真鍮とアイオライト 1

司書Y

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かの思想家が語るには

理不尽すぎるだろ 1

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 翌朝、目覚めた時には酷い二日酔いだった。
 頭がガンガンと痛んで、瞼が腫れて目を開けることすらできない。鏡で顔を確認すると酷いもので、一日寝て過ごすことを早々に決めた。

 酔っぱらって駅まで迎えに来させたのに、兄ちゃんは何も言わなかった。戌井の方を見もしないで、ふらふらになった俺に肩を貸して家まで連れかえって、トイレに籠った俺に水を持ってきてくれて、背中を擦ってくれて、泣いてばかりいる俺に何も聞かないで、ただ、頭を撫でてくれた。それから、朝にはTKGだけ食って、『今日は弁当いらん』と言って、放っておいてくれた。
 そんな兄ちゃんの優しさが余計に俺の涙腺をダメダメにしていたのは言うまでもない。

 酒を飲んでも(と言ってもチューハイ一缶だが)、戌井の失恋談を阿呆ほど聞いても、最早隠すこともできないで鈴のことをどんなに好きかとか、フラれて辛いとか、期待させないでほしいとか、こっぱずかしい愚痴を散々ぶちまけても、一晩寝ても、気持ちが浮上することはなかった。
 女の子の『好きだよね?』に、『ああ』と、応えた鈴の声が何度も繰り返し聞こえるような気がする。頭を振っても、耳を塞いでも消えない。聞こえた気がするたびに最初に聞いたときと同じだけ心が痛む。

 きっと、こんな気持ちで鈴に会うことなんてできない。会ったら、涙腺壊れる。壊れて全部バレてしまう。
 せめて友達ではいたいという思いすら、今は持てない。会うのが辛すぎて、でも、会えなくなるのも辛すぎて、どうしていいのかわからない。本気でもう、消えてしまいたい。

 自室で布団にもぐったまま、そんなことばかりを考えていた。

「菫」

 自室の外から声が聞こえて、俺は布団からのっそりと顔を出した。この声はばあちゃんの声だ。

「なに?」

 頭がガンガンと痛んだけれど、頭を抱えて俺は応えた。ほかの人ならいざ知らず、俺はばあちゃんにはとことん弱い。兄ちゃんと俺が普通に大人になれたのはばあちゃんのお陰だと思っているからだ。

「寝てるところ悪いんだけどね。百瀬薬局に薬取りに行ってくれんか?」

 ばあちゃんは、元々かなり元気な人だ。80を過ぎる頃まで、どこでも自分で運転して出かけていた。けれど、さすがに80も半ばに近づいて、それも無理になって、俺や兄ちゃんがかわりに用を足すのが普通になっている。それでも、きっと、俺の体調を思ってくれているのだろう。遠慮がちに言われたら、断ることなんて考えられない。

「いいよ。大丈夫。行ってくる」

 だから、俺はロキ〇ニンを飲んで、歩いて片道30分ほどの馴染の薬局へ出かけた。
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