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シリアスまではほど遠い
帰り道 2
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いつも通り少し冷たくて、大きくて節の高い鈴の手。ひやりとして心地いい。
「探してましたよ。ずっと」
鈴の手に握られていたものが、菫の手に触れる。鈴の手が離れると、菫はその手を開いた。
「これ……」
青い石が付いたストラップだった。鈴は元々金色だったはずだが、くすんだ銀に変わっているし、ストラップのひもの部分は違うものになっているけれど、間違いない。菫には見覚えがあった。
「え? なんで、鈴君がこれもってんの?」
驚いて鈴の顔を見ると、少し複雑な顔をして苦笑する。
「……昔。その。すず。って、うまく発音できなくて」
「は? え? じゃ、え? 『すーちゃん』?」
菫の動揺に、鈴は顔を赤くした。
散々、美少女とか、可愛い女の子とか言われていたのだから、当然かもしれない。さっき『可愛い女の子にあった』と、話した時の微妙な表情はそのせいだったのかと合点がいった。
でも、どう見ても美少女にしか見えなかったのも確かだ。今見ても多分勘違いするだろう。
「小学校上がるくらいまでは、背も低かったし、女の子とよく間違われてて……たぶん。池井さんだけじゃないと思いますけど」
恥ずかしそうに頬を染める鈴の顔をまじまじと見つめる。確かに、あの子の面影はあった。
「でも……そか。会いに来てくれなかったの。そんな理由だったんですね。よかった。ガキ相手だから。適当にあしらわれたのかと思ってた」
そう言って鈴は嬉しそうに笑った。その顔が少女の面影に重なる。
「俺ね。初めてだったんです。俺の周りはみんな見える人ばっかで。そういうもの持っている人は、持ってない人を助けるのが当たり前だって言われて育って。でも、怖かった。だから、池井さんに『いない』って、言ってもらえたのが嬉しかったんです」
鈴の手がもう一度菫の手の上に重なる。ストラップの上から菫の手を握る大きな手はいつも通り少し冷たい。鈴の手だと実感できる。
そこで、菫ははっと気づいた。
「……もしかして、最初に『いない』って言ったのって……?」
鈴は恥ずかしかったからなんて誤魔化していた。
「はい。俺はそう言ってもらえて、救われたから。
あなたにも。救われて、ほしかった」
鈴の言葉に、鳩尾のあたりがぎゅ。と、苦しくなる。そんな言葉に救われるほど怯えていた鈴の少年時代を思って。それをずっと忘れずにいてくれたことを知って。忘れずに返してくれたことが嬉しくて。気持ちが溢れてしまいそうだった。
「……ヤバい。俺。鈴君のこと好き過ぎてどうしていいかわかんない」
呟くようにいうと、不意に抱きしめられた。ぎゅ。と、強く。
「いいです。わけわかんなくなってください」
ここが、外だってこと、一瞬だけ頭をかすめるけれど、耳元に鈴の声がしたらもう、どうでもよくなった。散々叶わないと我慢し続けて、叶えた想いは強くなっていくのを止めることなんて不可能だった。
「……あの。……キスしても。いいですか?」
鈴の両手が頬を包み込む。すごく真剣な目で見つめられて、問いかけられて、嫌なんて言う言葉は思い付きもしなかった。
「……そんなこと、聞かなくていいから」
していいよ。と、続けようとした言葉は鈴の唇に塞がれて消える。
鈴の唇は掌と同じように少し冷たい。すごくいい匂いがする。重ねるだけの思春期みたいなキスはほんの一瞬だったけれど、砂糖菓子みたいに甘くて、夢を見ているみたいだった。
「探してましたよ。ずっと」
鈴の手に握られていたものが、菫の手に触れる。鈴の手が離れると、菫はその手を開いた。
「これ……」
青い石が付いたストラップだった。鈴は元々金色だったはずだが、くすんだ銀に変わっているし、ストラップのひもの部分は違うものになっているけれど、間違いない。菫には見覚えがあった。
「え? なんで、鈴君がこれもってんの?」
驚いて鈴の顔を見ると、少し複雑な顔をして苦笑する。
「……昔。その。すず。って、うまく発音できなくて」
「は? え? じゃ、え? 『すーちゃん』?」
菫の動揺に、鈴は顔を赤くした。
散々、美少女とか、可愛い女の子とか言われていたのだから、当然かもしれない。さっき『可愛い女の子にあった』と、話した時の微妙な表情はそのせいだったのかと合点がいった。
でも、どう見ても美少女にしか見えなかったのも確かだ。今見ても多分勘違いするだろう。
「小学校上がるくらいまでは、背も低かったし、女の子とよく間違われてて……たぶん。池井さんだけじゃないと思いますけど」
恥ずかしそうに頬を染める鈴の顔をまじまじと見つめる。確かに、あの子の面影はあった。
「でも……そか。会いに来てくれなかったの。そんな理由だったんですね。よかった。ガキ相手だから。適当にあしらわれたのかと思ってた」
そう言って鈴は嬉しそうに笑った。その顔が少女の面影に重なる。
「俺ね。初めてだったんです。俺の周りはみんな見える人ばっかで。そういうもの持っている人は、持ってない人を助けるのが当たり前だって言われて育って。でも、怖かった。だから、池井さんに『いない』って、言ってもらえたのが嬉しかったんです」
鈴の手がもう一度菫の手の上に重なる。ストラップの上から菫の手を握る大きな手はいつも通り少し冷たい。鈴の手だと実感できる。
そこで、菫ははっと気づいた。
「……もしかして、最初に『いない』って言ったのって……?」
鈴は恥ずかしかったからなんて誤魔化していた。
「はい。俺はそう言ってもらえて、救われたから。
あなたにも。救われて、ほしかった」
鈴の言葉に、鳩尾のあたりがぎゅ。と、苦しくなる。そんな言葉に救われるほど怯えていた鈴の少年時代を思って。それをずっと忘れずにいてくれたことを知って。忘れずに返してくれたことが嬉しくて。気持ちが溢れてしまいそうだった。
「……ヤバい。俺。鈴君のこと好き過ぎてどうしていいかわかんない」
呟くようにいうと、不意に抱きしめられた。ぎゅ。と、強く。
「いいです。わけわかんなくなってください」
ここが、外だってこと、一瞬だけ頭をかすめるけれど、耳元に鈴の声がしたらもう、どうでもよくなった。散々叶わないと我慢し続けて、叶えた想いは強くなっていくのを止めることなんて不可能だった。
「……あの。……キスしても。いいですか?」
鈴の両手が頬を包み込む。すごく真剣な目で見つめられて、問いかけられて、嫌なんて言う言葉は思い付きもしなかった。
「……そんなこと、聞かなくていいから」
していいよ。と、続けようとした言葉は鈴の唇に塞がれて消える。
鈴の唇は掌と同じように少し冷たい。すごくいい匂いがする。重ねるだけの思春期みたいなキスはほんの一瞬だったけれど、砂糖菓子みたいに甘くて、夢を見ているみたいだった。
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