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市立図書館地下書庫奥、由緒正しき……
3 その上地下書庫にて
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「うん。うん。わかった」
誰に、と、相手を想定してはいない。いや、相手は自分自身だ。とにかく、起こっていることを整理したくて菫は言った。
「とにかく、本はダメ」
そう言って、落ちている本を手に取る。それから、そのすぐ上にある隙間に突っ込む。少し乱暴だったかもしれない。けれど、床に落ちているよりはマシだから許してほしい。
「俺、今日は忙しいんだ。また、今度構ってやるから……」
そう、言った瞬間、ちりん。と、鈴の音がした。いつものやつだ。鈴が持っている俺があげた鈴の音。
だから、『多分』から、『間違い無く』に変わる。間違いなく、なにか人ではないものがそこにいる。
「だからさ……」
バサバサ。と、何も触れていないのに本が落ちた。
「だから……本はヤメロって言ってんだろ」
焦りと苛立ちから、思わず語気が強くなってしまった。一瞬、強く言ってしまったのはまずかったか。と、思う。刺激してしまったかもしれない。そう言えば、あの黒い犬に脚立から落とされたのもこの地下書庫だ。またあんな目に逢ったら堪らない。
そう思ったのだが、リアクションはなかった。しん。と、静まる書庫。床に落ちた本を再び拾って書架に戻す。その沈黙が何だか反省しているように感じられて(まあ、これはあくまで俺の主観なのだが)少し言い過ぎたかな。と思ってしまう。
「なんか……他にも、こう。あるじゃん? 電気消すとかさ」
と、ぼそり。と、ダメ出しをした瞬間、一斉に電気が消えた。
素直というか、馬鹿正直というか、何というか、思わずため息が漏れる。
「でもさ。……俺、今日。ちょっとどうしても遅れたくない約束があるんだよね」
本が落ちようとも、電気が消えようとも、無視して帰ることはできた。怖くて逃げかえりました。で、許される範囲の話だ。だから、それをしなかったのはもう、お人好しと言われても仕方ないと思うし、きっと、あとで鈴には叱られると思う。
「だからさ。早めに済ませてくれる?」
ため息交じりにそう呟くと、ぱ。と、扉の前の電気だけがついた。
「現金だな……」
扉の前に立つ。開けろと言っているのは間違いないだろう。開けていいことがないのも間違いないだろう。悪意はなさそうだけれど、自分の感覚は当てにならないと菫は思う。今までに、あてになったためしがないからだ。
けれど、鈴が本当にヤバイものはそんなにいない。と、言っていたから、きっと、こんなところに本当にヤバイものなんていないだろう。たかが、築12年程度の鉄筋コンクリート。ましてや死者なんて出ているはずもないクリーンな建物だ。しかも、もう2年以上勤めている職場で、この閉架書庫もほぼ毎日何やかやで来ている場所。危険なものがいるとしたら、もっと前に会っているだろう。今まで何もなかったんだから、きっと大丈夫。
そんな言い訳めいたことを考えて、菫は半円型の取っ手を立ち上げた。
ちりん。
と、また、あの鈴の音が鳴る。
一瞬、ドアの形が揺らいだような気がした。思わず、手を引っ込める。目の錯覚だろうか。いや、そもそもが錯覚のようなものなのだ。どんなことが起こってもおかしくない。
意を決して、菫は取っ手を回してドアを引いた。
誰に、と、相手を想定してはいない。いや、相手は自分自身だ。とにかく、起こっていることを整理したくて菫は言った。
「とにかく、本はダメ」
そう言って、落ちている本を手に取る。それから、そのすぐ上にある隙間に突っ込む。少し乱暴だったかもしれない。けれど、床に落ちているよりはマシだから許してほしい。
「俺、今日は忙しいんだ。また、今度構ってやるから……」
そう、言った瞬間、ちりん。と、鈴の音がした。いつものやつだ。鈴が持っている俺があげた鈴の音。
だから、『多分』から、『間違い無く』に変わる。間違いなく、なにか人ではないものがそこにいる。
「だからさ……」
バサバサ。と、何も触れていないのに本が落ちた。
「だから……本はヤメロって言ってんだろ」
焦りと苛立ちから、思わず語気が強くなってしまった。一瞬、強く言ってしまったのはまずかったか。と、思う。刺激してしまったかもしれない。そう言えば、あの黒い犬に脚立から落とされたのもこの地下書庫だ。またあんな目に逢ったら堪らない。
そう思ったのだが、リアクションはなかった。しん。と、静まる書庫。床に落ちた本を再び拾って書架に戻す。その沈黙が何だか反省しているように感じられて(まあ、これはあくまで俺の主観なのだが)少し言い過ぎたかな。と思ってしまう。
「なんか……他にも、こう。あるじゃん? 電気消すとかさ」
と、ぼそり。と、ダメ出しをした瞬間、一斉に電気が消えた。
素直というか、馬鹿正直というか、何というか、思わずため息が漏れる。
「でもさ。……俺、今日。ちょっとどうしても遅れたくない約束があるんだよね」
本が落ちようとも、電気が消えようとも、無視して帰ることはできた。怖くて逃げかえりました。で、許される範囲の話だ。だから、それをしなかったのはもう、お人好しと言われても仕方ないと思うし、きっと、あとで鈴には叱られると思う。
「だからさ。早めに済ませてくれる?」
ため息交じりにそう呟くと、ぱ。と、扉の前の電気だけがついた。
「現金だな……」
扉の前に立つ。開けろと言っているのは間違いないだろう。開けていいことがないのも間違いないだろう。悪意はなさそうだけれど、自分の感覚は当てにならないと菫は思う。今までに、あてになったためしがないからだ。
けれど、鈴が本当にヤバイものはそんなにいない。と、言っていたから、きっと、こんなところに本当にヤバイものなんていないだろう。たかが、築12年程度の鉄筋コンクリート。ましてや死者なんて出ているはずもないクリーンな建物だ。しかも、もう2年以上勤めている職場で、この閉架書庫もほぼ毎日何やかやで来ている場所。危険なものがいるとしたら、もっと前に会っているだろう。今まで何もなかったんだから、きっと大丈夫。
そんな言い訳めいたことを考えて、菫は半円型の取っ手を立ち上げた。
ちりん。
と、また、あの鈴の音が鳴る。
一瞬、ドアの形が揺らいだような気がした。思わず、手を引っ込める。目の錯覚だろうか。いや、そもそもが錯覚のようなものなのだ。どんなことが起こってもおかしくない。
意を決して、菫は取っ手を回してドアを引いた。
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