84 / 392
番外編 番犬と十七夜
騎士の本分 2
しおりを挟む
雪は相変わらず降り続いていた。ただ、風は随分と穏やかになって、上から下へと静かに白い欠片が落ちていく。
葉はさっきから、何も言わず貴志狼の首に手を回して、身体を預けきっていた。治まってきているけれど、時折、しゃくりあげるように、びくり、と、揺れる身体。
静かな夜に葉がすん。と、鼻をすする音が聞こえて、罪悪感に胸がつまる。
少しでも早く、せめて着替えだけでもさせてやりたいと、貴志狼は雪に取られる足を早めた。
葉は見合いだと思っていた今日の会食(とは名ばかりのただの宴会)は、組織の中でも大派閥の組長就任の祝いだとかなんだとか、貴志狼にとっては、本当にどうでもいいことだった。もちろん、葉のことの方が重大であることは間違いない。と、いうよりも、貴志狼にとって、葉のことより優先されることなど何もない。
それなのに葉からのLINEを見逃していたのは痛恨の極みだった。
そもそも、晴興の性格上、葉を雪の中一人で帰すなんていう選択肢が万が一にもあるとは想像していなかった。たとえ葉が固辞したとしても、家まで送り届けるだろうと高を括っていた。
さらに言えば、姉婿の敦に貴志狼は逆らえない。逆らえないのをいいことに、祖父・壱狼は敦を使って、貴志狼を思い通りに動かそうとする。じじいのくせに小賢しい。と、思うけれど、それでも逆らえない自分がいるのに貴志狼も気づいていた。その、敦の無言の圧力がなければ、面倒くさい宴会などさっさと抜け出していただろう。
とにかく、貴志狼が葉のLINEに気付いて、慌てて返信を送ったり、キレながら宴席を抜け出した頃には葉は雪の中を一人で歩いていた。
雪の中で、葉の姿を見つけた時は、本気で心臓が止まった。
思わず、声を荒げてしまったのは、怒っていたからではなくて、心配しすぎで、パニックになっていたからだ。
よく考えなくても、悪いのは葉ではない。迎えに行ってやるとLINEしたのは、貴志狼だ。貴志狼がさっさと返信していれば、どこかで落ち合うことができたかもしれないし、連絡がとれていれば葉も雪の中を歩くなんて無茶はしなかったはずだ。
腕の中で、貴志狼に全て委ねきった、葉の身体は軽い。大雪で足場が悪い中で抱き上げて歩くのに困らないくらいに軽い。それだけでも心配になるのに、着ていたダウンは中まで濡れるほどずぶ濡れで、小刻みに震え、冷え切った足は硬く強張って本人は動かそうとしているらしいが、余計に強張るばかりで、動く気配はない。
葉にしてみればこんな雪の中を歩いたことなど、事故以来一度もなかっただろう。寒かっただろうし、痛みもあったと思う。もちろん、動かなくなっていく足に恐怖したことだろう。
それを想像すると、余計に罪悪感がつのって抱きしめる腕に力がこもる。
少しでも、自分の体温をわけてやりたい。少しでも、不安を取り除いてやりたい。
葉はさっきから、何も言わず貴志狼の首に手を回して、身体を預けきっていた。治まってきているけれど、時折、しゃくりあげるように、びくり、と、揺れる身体。
静かな夜に葉がすん。と、鼻をすする音が聞こえて、罪悪感に胸がつまる。
少しでも早く、せめて着替えだけでもさせてやりたいと、貴志狼は雪に取られる足を早めた。
葉は見合いだと思っていた今日の会食(とは名ばかりのただの宴会)は、組織の中でも大派閥の組長就任の祝いだとかなんだとか、貴志狼にとっては、本当にどうでもいいことだった。もちろん、葉のことの方が重大であることは間違いない。と、いうよりも、貴志狼にとって、葉のことより優先されることなど何もない。
それなのに葉からのLINEを見逃していたのは痛恨の極みだった。
そもそも、晴興の性格上、葉を雪の中一人で帰すなんていう選択肢が万が一にもあるとは想像していなかった。たとえ葉が固辞したとしても、家まで送り届けるだろうと高を括っていた。
さらに言えば、姉婿の敦に貴志狼は逆らえない。逆らえないのをいいことに、祖父・壱狼は敦を使って、貴志狼を思い通りに動かそうとする。じじいのくせに小賢しい。と、思うけれど、それでも逆らえない自分がいるのに貴志狼も気づいていた。その、敦の無言の圧力がなければ、面倒くさい宴会などさっさと抜け出していただろう。
とにかく、貴志狼が葉のLINEに気付いて、慌てて返信を送ったり、キレながら宴席を抜け出した頃には葉は雪の中を一人で歩いていた。
雪の中で、葉の姿を見つけた時は、本気で心臓が止まった。
思わず、声を荒げてしまったのは、怒っていたからではなくて、心配しすぎで、パニックになっていたからだ。
よく考えなくても、悪いのは葉ではない。迎えに行ってやるとLINEしたのは、貴志狼だ。貴志狼がさっさと返信していれば、どこかで落ち合うことができたかもしれないし、連絡がとれていれば葉も雪の中を歩くなんて無茶はしなかったはずだ。
腕の中で、貴志狼に全て委ねきった、葉の身体は軽い。大雪で足場が悪い中で抱き上げて歩くのに困らないくらいに軽い。それだけでも心配になるのに、着ていたダウンは中まで濡れるほどずぶ濡れで、小刻みに震え、冷え切った足は硬く強張って本人は動かそうとしているらしいが、余計に強張るばかりで、動く気配はない。
葉にしてみればこんな雪の中を歩いたことなど、事故以来一度もなかっただろう。寒かっただろうし、痛みもあったと思う。もちろん、動かなくなっていく足に恐怖したことだろう。
それを想像すると、余計に罪悪感がつのって抱きしめる腕に力がこもる。
少しでも、自分の体温をわけてやりたい。少しでも、不安を取り除いてやりたい。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる