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かの思想家が語るには
霊道と裏通り 2
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けれど、今、俺のそばにいるのは違うものだと俺は確信している。
あいつ。だ。
朝、家の前にいたあいつが、書棚の向こうから顔を半分出して見ていた。
出勤時、どうにかして家から引き離そうと思っていたのだが、結局何もしなくても、俺の後をついてきた。車の出勤を諦めて、そいつの前を思い切って徒歩で横切ったら、朝の光の下のせいか随分と色が薄くなって、分かりづらくなっていたが、嬉しそう(?)ににたにた笑いながら、電信柱の間を瞬間移動するみたいにしてついてきた。実際には電信柱の間も高速で移動しているようだが、薄くなりすぎて見えない。
さわさわ。と、聞こえるのは多分、あの『みつけた』だろう。ただ、声は家の前にいた時よりずっと小さい。聞き取れるほどではないから、違うことを言っている可能性もある。
けれど、あいつであることには間違いなさそうだ。
太陽光は地下書庫にはささない。本の保管をする場所なのだから当たり前だが、照明は多くなく、温度や湿度は一定で外が昼なのか夜なのかは分からない。それでも、不思議なことに、こいつもそうだが、ほかの人の目に見えないそれらも昼夜の影響を受ける。と。俺は経験上思っている。今まで見たヤツは殆ど昼間には見えなかったり、薄くなったりしていた。太陽光が当たらない日陰だと言っても、昼間だという意識が彼らの存在を希薄にする。
声が聞こえにくくなっているのも、若干後ろが透けて見えているのもおそらくはそれが原因だろう。
それは、そいつがあまり心配するほど危険なものではないのも意味している。と、経験則で思う。まあ、いつもの通り俺の感覚なんて当てにならないのだけれど。
どちらにせよ、俺にはそれをどうこうする能力なんて便利なものはない。だから、完全に無視を決め込んでいた。慣れてしまえば昼間はそれほどうるさいわけでもないし、カウンターの近くの柱の陰から覗いていてもほかに気付く人もいないので、いないのと同じだ。
たまに子供が近くを通って、立ち止まってじっとそちらを見る。そうすると、にやにや笑っていた男?からは、笑顔が消えて、すす。と、影の中に消える。子供が首をひねって去っていくと、また、現れては俺を見て、にやぁ。と、笑うのが、何とも言えず気持ち悪い。
まさに、ストーカーというのがぴったりだと思った。
地下書庫に入ってからは、他の人がいないので、かなり近くの書棚の陰まで寄ってきている。
それでも、俺は極力そいつのことは気にしないようにしていた。視線が合うと、笑みが濃くなるのが気持ち悪いからだ。
視線を感じながらも、書棚の上の方に返す本があったから、脚立を取りに向かう。その時に、そいつの方に一歩進むと、相手は少し下がる。また一歩進むと、ふ。と、消えて別の棚の陰(明らかに人が入るようなスペースがない場所)に移って、上の棚板としたの棚の本の間からこちらを見ていた。いや、前に言った通り、目はない。だから、目がある位置が棚の間から見えたと言った方がいいだろうか。
ため息をついて、俺は脚立を抱えた。それから、元の書棚と書棚の間の場所に戻って、請求記号を確認して、脚立を立てる。ちら。と、見ると、にやにや男はまた移動したのか、別の棚の下の方に黒い影が見えた。何故だろう、すごく嫌な感じがする。予感。なんていう確かなものではなくて、感覚的には2・3度温度が下がったような感覚だった。
いかん。意識したら負けだ。と、思い直して、本を抱えて脚立に上る。
あいつ。だ。
朝、家の前にいたあいつが、書棚の向こうから顔を半分出して見ていた。
出勤時、どうにかして家から引き離そうと思っていたのだが、結局何もしなくても、俺の後をついてきた。車の出勤を諦めて、そいつの前を思い切って徒歩で横切ったら、朝の光の下のせいか随分と色が薄くなって、分かりづらくなっていたが、嬉しそう(?)ににたにた笑いながら、電信柱の間を瞬間移動するみたいにしてついてきた。実際には電信柱の間も高速で移動しているようだが、薄くなりすぎて見えない。
さわさわ。と、聞こえるのは多分、あの『みつけた』だろう。ただ、声は家の前にいた時よりずっと小さい。聞き取れるほどではないから、違うことを言っている可能性もある。
けれど、あいつであることには間違いなさそうだ。
太陽光は地下書庫にはささない。本の保管をする場所なのだから当たり前だが、照明は多くなく、温度や湿度は一定で外が昼なのか夜なのかは分からない。それでも、不思議なことに、こいつもそうだが、ほかの人の目に見えないそれらも昼夜の影響を受ける。と。俺は経験上思っている。今まで見たヤツは殆ど昼間には見えなかったり、薄くなったりしていた。太陽光が当たらない日陰だと言っても、昼間だという意識が彼らの存在を希薄にする。
声が聞こえにくくなっているのも、若干後ろが透けて見えているのもおそらくはそれが原因だろう。
それは、そいつがあまり心配するほど危険なものではないのも意味している。と、経験則で思う。まあ、いつもの通り俺の感覚なんて当てにならないのだけれど。
どちらにせよ、俺にはそれをどうこうする能力なんて便利なものはない。だから、完全に無視を決め込んでいた。慣れてしまえば昼間はそれほどうるさいわけでもないし、カウンターの近くの柱の陰から覗いていてもほかに気付く人もいないので、いないのと同じだ。
たまに子供が近くを通って、立ち止まってじっとそちらを見る。そうすると、にやにや笑っていた男?からは、笑顔が消えて、すす。と、影の中に消える。子供が首をひねって去っていくと、また、現れては俺を見て、にやぁ。と、笑うのが、何とも言えず気持ち悪い。
まさに、ストーカーというのがぴったりだと思った。
地下書庫に入ってからは、他の人がいないので、かなり近くの書棚の陰まで寄ってきている。
それでも、俺は極力そいつのことは気にしないようにしていた。視線が合うと、笑みが濃くなるのが気持ち悪いからだ。
視線を感じながらも、書棚の上の方に返す本があったから、脚立を取りに向かう。その時に、そいつの方に一歩進むと、相手は少し下がる。また一歩進むと、ふ。と、消えて別の棚の陰(明らかに人が入るようなスペースがない場所)に移って、上の棚板としたの棚の本の間からこちらを見ていた。いや、前に言った通り、目はない。だから、目がある位置が棚の間から見えたと言った方がいいだろうか。
ため息をついて、俺は脚立を抱えた。それから、元の書棚と書棚の間の場所に戻って、請求記号を確認して、脚立を立てる。ちら。と、見ると、にやにや男はまた移動したのか、別の棚の下の方に黒い影が見えた。何故だろう、すごく嫌な感じがする。予感。なんていう確かなものではなくて、感覚的には2・3度温度が下がったような感覚だった。
いかん。意識したら負けだ。と、思い直して、本を抱えて脚立に上る。
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