというよりも、鈴と自分の相性が良かったんじゃないかと思うと、なんだかそれも嬉しい。
とにかく。だ。菫は幸せだった。身体中が痛かろうと、声がカッスカスになっていようと、思い出し笑いをするたびにその表情の気持ち悪さに同僚にドン引きされようとも、間違いなく幸せだった。
そんなことを考えながら、また、一番下の棚に図鑑を戻そうとして、痛みに悶絶する。今日の菫に学習能力を期待してほしくない。痛い目に逢っても何度でも同じことをしてしまう。
一頻り痛みが去るのを待ってから、今度は慎重に本を戻して、菫は事務室へと向かった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
Lv1だけど魔王に挑んでいいですか?
れく高速横歩き犬
BL
ちょっとおバカで前向きな勇者の総受け異世界ライフ!
助けたヒヨコごと異世界トリップした青年、世那。そこは人間と魔族が対立する世界だった。そして村人に勇者に仕立て上げられてしまう。
スライムすら倒せずにLv1のまま魔王城へ。
空から降ってきた世那を姫抱きキャッチしてくれたアルビノ美形アディはまさかの魔王だった!その魔王の魔王(アレ)に敗北しても、打倒魔王をあきらめずレベルを上げようとするが・・・吸血鬼や竜神族、獣人にまで目を付けられてしまう。
✼••┈┈⚠┈┈••✼
・R18オリジナルBL
・主人公総受け
・CPはほぼ人外
・小説に関して初心者ゆえ自由に楽しくがモットー。閲覧・お気に入り等ありがとうございます(*´ω`*)暖かく見守って下さると嬉しいです
・こちらの作品は、フジョッシー・ムーンライトノベルズでも掲載しております
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる