176 / 392
シリアスまではほど遠い
おれのすーちゃん 3
しおりを挟む
「きゃあああっ」
しかし、そんな思いは突然響いた悲鳴にかき消された。
「え? え?」
もちろん、鈴の声でも菫の声でもない。その声は公園の外から聞こえてくるようだった。
顔をあげたところで、鈴と目が合う。
そうだった。ここは外だった。少なくとも男同士でイチャコラしているのにはあまり好ましい場所ではない。
一気に現実に戻されて顔が熱くなる。慌ててその腕の中から逃れると、鈴は惜しかったような、恥ずかしいような、気まずいような何とも言えない顔をしていた。
「いやぁああああ」
もう一度悲鳴が聞こえてきて、ようやく菫と鈴は声のする方へ走り出した。公園から道路に出てすぐのあたりに誰かがいるのが見える。
「どうしました?」
道路の端に座り込んで両手で頭を抱えているのは、四十代くらいの女性だった。駆け寄って声をかける。すると、きゃあ。と、声をあげ、近づかないでと、滅茶苦茶に手を振り回してきた。
「……ちょ。痛」
何発か頭をはたかれて(痛いというほどでもないけれど)困っていると、その腕を鈴が止めてくれた。
「落ち着いてください。何かあったんですか?」
鈴ができるだけ穏やかな声で問いただす。
すると、それで初めて声をかけてきた菫と鈴に気付いた様子で女性は大人しくなった。
「大丈夫ですか?」
茫然とした様子で口をパクパクさせている女性に問いかける。
「……足」
ぼそり。と、ようやく声が出るようになったらしい女性が言った。
「足だけがいたのよ! そこの植え込みの陰に。公園を覗くみたいな場所に!」
ありえないものを見た! と、興奮した様子で女性は続ける。けれど、菫は、いや、鈴も、女性が望むようなリアクションはできそうになかった。
そいつ知ってる。
と、心の中で二人は呟く。
「……はあ。足……ですか」
もう、足は見えなくなっている。近づけないようにしたと、鈴は言っていたから、菫が近づいてきた時点でどこかへ移動したのだろう。ふと見ると、遠く、さっきまで鈴と菫が座っていたベンチの向こう側に足が見える気がする。もちろん、上半身はない。
「嘘じゃないのよ! 本当に見たの。信じてよ」
別に信じていないわけではない。ただ、驚いていないだけだ。
どちらにせよ、錯乱状態のおばさんを一人残していくのはかわいそうな気がする。何といっても、足だけの霊が徘徊しているのは紛れもない事実なのだ。きっと、もう一度見たらおばさんは卒倒することだろう。
「あー。あの落ち着いて? 疑ってませんから。おうち近くですか? 送りましょうか?」
菫の提案に鈴が『ええ??』と、言う顔をしたことにおばさんが気付かなくてよかった。
そののち、夜の散歩途中のおばさんを近所にある家まで送り届けたり、落ち着いてきたおばさんが二人の関係を勘ぐって来たり、おばさんの家の娘が鈴の容姿に一目ぼれして寄って行けと散々誘われたりしているうちに二人の初デートは終わるのだった。
しかし、そんな思いは突然響いた悲鳴にかき消された。
「え? え?」
もちろん、鈴の声でも菫の声でもない。その声は公園の外から聞こえてくるようだった。
顔をあげたところで、鈴と目が合う。
そうだった。ここは外だった。少なくとも男同士でイチャコラしているのにはあまり好ましい場所ではない。
一気に現実に戻されて顔が熱くなる。慌ててその腕の中から逃れると、鈴は惜しかったような、恥ずかしいような、気まずいような何とも言えない顔をしていた。
「いやぁああああ」
もう一度悲鳴が聞こえてきて、ようやく菫と鈴は声のする方へ走り出した。公園から道路に出てすぐのあたりに誰かがいるのが見える。
「どうしました?」
道路の端に座り込んで両手で頭を抱えているのは、四十代くらいの女性だった。駆け寄って声をかける。すると、きゃあ。と、声をあげ、近づかないでと、滅茶苦茶に手を振り回してきた。
「……ちょ。痛」
何発か頭をはたかれて(痛いというほどでもないけれど)困っていると、その腕を鈴が止めてくれた。
「落ち着いてください。何かあったんですか?」
鈴ができるだけ穏やかな声で問いただす。
すると、それで初めて声をかけてきた菫と鈴に気付いた様子で女性は大人しくなった。
「大丈夫ですか?」
茫然とした様子で口をパクパクさせている女性に問いかける。
「……足」
ぼそり。と、ようやく声が出るようになったらしい女性が言った。
「足だけがいたのよ! そこの植え込みの陰に。公園を覗くみたいな場所に!」
ありえないものを見た! と、興奮した様子で女性は続ける。けれど、菫は、いや、鈴も、女性が望むようなリアクションはできそうになかった。
そいつ知ってる。
と、心の中で二人は呟く。
「……はあ。足……ですか」
もう、足は見えなくなっている。近づけないようにしたと、鈴は言っていたから、菫が近づいてきた時点でどこかへ移動したのだろう。ふと見ると、遠く、さっきまで鈴と菫が座っていたベンチの向こう側に足が見える気がする。もちろん、上半身はない。
「嘘じゃないのよ! 本当に見たの。信じてよ」
別に信じていないわけではない。ただ、驚いていないだけだ。
どちらにせよ、錯乱状態のおばさんを一人残していくのはかわいそうな気がする。何といっても、足だけの霊が徘徊しているのは紛れもない事実なのだ。きっと、もう一度見たらおばさんは卒倒することだろう。
「あー。あの落ち着いて? 疑ってませんから。おうち近くですか? 送りましょうか?」
菫の提案に鈴が『ええ??』と、言う顔をしたことにおばさんが気付かなくてよかった。
そののち、夜の散歩途中のおばさんを近所にある家まで送り届けたり、落ち着いてきたおばさんが二人の関係を勘ぐって来たり、おばさんの家の娘が鈴の容姿に一目ぼれして寄って行けと散々誘われたりしているうちに二人の初デートは終わるのだった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる