真鍮とアイオライト 1

司書Y

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真鍮とアイオライト

真鍮とアイオライト 2

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 帰ってきました。

 会えなかったけれど、鈴は何度かメッセージをくれた。あの夜の月のことと同じように、他愛もないことだったけれど、嬉しかった。画面に鈴の名前を見つけるとそれだけで、心が跳ねた。
 最初は、会えなければ、この気持ちはすぐに萎んでしまうと思っていた。鈴はちょっとその辺にいるようなただのイケメンじゃなくて、多分人類の98%くらいが認めるくらいの完成度だから、優しくされて舞い上がってしまっているんだと思っていた。本当に綺麗なものには男女とかそう言うの関係ないんだと、思い知らされた。
 けど、結局俺は男だし、優しくしてくれるって言っても、それは、友人としてだってことは、ちゃんと理解している。だから、冷静になって考えれば、友達として楽しく付き合っていければそれが一番いいって、結論には達した。

 しゅぽん。
 手の中のスマホがまた、違う鳴き声で着信を知らせる。
 目を落として、俺はため息をついた。結論は出たはずなのに。

 お土産あります。
 会えないですか?

 冷静になんてなれるわけない。
 たった、16文字だ。いや、最初のも合わせたら、24文字。
 たったそれだけで、もう、鈴のことばかり考えてる。
 笑ってる顔が見たいとか、名前を呼んでほしいとか、あの低い声が聞きたいとか。
 もう、なんというか、昭和の少女漫画みたいなことを考えている自分がいて、気持ち悪っ。と、思うし、異常だと頭では理解しているけれど、止まらない。正直どうしてここまで自分が鈴に執着しているのかわからない。わからないけれど、多分それが…。

 そこまで考えて、俺ははっとした。兄ちゃんとばあちゃんがじぃっ。と、俺の顔を見つめている。ばあちゃんは、にこにこ笑いながら。兄ちゃんは、眉間に皺を寄せている。
 ガン見。という言葉がまさにぴったりくるような凝視だ。

『…お前』

 兄ちゃんが、口を開く。

『あー。や。うん。ちょっと、散歩してくる』

 兄ちゃんが続きを話す前に、俺は炬燵から出た。一瞬、外で強い風が吹いたのかガタガタと雨戸がなる。出ていくのを止められているような気がしたけれど、ここにいるのは気まずすぎて、俺は逃げるようにふすまを開けて廊下に出た。

『菫』

 後ろで兄ちゃんの声がしたけれど、聞こえないふりをする。今は追及されたら隠し通せない気がするから、俺は、ごめん。と、兄ちゃんに心の中で手を合わせながら、自室に向かった。
 もちろん、その途中で、大丈夫。会えるよ。と、鈴に返事をする。
 いつもより、足が軽く動かせるような気がする。

 寝正月で立ち仕事の疲れも癒えたかな?

 なんて、口には出さずに呟くけれど、本当は軽いのは気持ちの方だと分かっている。
 鈴に会える。偶然じゃなくて、会いたいと思って会いに来てくれる。その目的が何であっても、それだけで舞い上がってしまう単純な俺であった。
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